第15話「図書館-2」
本日二話目となります。
ご注意ください。
「貴方はあの時の……」
赤髪の少女は、試験の日に俺とぶつかった際にも居た金髪の少女と黒髪の少女を従えた状態で、俺の前に立っていた。
その表情はとても驚いているものである。
「その……また会いましたね」
「あ、はい、そう……ですね」
彼女がなぜそこまで驚いているのかは分からない。
俺が本棚の間から出てきただけで、ここまで驚く事が有るとは思えないからだ。
なので、俺としては無難に返す他ない。
「お怪我などはありませんでしたか?」
「は、はい大丈夫です!」
彼女が俺の言葉に対して大きな声で返事をしてしまうと、タイディーさんからは静かにするようにと言う鋭い視線が飛んでくる。
俺もこの場で騒ぐのはよくないと思ったので、手で彼女に声を抑える様に促す。
「も、申し訳ありません……」
「いえ……」
どうやら彼女は少々慌てるようなところがあるらしい。
顔も妙に赤いし、何処か調子でも悪いのだろうか?
「えと、貴方は……あ、そう言えば名前は……」
「そう言えば、お互いに名前も知らないままでしたね」
と、俺も彼女もここでお互いに相手の名前を知らない事に気づく。
この短期間で二度も出会う事からして、何かしらの縁があるようだし、名乗っておいた方が何かと都合がいいだろう。
「俺の名前はティタン・ボースミスと言います。今日付けで、学園の狩猟用務員にしていただきました」
「ティタン……様……」
俺の自己紹介に何故か彼女は目を潤ませる。
そんな彼女の反応を受けてか、後ろに居る二人の少女の内、金髪の少女が胡乱気な瞳を俺の方に向けてくる。
どうして彼女はこんな反応を見せているのだろうか?
訳が分からない。
金髪の少女の視線は立ち位置から推測できる立場を考えれば、とても妥当なものであり、理解も出来るのだが、彼女はどうして俺にこんな瞳を俺に向けているのだろうか?
「はっ、わ、私はメルトレスと言います。もうすぐ学園の四年生になります。ほ、ほら二人も」
「……。ゲルド・ゴルデンです。直に四年生になります」
「イニム・エスケーと言います。以下同じくです」
赤髪の少女……メルトレスが自分の名前を名乗り、メルトレスに促される形で金髪の少女……ゲルドが不精不精と言った様子で名乗り、ゲルドに続く形で黒髪の少女……イニムが名乗る。
立ち位置から察するに、メルトレスは何処か良い家の娘で、ゲルドとイニムはメルトレスの護衛と言ったところだろうか。
メルトレスが何故家名を名乗らなかったのかが気になるところだが、今は気にしなくていいだろう。
「ティタン。そろそろ」
「あ、はい。では、俺はこれにて。機会があれば、またお会いしましょう」
「はいっ!その時はよろしくお願いします!」
「……」
「ふーん……」
「ゴホン」
俺とメルトレスは互いに一礼をすると、タイディーさんに思いっきり睨まれながら、離れていく。
そして、タイディーさんから釘を刺されつつ、二週間と言う期限で三冊の本を借りると、俺とクリムさんは図書館を後にする。
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そうして、雷の小屋……狩猟用務員の用務員小屋に帰って来て、朝は忙しくて出来なかった道具の整備を俺とクリムさんがそれぞれに始めてしばらく経った頃だった。
「何と言うか……凄いな、お前は」
「はい?」
唐突にクリムさんが俺に向けて、何処か呆れた瞳を向けつつ、そう言ってくる。
「いやまあ、あの態度は知らないからこそ何だろうが……それでも凄いと思うぞ」
「えーと、どういう事でしょうか?」
俺は何かやらかしてしまったのだろうか?
だが、一体どこで何をしてしまったのか、俺には見当もつかなかった。
「お前、彼女……メルトレスのフルネームを知っているか?」
「えーと、気にはなりましたけど、知らないです」
メルトレス?
やはり、彼女は何処かの良い家の出身なのだろうか?
ただ、彼女がどこの家の人間であっても、クリムさんがここまで呆れる必要はないと思うのだが……一体どういう事だろうか?
そんな俺の思考は、この後に告げられたクリムさんの言葉によって、全て吹き飛ぶことになった。
「そうか。ならはっきりと言っておこう。彼女のフルネームはメルトレス・エレメー・オースティア。オースティア王家の一員であり、現王の四番目の子、第三王女だ」
「は?」
俺の口から間抜けとしか称しようのない声が漏れる。
え?王家?王女?メルトレスが?
……。
「あの、クリムさん……もしかして俺は……」
頭が真っ白になる。
マトモに物を考えられなくなる。
クリムさんの嘘と言う可能性は?
いや、この場でクリムさんが嘘を吐く意味が無い。
だから真実だ。
でもそうなると俺は御姫様に対して……あ、あっ、あああぁぁぁ!?
「安心しろ。俺が見た限り、ティタン、お前の対応は特に問題あるものではなかった。それに相手はわざと自分が王家の一員であることを明かさなかったんだ。お前の事情も考慮すれば、王族の顔が分からなかった事は問題にはならない」
もしかしたら家に大きな迷惑をかけてしまったかもしれない。
そんな思いから俺が顔面を青くするなかで、俺を落ち着かせるようにクリムさんが大丈夫だと言ってくる。
いや、でも、だけど、だがしかし!?
「それよりもだ。問題はこれからだぞ。お前は相手が王族だと分かった途端に掌返しをするような男になるか、王族だと理解した上で変わらない姿を晒す図太さを持った男になるしかないぞ」
「……。それ、どっちもツラくないですか……?」
「運が悪かったと思って諦めろ。ああ、俺としては後者をお勧めするぞ」
クリムさんの淡々とした言葉に、俺も腹を括るしかないのだと悟る。
実際、掌返しよりは、態度を変えない方が、俺個人への被害は増しても、メルトレスに与えるダメージは抑えられるだろう。
「善処……します……」
「まあ、学園の敷地内に居る限りは王族だろうと学生だ。いざと言う時にはゴーリ班長と学園長も助けてくれるはずだから……まあ、頑張れ」
とりあえず……うん、俺は今まで通りに礼儀正しくいるべきだろう。
狩人基準の礼儀正しさだから、どこまで通用するか分からないのが、とても不安ではあるけれど。