第14話「図書館-1」
「さて、次は地の塔だ」
「はい」
検査室を出た俺とクリムさんは、そのまま地の塔へと向かう。
「図書館で紋章魔法の基礎について書かれた本を借りる。ですよね」
「その通りだ。正確に言えば、紋章魔法学の基礎について書かれた本に加えて、火属性と闇属性の紋章魔法の基本部分に限って書いた本も借りる」
地の塔はクリムさんが先程説明してくれた通り、一階から三階が図書館に、四階から上が倉庫になっている。
そして、図書館部分についてだが、基本的には上の階程貴重な書物が揃っているらしく、二階は一部の生徒と職員のみが立ち入れ、三階に至っては学園長か地の塔の管理者の許可が無ければ、絶対に立ち入れないらしい。
で、そのような事情があるために、他の塔と違って地の塔には三階と四階を繋ぐ階段が存在していない。
いやまあ、本当は一般の利用者が利用できる位置に無いだけで、何処かにあるのかもしれないが……表向きには無い事になっている。
俺も興味は湧かないので気にする気はない。
「妖属性についてはいいんですか?」
「アレは他が出来てからでいい。闇も多少面倒な属性だし、妖は理解しづらい属性だからな」
「そうなんですか」
そもそもとして、現状では二階以上について興味を抱く必要もないだろう。
なにせ今の俺は火の紋章魔法の基礎しか使えないような人間なのだから。
そんな場所に収められている本を読んでも、理解すら碌にできないだろう。
「おや、クリムさんに……ああ、例の新人の方ですね」
「ティタン・ボースミスと言います。よろしくお願いします」
「私は王立オースティア魔紋学園図書館司書、タイディー・ライブラと言います。本は綺麗に扱ってくださいね。後、図書館ではお静かに」
「はい」
図書館に入った俺とクリムさんに対して、黒髪長髪の女性が緑色の目を向けて話しかけてくる。
なので、俺は自己紹介をしつつ彼女……タイディーさんに対して頭を下げる。
「よし、それじゃあとっとと目的の本を取りに行くぞ」
「分かりました」
挨拶が終わったところで、俺はクリムさんに連れられて、目的の本がある場所へと向かう。
で、移動する間に図書館の中を軽く見回してみる。
「……。意外と紋章魔法に関係のない本も多いんですね」
「紋章魔法だけを修めても、一流の魔法使いにはなれない。一流の魔法使いになるためには、幅広い知識と教養も必要である。と言う歴代学園長の考え方が反映された結果だな。実際、一流の魔法使いを目指そうと思ったら、一見、紋章魔法に関係なさそうな知識も必要になる」
「なるほど」
俺は最初、魔紋学園の図書館なので、紋章魔法に関する本ばかりが置かれていると思っていた。
が、実際には多種多様な本が……それこそ小説や童話、地理や歴史の本、それ以外にも音楽や絵画に関係する本など、何故そんな物がと言う本も置かれている。
ただ、クリムさんの言葉が正しいのであれば、これらの本からも紋章魔法について何かしらの知識が得られるのかもしれない。
「この辺りがそうだな。まずは……これだな」
「『紋章魔法学―基礎』ですか」
「紋章魔法の基本的な部分について一通り書かれている本だ。最新版だから、三十年ほど前に確立されたばかりの妖属性についても記されている」
「なるほど」
目的の場所に着いたクリムさんは迷いなく一冊の本を本棚から取り出すと、俺に手渡す。
表紙に使われている革の感じからして、新し目の本であることが伝わってくる。
「火属性と闇属性の本は……これだな」
「おっと」
クリムさんは続けて二冊の本を本棚から取り出すと、『紋章魔法学―基礎』の上に乗せる。
装丁の革が赤く染められた本と、黒くて力強い文字でタイトルが書かれている本だ。
タイトルは……赤い本が『火属性紋章魔法入門』、黒い文字の本が『闇属性基礎・汝、闇に飲まれることなかれ』か。
「……」
えーと、前者はともかく、後者のタイトルはどうなんだろうか?
「安心しろ。タイトルはアレだが、中身は至極マトモだ。少なくとも他の闇属性の紋章魔法の基礎について、記した本よりは遥かに分かり易い」
「分かりました」
俺の疑念が顔に出ていたのだろう、クリムさんが大丈夫だと言ってくる。
うん、ここはクリムさんを信じよう。
今チラリと目に入ったが、他の闇属性について記していそうな本のタイトルは、俺の手元にあるこの本よりももっと理解しがたいものだったし。
「まずは『紋章魔法学-基礎』を読むんだ。それで紋章魔法についての基礎的な知識を得たら、そっちの二冊を読むといい。まあ、出来る事なら火属性の方を優先だな。そちらなら俺とゴーリ班長でも教えられるし、お前自身も元から使える分だけ理解しやすいはずだ」
「分かりました」
読む順番は『紋章魔法学―基礎』、『火属性紋章魔法入門』、『闇属性基礎』か。
実際、今まで全く縁が無かった闇属性よりも、コンドラ山に居た頃から日常的に使っていた火属性の方が理解しやすそうな気はする。
「よし、それじゃあ司書の所に持って行くぞ」
「はい」
俺は三冊の本を小脇に抱えると、クリムさんの後について本棚の間から出る。
「あ……」
「ん……?あっ」
そして本棚の脇から出た所で見たのは、試験を行う前にぶつかったあの赤髪の少女の姿だった。




