第17話「捕獲仕事-1」
「じゃっ、留守番は頼んだぞ。クリム」
「任せておけ。ま、何も無いだろうがな」
俺が狩猟用務員になってから、一週間と少し経ち、四月に入った。
年度変わりの春休みと言う事で故郷に帰省していた生徒たちも、今年新たに入学する新入生たちも、明日の昼が始業式にして入学式と言う事で、少しずつ王都オースティアへとやってきて、学園の中も賑やかになって来ている。
「よしっ、ソウソー、ティタン。出発するぞ」
「分かったでやんす」
「はい」
さて、そんな学園の事情に合わせて、今日は狩猟用務員にとって大事な仕事が入っている。
なので、俺、ゴーリ班長、ソウソーさんの三人で今日はオース山の中に入る事になった。
そう、この一週間でゴーリ班長に教えて貰った事、自主的な探索によって把握した事、用務員小屋にあった歴代狩猟用務員が作成した精緻な図鑑から得た知識を生かす時が来たのである。
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「さて、歩きながらになるが、今回の目的について改めて確認しておくぞ。ティタン、言ってみろ」
「はい」
山の中に入った俺たちは、何かしらの紋章が刻み込まれたメダルを手に持ったソウソーさんを先頭にし、その後ろに俺、最後尾に大きな盾と斧を背負ったゴーリ班長と言う並び順で、整備された山道を歩いていた。
「今回の目的は始業式後の晩餐会で振る舞う料理に使うために、大型の獣を一頭仕留めます。そして、教材として大型の獣を一匹捕獲します」
「その通りだ。種類は問われていない。とにかく、傍目に見ても大物だと分かる様な獣であれば、何でもいい」
「まあ、教材として使う奴については、出来るだけ傷をつけない方が好ましいでやんすけどね」
「そこは出来ればの範囲だがな」
今回の目的は狩猟と捕獲。
どちらも特に種類の指定はないが、大物でないといけないので、ブランチディールやアースボア、レッドベアー辺りが狙い目だろうか。
ああでも、大物であると言う条件以外を考えたら、レッドベアーは不適当か。
レッドベアーの肉は多少癖があるし、捕獲も難しいから。
「で、ソウソー。反応は?」
「チラホラあるっすよ」
そう言ってソウソーさんが俺たちの方にメダルを向ける。
メダルは黄色っぽい光を放っていて、その上には細かく振動する輪っかのようなものが生じていた。
状況から察するに、周囲に居る生物を探知するための魔法なのだろうけど、どのように見ればいいのかは分からない。
「ブランチディールとアースボアの反応は?」
「十時の方向にブランチディール、十一時の方向にアースボアの反応があるっすね。距離はブランチディールの方が近いっす」
「分かった。ならまずはブランチディールの捕獲を試みる」
「分かりました」
「了解でやんす」
俺はソウソーさんが言う方向に向けて目を凝らす。
が、無数の木々に背の高い草、岩場などの地形の関係で目標とする獣の姿は見えない。
こういうのを見ると、やはり魔法は便利で自分でも使えるようになりたいと思う。
「と、もうすぐ見えるでやんすね」
「居ました」
さて、ブランチディールを目標と見定め、俺たちの存在が露見しないように移動すること数分。
100m程先、木々の間にブランチディール……木の枝のように鋭くてしなやかな角を持った鹿の姿が見えた。
「樹の若芽を食べてますね。周囲を警戒している様子はないです」
「ほう、そいつは良い報告だ」
「確かに周囲を警戒している様子はないでやんすね」
俺の報告に続く形で、片手で輪を作り、その中を覗いているソウソーさんが俺の言葉を補強するような報告をしてくれる。
たぶんだけど、遠くの物が見える紋章魔法を使っているのだろう。
「よし、それじゃあ散開だ。ティタンは風下側から奴の後ろ側に潜り込んで、メダルから合図が有ったら、奴の足元に矢を放て」
「……。驚かせて、ゴーリ班長の側に行かせるんですね」
「そうだ」
俺はゴーリ班長の言葉を受けると、気配を消して移動するための準備を始める。
「ソウソーは『気絶』の魔法と、俺が対応できない方向に逃げちまった場合に備えて、罠を張っておいてくれ」
「分かったでやんす。動きが止まったら、脚に即撃ちで良いでやんすね」
「それでいい」
ソウソーさんも、ゴーリ班長の言葉を受けて、弩の矢に羊皮紙を巻き付け、紋章が刻まれた小石が付いた縄を取りだす。
「じゃっ、ティタンはこれを持って移動してくれでやんす。引っ張れなくなったら、置いてくれっす」
「分かりました」
「そうそう、万が一お前らの方に獲物が向かってきた場合、回避を最優先にしろ。で、仕留める場合にも、捕獲ではなく殺すつもりで対応して構わない」
「はい」
「了解でやんす」
俺はソウソーさんから縄の片方を受け取ると、不審な物音を立てないように、周囲の環境に紛れ込めるように注意をしつつ、ブランチディールの背後へと移動をする。
「すぅ……はぁ……」
移動すること数分。
俺はブランチディールの背後の茂みへと移動することに成功する。
ソウソーさんとゴーリ班長も、既に位置についている。
「……」
俺は弓に矢をつがえ、ブランチディールの足元へと狙いを付ける。
風は殆ど無く、ブランチディールが俺たち三人に気づいている様子はない。
「来た」
そして狩猟用務員の証であるメダルが確かに震えた瞬間、俺の元から一本の矢が放たれた。
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