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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人
154/185

第154話「焚火-5」

「そうだティタン」

「何ですか?」

 さて、境界の確認作業は続いている。

 が、移動中は魔獣が出なければ特にやる事もないという事で、気が逸れない程度に雑談をしていた。


「矢除け繋がりで思い出したが、例の禁術使いの一件の時、お前は『能力(アッスーム)詐称(ヒュムパラメタ)』を解除した上で、今お前が背負っているベグブレッサーの弓を引いたらしいな」

「そうですね。引きました」

 と言うわけで、今度はクリムさんから俺に話があるらしい。


「その時どれぐらいの力で引いた?」

「どれぐらいと言われても……普通に全力ですよ」

「『能力詐称』を解除した上での全力か?」

「その通りです」

「ふうむ……」

 俺の答えを聞いたクリムさんは微妙に考え込むような表情を見せる。

 いやまあ、クリムさんが何を疑問に思っているかは何となく分かるが。

 それに、その疑問の妥当性にも納得はする。

 しかし、クリムさんがそこまで悩む理由についてはよく分からない。

 一体どういう事だろうか?


「『能力詐称』を解除していなくても普通に引く事は出来るんだな」

「出来ますね」

「今、弓に生えている棘のような物にはきちんと実体があるんだな」

「ありますね。なので、握ると少し食い込みますよ」

「そうか……」

 クリムさんが再び悩み始める。

 いや本当に一体どうしたというのだろうか?

 俺のベグブレッサーの弓が普通でないのは、禁術使いの一件で既に明らかな筈だ。

 と言うか、俺の状態に合わせて弦を張る強さが変わったり、表面から棘が生えて来て俺の意識を人の領域に留めようとしたりする弓が普通なはずがない。


「ティタン。お前は『祝福塊(ビブレスドコア)』と言うのは知っているか?」

「『祝福塊』?いえ、知りませんけど」

「なら説明しておくか」

 クリムさんは『祝福塊』と言うのがどう言う物なのかを俺に教えてくる。

 で、クリムさんの話によれば、成長が早くて不均一なベグブレッサーの樹には時折上質な部位だけが集まった木材が生まれるらしく、それを『祝福塊』と呼ぶらしい。

 『祝福塊』は他の樹と比べても上質な物であるため、高値で取引される他、魔具の素材としても優秀であるそうだ。


「なるほど。つまり俺の弓も『祝福塊』で出来ているという事でいいんですね?」

 そう言う事ならば、俺の持つベグブレッサーの弓は間違いなく『祝福塊』だろう。

 それも弓一本分と言う『祝福塊』としては特大サイズのものだ。

 そう思って俺はクリムさんに確認を採ったのだが、クリムさんから返ってきた返事は予想外の物だった。


「いや、ティタン、お前が使っている弓は『祝福塊』と言う次元を超えている」

「えっ……」

「『祝福塊』と言うのはあくまでも木材として上質なだけだからな。間違っても棘が生えたり、使い手の状態に合わせて元の数倍の強度を発揮したりはしない」

「あー……」

 俺の弓は『祝福塊』と言う次元を超えている。

 クリムさんのその言葉には少々驚かされたが、理由を聞いてみたら納得する他なかった。

 うん、確かにただの木材に使い手に合わせて自らの状態を変えるような力があるとは思えない。


「恐らくだが、そいつは弓の姿になった今でも生きているんだろうな」

「生きている?」

「樹と言うのは元々生命力が非常に強い生物だ。挿し木なんてものが通用するぐらいにはな」

「あー、切り離した枝を地面とかにさしておくと、そこから根が生えたりして、また成長するんでしたっけ」

「その通りだ」

 では、何故俺の弓は……このベグブレッサーはそんな力を持っているのか?

 どうやらクリムさんは既にそこまで考えていたらしい。

 思案顔のまま、考えられる理由を語ってくれる。


「ベグブレッサーと言う樹は元々生命力が非常に強い木と言われている。そして、保有している属性は闇属性と妖属性だ」

「ふむふむ」

「そんな樹から作られた弓を、今も大量に魔力を垂れ流しにしているにも関わらず平気な顔をしている使い手が握っている」

「確かにそうですね」

「となれば、お前の持っているベグブレッサーの弓がその魔力の一部を取り込んで、自分の為に使っていてもおかしくはない。と言うのが俺の考えだな」

「なるほど」

 俺は『松明(トーチ)』の火を右手に持ち替え、左手で背中に背負っていたベグブレッサーの弓を取り出す。

 その黒と紫の入り混じった表面は、俺が『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』を解除している影響で、表面から棘のようなものを無数に生やしている。

 クリムさんの言う通りならば、こうしている今もこの弓は俺の魔力を吸っている事になるのだが……うん、分からない。

 周囲に垂れ流している魔力が多すぎる為なのだろう。

 吸われているのか吸われていないのかもよく分からない。

 まあ、今までに問題が起きた事もないし、特に気にする必要はないだろう。

 ああいや、むしろ気にするべき事があったな。


「となると、この先俺がもっと例の獣の力を使えるようになったら、それに合わせてこの弓も変化しそうですね」

「そうだな」

 それは今後の俺の成長に合わせて、弓もまた成長する可能性。

 もしもこの先もまだ成長してくれるのであれば……色々と期待はしていいだろう。


「そう思うなら手入れは欠かすなよ」

「それは言われずともです」

 なお、肝心の境界の確認だが、結局この後用務員小屋に帰るまで何も無かった。

 尤も、野外学習まで後三週間もあるので、今後も定期的に確認は行うのだが。

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