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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
143/185

第143話「事情聴取-4」

 メルトレス襲撃から数日後のオースティア城のとある一室にて。


「『不死化(イモータル)』、『肉体限界超越(リミットカット)』、『思想(ブレイン)操作(ウォッシュ)』、『紋章刷(インプリン)り込み(ティング)』、『強制隷属(エンスレイヴ)』、ティタン・ボースミスの仮称『魂狩り(ブラドボーンド)の血矢(チェイサー)』含めて、禁術の嵐だな。まったく、これは一体何時の時代の話だ」

「残念ながらつい先日この城の中で起きた出来事じゃのう。気持ちは分からんでもないが」

 そこでは王立騎士団オースティア王親衛隊、親衛隊隊長ラショナル・キャバリーと、王立オースティア魔紋学園学園長ジニアス・カレッジの二人が、以前と同じように長い机を間に挟んで座っていた。

 だがしかし、前回と違って、二人の表情には険しいものであると同時に、何処か疲れた様子も混ざっていた。

 だがそれも仕方がない事だろう。


「学園長。一応聞いておくが、この五つの禁術を全て学んだ者は学園の歴史中に一人でも存在しているか?」

「儂の知る限りでは一つ二つ程度ならば学んだ者は居る。が、五つ全てとなると禁術目録を作ったヒフミニ・ミナタストぐらいじゃろうな。そして現在生きている者で、これらの禁術を扱える者は、全員所在も行動もはっきりしておる。彼らはまず間違いなく今回の件には無関係じゃよ。それと学園の禁術書庫の守りを突破された形跡も無しじゃ。こちらは確約しよう」

 メルトレス襲撃の際に魔法使いの男が用いた紋章魔法は、大紋章魔法使いとしてとても有名な存在であるヒフミニ・ミナタストが晩年になって定めた他者に使ってはならない魔法……禁術目録に記されている魔法が大半を占めていたのだから。


「それが事実かを調べるのは私たちの仕事だ」

「そうじゃな。それはお主らの仕事じゃ」

 一つ一つでも使用には厳重な取り決めが必要で、資料の保管も徹底されている禁術。

 それをたった一人の人間が軽々と五つも使って見せたのだから、優れた紋章魔法使いであればあるほど、今回の件で受けた衝撃は大きな物だった。

 それこそ仲が悪い事で有名な親衛隊隊長と学園長がそんな事をしている場合ではないと思い、協力して事にあたろうと考える程度には。


「それで学園長。イマジナ・ミナタストは禁術使いだと思うか?」

「いや、イマジナ君が禁術使いの可能性は低いと思う」

 学園長は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、それを親衛隊隊長に渡す。

 そして羊皮紙の中身を見た親衛隊隊長は眉間に皺をよせ、訝しげな顔をする。


「イマジナ君が禁術を使うような人間かどうかは分からぬ。卒業後の彼と儂の間に繋がりはなかったし、彼の卒業後のミナタスト家には不幸が続いておるからの。貴族主義者と繋がりが有ったこと含め、どのような精神性を有していてもおかしくはないの」

「だが実力の面でもって禁術使いの可能性は低い。いや、有り得ないか」

「その通りじゃ」

 羊皮紙の中身はイマジナ・ミナタストが学園に通っていた頃の成績について記したものだった。

 その成績の内容は、一言で言ってしまえば酷いものである。

 なにせ、座学についてはそれなりの成績を残しているのだが、実技についてはまるでいいところがないのだから。


「彼は下位紋章魔法までしか使えなかった。禁術の中には極僅かな魔力で発動出来るものもある事にはあるが、大半は上位紋章魔法と同じぐらいかそれ以上の魔力を術者に要求する。魔具の素材はどうにかなっても、彼自身の魔力がまるで足りないんじゃよ。それこそ血の滲むような努力を積み重ねてもじゃ」

「在学中は実力を偽っていた可能性は?」

「その可能性はまず無いの。実力を偽るにしても、もう少しは力を見せたはずじゃよ。それほどまでに彼の状況はツラいものじゃった。それでも彼は理論家ではなく、実際に紋章魔法を使う道を諦められなかったようじゃがの……」

「なるほど……」

 当時の事を思い出したのか、学園長が少し悲しそうな顔をする。


「となると問題は禁術使いに自分の意思で協力しているのか、それともあの夜の魔法使いの男のように、ただ使われているのか。だな」

「そうじゃな。ただ使われているのであれば、救いの道は何処かにあるかもしれん」

「救いの道……か。それについては怪しいところだな。余りにも事件が大き過ぎる。最低でもミナタスト子爵家の取り潰しは確定だろう」

「まあ、そこは陛下が御判断なさる所じゃよ。それよりもじゃ」

「なんだ?」

 再び学園長が懐から羊皮紙を取り出す。


「ティタン君から、例の魔法使いが呟いていた言葉の内容についての報告が上がっている。見るかの?」

「見させてもらおう。ノンフィー・コンプレークスが聞いた内容と一致するのなら、今後の捜査に生かせるかもしれない」

「む、ノンフィー君の?」

「ああ、これだ」

 学園長の動きと対を為すように、親衛隊隊長も一枚の羊皮紙を取りだす。

 そしてお互いの羊皮紙を見た二人は一度視線を交わしてから頷き合う。


「ティタン君相手に二度ならず三度までもと言う存在で思いつくのが一つだけあるの」

「ライ・オドルが崇めていた理神とか言う存在か」

「フラッシュピーコックの金属性変異種の件にも関わっているのならば辻褄が合うじゃろ」

「『強制隷属』が使えるならば、魔獣の使役もそれほど難しくはない……か。本物か?」

「いや、複数の禁術が使えるからと驕っただけの人間と見る方がいいじゃろ。じゃが……」

「周囲の人間に神と崇めさせられるだけの実力はあると見るべきか。厄介だな」

 二人は真剣な表情で今後について……特にイマジナ・ミナタストと理神の間に繋がりが有った場合について話し合う。

 そうして一通り話し合ったところで二人は結論付ける。


「箒星の神は他の神を否定していない。が、しかしだ」

「理神と言うのが相当不遜な存在である事。それに儂ら普通の人間相手ならば十分な実力を有している事は間違いないじゃろうな」

「部下には気をつけて事に当たるように話しておくとしよう」

「そうじゃな。それがいいじゃろう。学園の方も警戒を強めておこう」

「そうしておいてくれ」

 今まで以上に慎重に事に当たるべきだと。

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― 新着の感想 ―
ブラドボーン…Bloodborne!?!? 匂い立つなぁ……!
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