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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人
174/185

第174話「決戦-1」

本日から2話更新になりますのでよろしくお願いします。

 陽は完全に落ち、生徒たちが校庭の中央に作られた巨大な焚火の周囲に集まっていた頃。

 それは唐突にやってきた。


「……!?」

「ティタン君?」

 生徒たちの様子を遠巻きに眺めていた俺の本能に、自分の縄張りに何者かが侵入してきたという感覚が来る。

 それも一人二人ではなく、何人もの人間が、誰かに操られているかのような不自然な足取りでだ。

 こんな足取りでやって来る存在など……一人しかあり得ない。


「行きます!」

「はっ!?まっ……」

 故に俺は困惑するデコン先生を尻目に、闇の中へと駆け出す。

 『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』を解除して血の色を黒くすると共に大量の魔力の得つつ。

 『能力(アッスーム)詐称(ヒュムパラメタ)』を解除して耳が長くなるのと同時に人外の身体能力を得つつ。

 例の獣の暗視能力によって最早昼と同じように見えるオース山へと向かって真っ直ぐに。


「……」

『ぬっ、これは……!?全組に緊急通達じゃ!』

 背後から学園長の慌てた声が微かにだが聞こえてくる。

 どうやら学園長の方でもイマジナたちを感知したらしい。

 ならばもう校庭組は心配要らないし、オース山組にも直ぐに危険が迫っている事は伝えられるだろう。

 であれば、俺はいち早くその場に辿り着き、俺のやる事に専念すればいい。


「すぅ……」

 闇の塔、光の塔、そして用務員小屋の脇を抜けた俺は、オース山の入り口付近にある木々の中で最もよくしなりそうな樹を見つけると、素早くその梢にまで登る。

 そして体重を一時的に本来の重さに戻す事で樹を大きく曲げて力を蓄えさせる。


「ふんっ!」

 俺は十分に樹が曲がったところで体重を人間のそれに戻し、樹を跳ね返させる。

 そうして樹が跳ね返り、勢いが最高に達した所で俺は梢を蹴って更に加速、月夜の空に向かって飛び出し、一気に山を跳ね上がる。


「……」

 月夜に舞い上がった俺は直ぐに縄張りを侵した者が居るであろう場所と、メルトレスが居るであろう場所を見る。

 メルトレスは既にオース山組が集まっている場所には居なかった。

 どうやら自分が狙われている事を考え、ソウソーさんに連れられる形で、ゲルドとイニムの二人と共に集団から離れたようだった。

 そして縄張りを侵した者が居るであろう場所には……俺の想像通りの人間が居た。


『やれやれ、一体どうやって私の存在に気付いたのやら』

「見つけたぞ……」

 縄張りを侵した者の顔には見覚えがあった。

 黒い髪に金の目以外に特徴という物を持たないその男の顔は、先月の王族主催のオースティア城での舞踏会でメルトレスに対して悍ましい殺気を向けた男の顔だった。

 そして、直感的に察する。

 この男こそがイマジナ・ミナタストであると。


「すぅ……」

 何故かイマジナの声のようなものが聞こえたがそれはどうでもいい事である。

 俺は呼吸を整えつつ、背中にあるベグブレッサーの弓を構え、それらの行動と同時にイマジナとイマジナの周囲の人影を確認する。

 イマジナの周囲の人影は……まず間違いなく捜索隊の人間のなれの果てだった。

 生きている気配はしない。

 どうやらイマジナは死体を操っているようだった。


『まったく、これだから天才と言うのは困るのですよ』

 イマジナ自身は慌てた様子もなく、右手に奇妙な杖を持って俺の方を見ていた。

 いや、アレは杖ではないか。

 杖の形は取っているが、明らかにイマジナの物では無い魔力を感じる。

 それも並の魔獣よりも遥かに多い魔力をだ。

 間違いない。

 あの杖がルトヤジョーニ・ミナタストだ。

 恐らくは封印によって自由に動けないからこそ、他の人間が扱いやすいように、いざという時に上手く周囲を誤魔化せるように杖の形を取っているのだろう。


「はぁ……」

 そこまで分かればもう遠慮する理由などという物は欠片もない。


「ベグブレッサーの弓よ」

 俺はベグブレッサーの弓に生えている棘の一つを魔力を込めながらつまむと、頭の中でこれから俺が引き起こしたいと思っている現象を引き起こすための紋章を思い描きつつ引き、ベグブレッサーの棘を矢に変えてつがえる。


「奴を射抜くぞ」

 ベグブレッサーの弓からイマジナに向けて矢が放たれる。


『まあ、隠れて撃たれるよりはマシだと思っておきましょうか』

 矢は真っ直ぐに、音すらも置き去りにしながらイマジナに向けて飛んでいく。


『『主無き刃(オーナエッジ)は逸れる(ロングドウェイ)』』

「ちっ!」

 だがイマジナの杖(ルトヤジョーニ)が振られた瞬間、イマジナの身体に当たる筈だった矢はその軌道を捻じ曲げられ、イマジナの後方に居た捜索隊だった面々を巻き込み、吹き飛ばしながらも俺の狙いとは全く別の場所に行ってしまう。

 けれど問題はない。

 その為の備えは仕込んである。


「だったら……こうするまでだ!」

『なにっ!?』

 俺の矢から予め注ぎ込んでおいた最低限の制限だけ与えられた大量の魔力が噴き出す。


『これは……』

 紋章や意思によって方向性が決定されていない魔力は、その属性に応じて勝手に形を変えてしまう。

 俺の場合だと、火属性の熱と炎、闇属性の浸食と同化、妖属性の曖昧化に緩衝だ。

 それはつまり……


「蒸し上がれ!」

 魔力の範囲内にあるものを呑み込み、宿主の体外にある魔力を自らの一部としながら発熱し続ける熱波である。

06/11 誤字訂正

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