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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人
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第164話「虚数-1」

 ティタンたちが『破壊者(ブレイカー)』と会っていた頃。

 王都オースティア近郊の森の中。

 周囲に木々しかなく、森に生息する魔獣によって多くの危険が存在する、外の人間は其処が森の何処なのかも分からない場所に一つの掘っ立て小屋が建てられていた。


「いやはや、流石は王都守護隊と言う所ですかね」

 小屋の中に居るのは黒い髪に金色の目を持つ、特徴が無いのが特徴と言った様子の男……イマジナ・ミナタストだった。


「まず劇場の中に入れた目は全滅」

 小屋の中にはベッドと机、椅子以外の家具は無く、イマジナ以外に人影はなかった。

 他にある物と言えば、大きな棺が一つ壁に立てかけられているぐらいである。

 机の上には王都オースティアの詳細な地図とインクが入った壺が置かれており、イマジナの右手には羽ペンが握られている。


「こことここも駄目……と」

 イマジナの手が動き、地図に幾つものバツ印が付けられていく。

 そうして付けられたバツ印はまるで検問のようだった。


「ふうむ……」

 この時イマジナの視界は通常の人間の物とは大きく異なっていた。

 本人の視界の他に誰かの視界を借りているような光景が複数……数十種類、イマジナの視界には映り込んでいたのである。

 それは普通の人間ならば自分と他人の視界が混同し、マトモに情報の精査を行う事すらも出来ないような光景だったが、イマジナはいとも容易くそれらの視界を使い分け、必要な情報を集めて見せていた。


「と、また一つ潰されましたか」

 と、ここでイマジナの視界に存在していた他人の視界の一つが黒く染まり、収縮、そのまま消え去ってしまう。

 それはつまりイマジナが目にしていた誰かの意識が奪われたか、目にするための魔法を解除されたという事である。


「いやはや、本当に厄介だ。嫌がらせがまるで機能していない」

 当然、イマジナは目が潰される事への対策……より正確に言えば潰す事を躊躇うような仕掛けは施していた。

 目にしていた者の意識が外部からの干渉によって奪われたり、その者が殺されたりした時には『不死化(イモータル)』と『思想(ブレイン)操作(ウォッシュ)』の紋章魔法を発動させ、周囲に居る人間を無差別に襲い、殺害するように仕込んでおいたのである。

 だがイマジナが感知した限り、『不死化』と『思想操作』の紋章魔法が発動したことは一度もなかった。

 まるでそう言う仕掛けが施されている事を最初から知っていたかのように、解除されてしまっていたのである。


「ああご心配なく。目など幾らでも補充が効きますし、そもそも牽制のつもりですらありませんから」

 イマジナが誰かに語りかけるように喋る。

 勿論、この小屋の中にイマジナ以外の人影はない。

 しかし、イマジナは確かに誰かが存在するかのように話を続ける。


「しかし、王都守護隊は厄介な物です。何かしらの魔法によってこちらの目を正確に察知し、仕込みが動かないように魔法を解除してきている。特にコンプレークス劇場については完璧にやられました。劇場の中に目が入った途端情報が途切れ、そのまま魔法を解除されてしまいましたからね。何が起きたのかすら分かりませんでしたよ」

 イマジナはとても残念そうに溜め息を吐く。

 が、溜め息を吐いた後の顔にはその顔には残念そうではなく、面白いと言う表情が張り付いていた。


「ああ、他の仕込みでしたね。そちらもあまり上手くはいっていませんよ」

 イマジナは再び地図にペンで印をつけ始める。


「以前オースティア城に入った時に感染させ、そのまま放置しておいた兵士たちについては、全員魔法を解除されてしまいました。今後は目を仕込んでも一週間すら持たないでしょうね」

 オースティア城にバツ印が付けられる。


「他の有力貴族たちの屋敷に仕込んだ目もほぼ全滅ですね。残されている目についてはワザと残されている、あるいは主が中央から遠いせいで、解除されていない感じで、使い物にはなりません」

 オースティア城前に並ぶ、貴族たちの屋敷の幾つかにバツ印が付けられる。


「今日の姫君の外出に合わせて、学園にし込んでおいた目を動かしてみたりもしましたが、こちらについても事前に知られていたのでしょうね。動き出した直後に止められてしまいました。いやはや本当に優秀だ」

 最後に学園の上にバツ印が付けられる。

 そしてそれと同時に誰かの怒りを表すかのように小屋の中に張り詰めた空気が満ちる。

 だが、その怒りに満ちた空気を浴びてなおイマジナは表情を変えず、それどころか笑顔のまま話を続ける。


「御先祖様。別に問題はないでしょう。これらはいずれも牽制かそれ以下の策、破られても何ら問題のない策です。本命である貴方様の提案された策から目を逸らさせる効果はあっても、邪魔になることはありませんよ」

 イマジナの言葉に小屋の中の空気が少しずつ弛緩していく。


「ええそうです。何も問題はありません。予定通りに事を起こし、贄を屠り、貴方様は復活なさればいいのです」

 イマジナが席を立ち、壁に立てかけられた棺の下に向かう。

 そして棺に触れる。


「では行きましょう」

 すると棺は一本の古ぼけた木製の杖に変わる。


「戦いの勝敗は戦いが始まる前に決まるのですからね。御先祖様」

 そうしてイマジナは小屋の外に出ると移動を始めた。

 木々の陰に隠れて僅かに見えるオース山に向けて。

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