第169話「野外学習-2」
夜が明けて、朝食を摂り終えると同時に野外学習が始まった。
さて、ここで改めて野外学習の内容について確認しておこう。
「それでは、各班まずは自分の班の場所を確認するように」
まず、今回の野外学習は王立オースティア魔紋学園の全生徒と大半の教職員が参加する催し物であり、日程は二泊三日、生徒たちは校庭組、オース山組、外組に分かれて日程をこなす。
俺の知り合いで言えば校庭組にはハーアルター、セーレ、エレンスゲ、デコン先生、スキープ先生、学園長が、オース山組にはメルトレス、ゲルド、イニム、ゴーリ班長、ソウソーさんと言った面々が、外組にはクリムさんにセイゾー先生が居る。
そして、俺自身は校庭組として参加することになっている。
なお、参加する生徒の数については参加する条件の関係上、外組が一番少なく、次に四年生以上しか参加できないオース山組、他の全員が参加できる校庭組が一番多くなっている。
「教職員の場所は……ここか」
さて、現在の校庭は紋章魔法によって普段の平らな物から、多少ではあるが凹凸が付けられている。
これはその後の作業に備えて、こちらの方が都合がいいからである。
で、そんな校庭の中で校庭組の生徒と教職員たちは予め決められた班に従って集まり、これからの作業についての打ち合わせをすることになっている。
「ティタン君か。これから三日間よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
俺はデコン先生に向けて頭を下げる。
まあ、打ち合わせと言っても教職員は予め十分な話し合いをしているので、多少のすり合わせを改めて行うだけである。
「では、予定通りに基本は生徒に任せて、フォローは最低限にするとしよう」
「はい」
と言うわけで、俺とデコン先生も必要なだけのすり合わせを行うと、それぞれに作業を始めることにした。
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さて、校庭組最初の作業はこれから三日間寝たり休んだりするための場であるテントを立てる事と、調理の為の簡易の竈を組み立てる事である。
では、その様子はどんなものになるのか、生徒たちの様子を見てみよう。
「よし、整地完了」
「エレンスゲ、レンガはこれくらいで足りる?」
「ええ、大丈夫よ」
「私たちはテントを立てているね」
「テントの場所は一段高くしてあるから気をつけてね」
「分かってるから大丈夫」
まずは模範例、エレンスゲたち六年生の班である。
この班に属する女子たちは生活の為に紋章魔法を学んでいる生徒で、そうして学んだ事を生かしているのだろう、非常に動きが良く、俺が見ている間にも目に見えて作業が進んでいく。
具体的に言えば、まずエレンスゲが地属性の紋章魔法によって不規則な凹凸を有する地面を整地、その後の作業がしやすいようにした。
その後に別の女子たちが身体強化魔法を利用して素早くレンガを積んで竈を組み上げたり、テントを並の雨風ではびくともしないように地属性と金属性の紋章魔法としっかりとした手付きで迷いなく組み上げていく。
それどころか竈にくべる薪も、学校側が用意しておいた丸太を運んできて、金属性の紋章魔法で切断、天属性の紋章魔法で乾燥させることによってあっという間に作りだしてしまった。
「と言うか材料さえあれば家の一つでも建てられそうな感じだな」
何と言うか、俺や一部の教職員よりも彼女たちの方がよほどしっかりしているのではないかと思わせられる光景だった。
「次はこっちだよね。セーレ」
「そうそう、それで次はこっちね」
「隣の班に確認してきたよ。乾燥手伝ってくれるって」
「本当?なら、薪の心配はしなくていいね」
「代わりにテント立てだけどね」
「それぐらいで済むならいいじゃない」
次は一般的な例、セーレたちの班だ。
彼女たちは三年生と言う事で、過去に二回野外学習を経験している。
その為だろう、自分たちの班だけで全てを終わらせようと考えず、他の班と協力できる箇所では協力し合い、効率的に作業をこなしているようだった。
うん、それは正しい判断だと思う。
手が足りないなら素直に助けを求めるべきであるし、分からない事があるならば分かる人間に聞くべきなのだ。
そうすれば、自分たちだけでは出来ない事も出来るのだから。
「此処は問題なさそうだな」
そんなわけで、セーレたちの楽しそうな雰囲気も含め、教職員の出番は求められない限りは無さそうな感じだった。
「で……」
さて、最後に問題例である。
「だから!こっちが先だって言っているじゃないか!」
「いいやこっちだ!こっちを先にやるべきだ!」
「地属性の紋章魔法使い誰か居ないか!?」
「ううっ、何で上手く組み上がらないんだ……?」
「なあ、素直に先生を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「いや、大丈夫だ。これなら倒れる事はない」
うんまあ、三年生以下の班だとどの学年にもこのタイプは一定数いる。
問題が起きている原因は色々だが、多いのは班員のすり合わせ不足に、知識不足に、紋章の準備不足と言ったところか。
ハーアルターのように一人リーダーシップを取れる人間が居る班はそれでも作業が進められているようだが、明確な指示者もいない班では今にも喧嘩になりそうな雰囲気がある。
うん、とりあえずは最初に聞こえてきた言い争いに注意を払いつつ、あちらの危ないテントの立て方をしている一年生たちに指導しに行くとしよう。
「おい、お前たち」
と言うわけで、俺は妙に自信がある感じにしている一年と、不安そうにしている複数の一年が居る班に足を向けた。




