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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人
158/185

第158話「外出-4」

「私の劇はいかがでしたか?メルトレス様」

「とても素晴らしかったです。薬師の少女の一途な思い……それが叶った時には感動で涙が出そうでしたわ。二人もそう思うわよね」

「はい、とても良かったです!」

「勿論です姫様」

 演劇の終了後。

 王族専用個室に劇の前の予告通りにノンフィーさんがやってきていた。

 そして、メルトレスたちに劇の感想を聞いていた。


「ティタン君はどうだったかな?これが初めての観劇だったと思うのだけれど」

「そうですね……」

 メルトレスたちの感想を聞き終わったノンフィーさんは俺にも感想を尋ねてくる。

 さて、どう答えた物か……。

 ストーリーについては若干突っ込みたい所があるけれど、アレは演出と時間の都合の影響もあるだろうしなぁ……。


「ああ、気遣いは要らないよ。悪いところが有ったら、素直に悪いと言ってくれた方が助かる」

「んー……」

 それと、ノンフィーさんはこう言ってくれているけれど、俺みたいな素人では悪い点と言われても思い浮かばない。

 実際のところ、ストーリー以外で非の打ちどころなど見当たらなかった。

 演技は真に迫ったもので、見ていて物語に引き込まれる感覚もあった。

 様々な紋章魔法と技術を活用した演出についても同様で、魔獣の幻影については狩人として本物を知っている俺から見ても本物と見間違うような物だった。

 音楽やナレーターの語りも劇の質を良く高めていた。

 当然、演劇以外の面……この部屋や飲み物についても不満な点はない。


「演出の紋章魔法が凄かったです。あんな紋章魔法は初めて見ました」

 と言うわけで、素直に思ったままの事を。

 演劇そのものについては分からないので、技術面が素晴らしかった事を俺はノンフィーさんに告げた。


「なるほど。本物を知っている君からそう言ってもらえるなら、演出担当の子たちもとても喜ぶだろうね。実にありがたい言葉だ」

「えーと、喜んでもらえたのなら幸いです?」

 ノンフィーさんはとても嬉しそうに頷いている。

 ノンフィーさんは人ではないが、それでも自分の部下の仕事がほめられたことは嬉しいらしい。


「なるほど。そう言う見方もあるのですね……」

「でも実際、あの紋章魔法は学園に通う私たちでも目を見張るものでしたね」

「そうですね。あんな使い方もあるのだと驚かされました」

 メルトレスたちは何処か感心した様子だった。

 だが実際、あの演出用の魔法の数々は感心するに値するものだろう。

 幻影の魔獣のリアルさは先述の通りだし、火属性の紋章魔法を利用した炎の演出は少し熱いくらいの熱を正確に放っていたし、光属性と闇属性の紋章魔法を活用した話をしている人の強調も演劇の内容を観客に分かり易く伝えることに一役買っていたと思う。

 風属性の紋章魔法によるナレーターさんの声の拡張に至っては言わずもがなだ。


「ははは、メルトレス様たちにそう言ってもらえるなら嬉しい事この上ないね」

「そうですか?」

「そうだとも。紋章魔法は暮らしを豊かにするものであって、その用途は戦いに限る必要がない。その活用の仕方の一端を学園の後輩でもある君たちに知って貰えたのなら、学園の卒業生としてこれ以上に嬉しい事はないね」

 ノンフィーさんは本当に嬉しそうにしている。

 やはり、この人……うん、面倒だから人でいいや、この人は悪い人ではないらしい。

 変態らしいが。


「さて、他のお客様が外に出られるまでもう暫くかかりますので、もう少しお待ちいただけますか?メルトレス様」

「はい、分かりました」

 ノンフィーさんはメルトレスに向けて恭しく礼をする。


「あ、ティタン君。君には話があるんだ。扉を出たすぐそこでちょっといいかい?」

「話ですか?えと……」

「私は構いません。ティタン様」

「ありがとうございます。では、話をしましょうか」

「ああ、そうしよう」

 そして俺と話がしたいという事で、俺はノンフィーさんと一緒に王族専用個室の外に出る。


------------


「それで話と言うのは?」

「ルトヤジョーニ・ミナタストについてだ」

「……」

 俺はノンフィーさんの言葉に思わず周囲の気配を探る。

 が、どうやらこの周囲には劇場のスタッフすらもいないらしい。

 俺とノンフィーさん以外にある気配と言えば王族専用個室の中に居るメルトレス、ゲルド、イニムの三人の気配だけである。


「君は気付いていなかっただろうけど、君たちの後を付けるようにルトヤジョーニの手の者……より正確に言えば『強制隷属(エンスレイヴ)』によって駒にされた者たちが何人も劇場の中に入り込んできていたんだよ」

「『強制隷属』……」

 だがどうやら劇場の中にはルトヤジョーニの手の者が入って来ていたらしい。

 少なくとも見張りぐらいは俺の感知範囲に居たはずだが……まるで気付かなかった。

 これは俺の失態だな。


「まあ、気が付かなくても仕方がないさ。駒にされた人たち自身は殆ど自分の意思で劇場に来ていたんだから、そこには害意も敵意もない」

「自分の意思で来ていた?」

「そう、彼らは自分の視界を盗み見られていただけだった。ルトヤジョーニの魔法によってね」

「……」

 視界を盗み見るだけ……か。

 使っているものの差はあるが、ルトヤジョーニはエレンスゲの魔法に似た事も出来るのか。


「ま、安心しなよ。劇場に入った人たちにかけられていた魔法は劇の間にこちらで解除しておいた。今は逆探知の最中。今頃、ルトヤジョーニは大きく慌てている事だろうね」

「なるほど」

 そしてノンフィーさんは俺が気が付かなかった魔法に気づくだけでなく、解除もして見せたと。

 うん、実力の差は理解しているけど、少し悔しい。


「とりあえず、ティタン君とメルトレス様を囮に使った詫びとしてこれを渡しておこう」

 そう言うとノンフィーさんは書状のような物を俺に渡してくる。


「これは?」

「学園にパンを卸しているパン屋『リコリス』への紹介状さ。彼女とはちょっとした縁があるからね。これを見せれば店が閉まっていても、パンの一つや二つくらいなら焼いてくれるはずだ」

 パン屋『リコリス』と言うと、以前の茶会でメルトレスが用意したクッキーを売っている所だったか。

 なるほど、これは少し楽しみだ。


「分かりました。この後尋ねてみようと思います」

「うん、そうするといいよ」

 そうしてノンフィーさんは渡すべきものを渡すと、仕事があるからと何処かに行ってしまった。

 そして俺も王族専用個室の中へと戻っていったのだった。

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