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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
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第142話「事情聴取-3」

「まずはティタンが使った魔法についてでやんすね。どうにも奇妙な魔法を使っていたようでやんすしねぇ」

「奇妙って……」

 まず聞かれたのは俺があの場で使った魔法……『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』と『能力(アッスーム)詐称(ヒュムパラメタ)』についてだった。


「耳が長くなったり、口から黒い煙を吐いたりしていたと聞いているでやんすが」

「えーと……」

 確かに『能力詐称』の発動中、耳が長くなっていたり、口から煙を吐いていたりはしていたかもしれない。

 が、あれは『能力詐称』そのものの効果ではなく、副作用あるいは前兆と呼ぶべき物だろう。

 なにせ耳が長くなるのも、口から煙を出すのも、俺本来の姿であるあの獣の姿に近づいているが故になのだから。

 つまり、あの状態を維持し続けた場合、やがては人としての理性を失い、獣に堕ちる事になるのである。

 ただ……それを説明するのは難しい。

 そもそも、この場に居る人間が俺の魔法について何処まで知っているか分からないし。


「とりあえず俺が使ったのは……」

 と言うわけで、俺はアレは意思魔法である事をまずははっきりと伝えた。

 その上で『血質詐称』は魔力の増強で、『能力詐称』は身体能力の増強だと伝えた。

 まあ、嘘は言っていないと思う。

 実際、『能力詐称』を解除した俺の身体能力は大きく上がる事になるだから。


「「「……」」」

「えーと?」

 が、どうやら俺の答えは彼らにとっては納得がいくものではなかったらしい。

 ソウソーさんとメテウス兄さん含めて、部屋の中に居る俺とノンフィーさん以外の全員が渋い表情をしている。

 と言うかこの状況でなぜノンフィーさんは笑っていられるのだろうか?

 本当に自由な人である。


「ティタン、お前は本当にその二つの魔法しか使った覚えがないんだな」

「ええまあ、他に魔法を使った覚えはないですよ。メテウス兄さん」

「つまり自覚なしっすか。ああいや、そもそもアレが本当に魔法なのかは怪しいってのがノンフィーの意見だったでやんすね」

「アレ?」

 アレとはいったい何の事だろうか?

 俺が使った覚えのある魔法は、『血質詐称』と『能力詐称』を除けば、後は『緩和(イーズィング)』くらいのものである。

 だが『緩和』がソウソーさんの言う所のアレだとは思えない。

 『緩和』はソウソーさんに習った紋章魔法であるし、発動についても殆ど自動で発動するようにしてあったのだから。

 ああ、今にして思えば、扉とかを全力で殴っても拳を痛めなかったのは『緩和』のおかげなのかもしれない。

 そう思うと、やっぱり役に立つ魔法なんだなと思う。


「だから言っただろう。アレはただの魔力の自然現象転化、それに特殊な弓の影響だって」

「そう言われたって俄かには信じがたいでやんすよ。膨大な量の魔力を込められていたとはいえ、ただの矢がバリスタのような速さで飛んだ挙句に『不死化(イモータル)』の魔法を無効化するだなんて。と言うか、信じられる方がおかしいっす」

 ソウソーさんの言葉に半分以上の人が頷いて見せる。

 何となく、今頷いて見せた人の方が紋章魔法に詳しい気がするのだが、そんなにアレ……魔法使いの男に向けて俺が放った矢は紋章魔法学的にはおかしなものだったのだろうか?


「けれどそれが事実だ。ほらティタン君、君があの時あの矢に込めたもの、それと狙っていたものについて話して見せなよ」

「話してって……」

「「「……」」」

「まあ、そう言う事なら話しますけど……」

 いずれにしても話す以外の選択肢はない。

 と言うわけで、俺はあの矢に大量の魔力の他に殺意や怒りを込めていた事、それにあの魔法使いの男にかけられていた魔法を辿って、本体の魂にまで攻撃を仕掛けようとしたことを話す。

 で、話した結果。


「禁術指定待ったなしっすね」

「えっ!?」

「これは迂闊に検証も出来ないな……」

「えっ?えっ?」

「理論上は納得がいく。だが……だがしかしだ……いったいどれ程の意思と魔力を込めればこんな事が出来るというのだ……」

「紋章魔法使い殺しにも程があるぞこの魔法は……魔力現象で防げないなんて反則だ……」

「迂闊な理論化は止めておいた方がいいな……悪用される未来しか思い浮かばない……」

「えーと……」

 ノンフィーさん以外の全員が顔を青ざめさせたり、頬をヒク付かせたり、嫌な汗をかいているようだった。

 いやまあ、彼らの話を聞いていれば、俺がやった事の危険性は理解できる。

 だがしかし、これほどの否定的な反応を生み出すとは思わなかった。


「あっはっはっはっ、はひっ、いやー、流石はティタン君。ふふっ、そこら辺の紋章魔法使いとはやれる事のスケールが違うね。ひはっ、あー、お腹が痛い……」

 なお、ノンフィーさんは何故か大爆笑していた。

 幾らなんでも自由過ぎないかこの人。


「まああれだ。心配しなくても悪用はされないと思うよ。と言うかしたくても出来ないと思う。なにせティタン君の膨大な妖・闇・火属性を注ぎ込んで初めて成立しうる魔法なわけだし、どんなに上手く理論化、効率化をしても、ドラゴンを丸々一頭使い潰すぐらいになるだろうさ」

「は、はあ……」

「「「……」」」

 と、ここでノンフィーさんが俺を擁護するような発言をしてくれる。

 ただ……ドラゴン丸々一頭は幾らなんでも盛り過ぎではないかと思う。

 あの矢がそれほどのものだとは思えない。


「弓が突然現れた件も例の『破壊者(ブレイカー)』が関わっていると考えれば別段何もおかしくはない」

「そうなんでやんすがね……」

「ティタン君自身が悪用する危険性も考えなくていいさ。彼の人となりは善良そのものだからね」

「まあ、私の弟だからな……」

「そう言うわけだからこの件はこれぐらいにしておこうじゃないか。どうせこれ以上話し合っても碌な意見は出ないだろうしね。では、私は新作の脚本を書かなければならないのでこれにて失礼」

 と、俺としては言いたかったのだが、気が付けばノンフィーさんは部屋の外に出て行ってしまっていた。


「はあ、仕方が無いっすね。場も白けてしまったでやんすし、これで解散と言う事にしておくでやんすよ」

「そうだな。それが良いだろう」

「えーと、お疲れ様でした?」

「きゅっきゅっきゅー、そう言う事っすねー。あ、狩猟用務員の仕事は明日からっすから、今晩中には学園に帰っておくんでやんすよー」

「分かりました」

 そして、ノンフィーさんに釣られるように、他の人たちも部屋の外に出て行き、俺にも何が何だか分からない内に話は終わってしまったのだった。

 んー……なんだろうか……ノンフィーさんに全てを都合よく誘導されてしまった気がしてしょうがない。

 とりあえず今夜にでもこの時点で話せなかった部分についてソウソーさんに話しておこう。

 あの時あの魔法使いの男は、これで二度ならず三度までもと言ったのだから。

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