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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人

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第167話「虚数-4」

「イマジナの死体が発見されたってどういう……」

 ミレットの言葉に俺は思わず椅子から立ち上がり、詰め寄ろうとしてしまう。

 が、俺の足は俺の前に出されたクリムさんの手を見て止まる。

 そして落ち着いて周囲を見渡してみれば、クリムさんだけでなく、ゴーリ班長もソウソーさんも落ち着いた様子で、けれど油断なくミレットの話を聞く姿勢を保っていた。


「ティタンだったか。落ち着けよ。確かに人間の死体と思しき物は見つかった。そしてその内の片方はイマジナの顔をしていた。だが分かっているのはそこまでだ」

「そこまでって……まさか……」

「その辺りについての判断はここから先の報告を聞いてから判断してくれ。では、報告を続けます」

「分かったでやんす」

 俺はそんな三人の態度とミレットの言葉から一つの想像をする。

 だが、それを口に出す前に再び席に着くように促されたため、俺は口を噤んで椅子に座り直す。


「死体ですが、どちらも大型の魔獣の爪で引き裂かれたような傷が左肩から股間に向かって真っ直ぐに、真正面から斬られる形で生じていました。死体を直接見た者の判断によれば、最低でも熊型サイズの魔獣でなければこんな傷は付かないだろうとの事です」

 死体には魔獣に引き裂かれたような傷があったのか。

 なら死因はその傷とみてまず間違いないだろう。


「で、問題はここからでして」

 そう言うとミレットは少しだけ口の端を上げて笑う。

 それは何処か相手を嘲笑うような笑みだった。


「死体には他の傷が一切ありません」

「他の傷が一切ない?」

「ええ全くありません。顔は目の前の光景に驚き、絶望したような表情になっていたそうですが、それだけです。腕、脚、背中なども同様ですね。身体のパーツに欠損も見られません。死後半日は間違いなく経っているのにです」

「なるほど、それは確かに色々とおかしいでやんすね」

 だがミレットがそんな笑みを浮かべても仕方がないだろう。

 他者に殺された人間に他の傷が一切ないのがどれほどに異常な事なのかは、俺にすら分かる事なのだから。


「表情はともかく、素人が大型の魔獣に出くわしたなら、ビビって全力で逃げるか、その場で腰を抜かして動けなくなるかのどちらかだ。となれば当然腕や背中、脚なんかにはそれなりの傷がつく。それが一切ないって事は無抵抗の内に殺されたって事だが、そうなると表情との釣り合いが取れねえな」

 まずゴーリ班長がおかしな点を一つ挙げる。


「素人でないなら魔獣とやり合おうと考えるだろう。だがそれならば周囲に戦闘の痕跡が残るはずだ。そう言うのは有ったか?」

「有りませんでした。血痕もそうですが、魔力が放たれた跡も殆ど無しです」

「つまり、その場で魔法は使われていないと言う事か。魔獣と魔法使いが揃っているのにそんな状況になるとは思えないな」

 続けてクリムさんがおかしな点を挙げる。


「死後半日っすかぁ……なのに他の傷もなく死体の欠損も無いってのも異常っすよねぇ。半日もあればそこら中から腹を空かした魔獣、獣、虫どもが集まって来て、腹に詰め込んでいるはずっすからねぇ。死体に毒でも含まれていたんでやんすか?」

「今のところはそう言う報告は上がっていませんね。極々普通の人間の死体です」

 更にソウソーさんもおかしな点を挙げる。

 後残っているであろう指摘すべき点と言えば……。


「周囲に物が散らかっていたり、死体が何か身元を証明できるような物を身に付けていたりはしましたか?」

「魔具がいくつか見つかりましたが、他はありません。衣服についても普通の魔法使いが着るような衣服を一式身に付けていただけです」

「じゃあもう確定ですね。素人でも森の中に籠ろうと考えたなら、それ相応の用意をします。それが本人にも周囲にも、さっき挙げてた小屋にもないなら、誰かが何処かに持って行ってしまったことになる。でも、そんな森の奥深くまで普通の人間が立ち入る事なんて有り得ない。となれば見つかった死体は……」

「ええそうですね」

 俺の言葉にミレットは大きく頷く。

 そして言い放つ。


「確かにイマジナの顔をした死体は見つかりました。が、我々イマジナ・ミナタスト捜索隊はこの死体がイマジナ・ミナタスト本人の物とは思っていません」

 イマジナが死んだとは思っていない、と。


「じゃあこの死体は何だったのかという話でやんすが……まあ、そう言う事っすよね」

「そうですね。検視はまだ終わっていませんが、この死体はイマジナと同行者の禁術使いが我々の目を欺くために用意したものだと考えています。複数の禁術を使えるような魔法使いであるならば、それらの組み合わせで死体の顔を変えるぐらいは出来るはずですから。それに……」

「それに?」

「これは元暗殺者として意見ですが、死んだふりや身代わりを用意するってのは、自分を追う者を油断させる方法としてよくあるものなんですよ。だから、自分の知らない所で目標と顔が一致する死体が一つ二つ上がった程度で仕事が終わっただなんて思いはしません」

 そう言うミレットの笑みは正に暗殺者のそれであり、その道で自信を持って生きてきた人間特有の気配を漂わせていた。

 要はこの場に居る全員がイマジナが死んだとは思っていなかったという事である。


「捜索自体は継続中っすか」

「勿論です。今日はソウソー様と学園長に途中報告を上げに来ただけですよ」

「なら気をつけて当たるっすよ。次は死体の振りをして待ち伏せるくらいはやる相手の筈っすからね」

「言われなくても」

 だから俺も真剣にミレットの身を案じることにした。

 イマジナが生きているならば、一番危険に晒されるのはそれを追う者の筈だからである。


「では、これで報告は終わりです。どうか、そちらもお気をつけて。イマジナがオース山に入る可能性は決して低くないですからね」

「言われなくても」

 そして考えることにした。

 どうやればメルトレスたちの身を危険に晒さずに済むかを。

本物の訳が無い


06/04誤字訂正

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