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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人

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第16話「報告会」

昨日は二話更新だったので、ご注意ください。

 ティタンが正式に王立オースティア魔紋学園の狩猟用務員になった日の夜。


「では、これより報告を始めさせてもらいます」

 学園長室にはジニアス学園長、ゴーリ、その他数人の教職員が集まっており、他の面々が自分の席に着いている中で、ゴーリだけが片手に紙の束を持って、立っていた。

 彼らが集まっていた理由はただ一つ、ティタンが聞いた金属音の正体についての報告を聞き、議論することである。


「まず境界についてですが、異常なしです。どこにも破損及び修復の跡は見られませんでした」

 王立オースティア魔紋学園は、オース山の麓に位置すると同時に、多くの貴族の子弟、大商人の息子、才能のある若人たちが通う学園である。

 そして、一部の教職員は国にとっても非常に重要な人物であり、資料棟である地の塔には貴重な物品の数々が収められている。

 そのため、これらの安全を図るために魔紋学園の警備は非常に厳しく、正門には常に警備員が付いているし、街との境界には高く、堅い、城壁のような壁が設けられ、この壁はオース山に広がる森の途中まで繋がっている。


「ふむ、つまり居るとしても、境界に反応しない程に小さいか、魔法を使わずに空を飛べるものか」

「そう言う事になります」

 そう、壁は途中までなのだ。

 具体的に言えば、高さ2000mを超えるオース山の五合目程度までしか壁は無く、その先には侵入を拒む壁は存在しない。

 壁が途中で途切れてしまっているのは、オース山の生態系に配慮したためであるが、そのために学園に狼藉者が入り込むための隙が生じてしまっているのだった。

 一見すればだ。


「それなら、密猟者の類は気にしなくていいでしょうな」

「そもそも、あの山を密猟者風情が歩き回れるかも怪しいがな」

 実際は何の問題もない。

 なにせ、無断で立ち入れば王家が管理する神聖な土地に入り込んだとして即処刑される山の中を、狂暴な魔獣、危険な自然に怯えながら、何十kmも移動しなければならないのだから。

 それほどのリスクを冒してでも学園の中に入り込もうとするならば、闇夜に紛れて正面の壁を直接越えた方が遥かに安全で可能性がある。


「境界に異常なしなのはいい報告じゃな。アレが壊れると、修理が面倒で敵わん」

「その意見には俺も同意します。上の方が壊れた日には、行くだけで大仕事ですからな」

 そして、そんな自然の要害を突破して来ても、学園の敷地として扱われている場所と外を分ける境界には、一つの仕掛けが施されているのだから、狼藉者にとっては堪ったものでは無い。

 境界とだけ呼ばれるその仕掛けは、一定の大きさ以上の生物または魔力に反応して、近くに居る人間と、学園内で警備している人間に、境界の上下数十mを越えた存在が居る事を知らせる仕掛けである。

 この仕掛けによってオース山の方から狼藉者が学園に侵入しようとしても、学園側は事前に準備を整える事が出来、容易に狼藉者の捕捉、捕縛が可能になっているのである。

 ちなみに、同種の仕掛けがオース山の森と学園の境界線上にもあり、こちらに反応があると、狩猟用務員の持つメダルに連絡が行くようになっていたりする。


「まあそう言うわけで、境界に反応がある形で通った者は居ません。これは確実です」

「分かった。それで証言があった辺りは?」

 話が戻る。

 ゴーリは羊皮紙を一枚めくり、次の報告を始める。


「そちらにも痕跡は見られませんでした。具体的に言えば、未確認の魔獣が居た痕跡は無し。アイアーの樹は見られましたが、キリツキが小突いた形跡は無しです」

 ゴーリの次の報告は、ティタンが金属音が聞いた場所と、金属音が発せられたと思しき場所についての報告。

 この報告に、学園長室に集まっていた面々は渋い表情をする。


「一番可能性が高いのは……」

 一人の教職員が手を挙げてから、発言を始める。


「この金属音について報告した当人、ティタン・ボースミスの勘違いや、気のせいだった。と言う可能性だ。どうなのかね?ゴーリ君」

「実際、その可能性は十分にあるでしょう。本人もだいぶ離れた場所から聞こえてきたと言っていますし、その時ティタンを監視していたソウソーは金属音を聞いていません。なので、ただの間違いだった。と言うのは普通にある話です」

「そうか」

 教職員の言葉に対してゴーリは肯定の言葉を返す。

 だが、肯定の言葉が帰って来たにも関わらず、その教職員の表情は硬い。


「だが、そうなると困るな。無い事を証明するのは非常に難しい」

「我々とてオース山の全てを知り尽くしているわけでは無いし、境界にも穴はあるからな……キリツキの痕跡があれば良かったのだが」

「最悪のパターンは、大丈夫だと言っておきながら、実際には何かが居て、生徒たちに被害が出る。これだろうな」

「その可能性だけは何としてでも回避せねばな。成長の為にある程度の危険は必要だが、未知の魔獣では成長ではなく死に繋がってしまう」

「一つ意見を言わせていただくなら、今日俺は他の方々を連れてオース山に入りましたが、その時に何かしらの違和感のようなものを感じてはいます。主観的で不明瞭な物なので報告書には記載していませんが」

「そうか。別の山に今まで居た狩人だけでなく、君まで何か違和感を感じるか」

 杞憂で済めばいいが……、彼らが共通して抱いているのはそんな思いだった。

 だが、この場に集まっている誰もが、得体の知れない不安感のようなものを感じていた。

 それは、ゴーリたち狩猟用務員のように頻繁に山に立ち入ることはなくとも、彼らが常日頃からオース山を眺めているからこそ抱ける違和感だったのかもしれない。

 その為に、彼らはティタンの言葉に対しても幾らかの信用を置いていた。


「学園長」

「ふうむ……無闇に生徒たちへ不安を与えるわけにもいかないしのう……」

 教職員に促され、今まで黙っていたジニアス学園長が口を開く。


「ゴーリよ」

「はい」

 やがて意を決した様子で、学園長は口を開く。


「四月からの生徒の山への立ち入りじゃが、例年よりも基準を厳しくするようにしてもらえるか。具体的には中位以上の攻性魔法か防御魔法のどちらかを、二種以上持ち込むのを義務化するように」

「分かりました」

「それと、これはこの場に居る全員に対してじゃが、何かしらの危険や違和感を感じた場合には、その時点で退く事を全職員と生徒に徹底するように通達しておいてくれ」

「はい。伝えておきます」

「これらの措置は五月まで継続。誰が何と言おうとじゃ。いいな」

「「「分かりました」」」

 そうして、学園長の言葉と共に、この日の集まりは解散となった。

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