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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人

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165/185

第165話「虚数-2」

 メルトレスと出かけ、『破壊者(ブレイカー)』と思わぬ形で会ってから一週間が経った。

 それはつまり、野外学習まで残り一週間程度にまで日が進んだという事でもあった。


「ふむ、もう『松明(トーチ)』は完璧みたいっすね」

「そうですね。ジャッジベリーでも一時間。『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』を使うなら特別に意識しなくても一週間は持たせられます」

 ソウソーさんから俺に出された課題である火属性下位紋章魔法『松明』については、『焚火(ボンファイア)』共々完全と言っていいレベルで修得している。

 最低限の素材であるジャッジベリーでも一時間持たせられるので、野外学習で使う分には何の問題もないだろう。

 なお、『血質詐称』を解除して黒くなった俺の血を素材として用いた場合の限界点については不明である。

 と言うのも、あまりにも効果時間が長すぎて、俺の認識の方が先に途切れてしまうのだ。

 そんな有り得ない結果については、流石のゴーリ班長たちも苦笑せざるを得なかった。


「なら、校庭の方はティタンに任せられるな」

「そうだな。他の先生方に優秀な生徒もいる。問題が起きる心配はしなくてもいいだろう」

「はい、任せてください」

 話を戻そう。

 この二週間ほど、俺たち狩猟用務員は境界の確認をするのと並行して、野外学習の準備を進めていた。

 具体的に言えばオース山に生息するものの中でも危険過ぎる魔獣の排除や、野外学習で必要になる知識の再確認、野外学習中に行う生徒への指導における注意点についての研修と言ったところだ。

 そうして一部の生徒、外部の人間も交えて教職員の間で行われたそれらの研修と準備を行った結果として、俺は今無事に校庭組を任せても問題ないという判断を貰えたのだった。


「と、来客でやんすね」

「俺が出ます」

 用務員小屋の扉がノックされる。

 どうやら誰かが尋ねてきたらしい。

 と言うわけで、俺が出迎えに向かう。


「はい、どちら様……です……か?」

 そして扉を開けたところで思わず固まる。


「「……」」

 扉を開けた先に居た人物は一応顔見知りと言っていい相手だった。

 だが歓迎するべき相手かは微妙な所だった。

 と言うか、そもそもこの場に居てはいけない可能性すらある人物だった。


「どうしてお前がここに居るんだ?」

 用務員小屋を訪れたのは……一月ほど前にオースティア城で俺の命を狙った暗殺者のリーダーだった。


「「……」」

 俺と暗殺者のリーダーの間に気まずい沈黙が訪れる。

 だがそれも仕方がない事だろう。

 イマジナとルトヤジョーニの魔法の結果として一時共闘することにはなったが、俺と暗殺者のリーダーの関係は命を狙われた者と狙った者である。

 そして、俺の記憶が正しければ暗殺者のリーダーは、あの後ソウソーさんに捕まっていたはずである。

 そんな人間がどうしてこの場に居るのか、それを考えたら、先の言葉が出てくるのは仕方がない事だろう。


「ん?ティタン。どうしたでやんす……ああ、ミレットでやんすか」

 そうやって互いに敵意は抱いていなくてもどうすればいいのかは分からなくなっていると、俺の背後からソウソーさんが現れ、暗殺者のリーダーの物と思しき名前を呼ぶ。


「もしかしなくても報告でやんすか?」

「あ、ああ……ゴホン、はい、そうです。ソウソー様」

 暗殺者のリーダー改めミレットは背筋を正すと、見るからに礼儀正しい振る舞いでもってソウソーさんの事を様付で呼ぶ。

 ああうん、どうやらミレットがこの場に居る理由にはソウソーさんが関わっているらしい。


「中で聞くでやんすよ」

「……。いいのですか?」

「問題ないでやんすよ。ティタンは関係者でやんすし、他の二人もこの件については聞いておくべき人間でやんすから」

 俺が関係者……か。

 となるとミレットが持ってきたという報告は、もしかしなくてもあちらに関係ある事なのだろう。

 俺はそう判断すると、身体を半身にし、ミレットを用務員小屋の中に招き入れる。


「ソウソーさん」

 ただ、話を始める前に一つ確認しておくことがある。


「何でやんすか?ティタン」

「どうしてミレットが此処に居るんですか?ミレットは……」

「ああそれでやんすか」

 それはミレットの今の立場についてである。

 ミレットは暗殺者のリーダーだった。

 上の方で色々と取引があって、罪そのものは無くなったのかもしれないが、それは変わりようのない事実である。

 となれば、一応でもミレットの立場については確認しておくべきだろう。


「心配しなくても、ミレットの所属していた組織については組織ごとあっしの奥さんの実家……エスピオ侯爵家傘下の合法的な組織になったっすよ。ああもちろん、暗殺稼業は廃止させたっすよ。で、構成員は今後の仕事次第で無罪放免にする予定っす」

「そうなのか?」

「ああ、気が付いたらそう言う事になっていやがった……濡れ手に粟の粟になった気分だったぜ……」

 そう言うミレットの表情はあまり芳しくはない。

 どうやら、色々とあったらしい。

 まあ、ミレットには相手が悪かったと思っておいてもらおう。

 俺もソウソーさんの掌の上で踊らされた経験はあるし。


「それよりも報告でやんすよ。ミレット」

「そうだな。野外学習にも影響を及ぼしそうだ」

「確かに。出来るだけ早く聞くべきだ」

「……」

 ま、ミレット自身の事情についてはさて置くとしよう。

 今聞くべきはミレットの持ってきた報告とやらである。


「分かりました。それでは報告させていただきます」

 そうしてミレットの報告が始まった。

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