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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
136/185

第136話「禁術使い-5」

開幕から人を選ぶ描写がございますのでご注意ください。

「オボアアアアァァァァ!」

 魔法使いの男の口から吐き出されたそれは、見た目だけについて言えば、沸騰した黒い液体だった。

 だがそれは紋章魔法によって作り出された液体であり、当然ながら普通の液体では無かった。


「「「ーーーーーー!?」」」

「酸!?」

 黒い液体はまず吐き出した男の前の床に、続いて男自身の足にかかり、その後男とメルトレスたちの間に居た兵士たちの膝下へとかかった。

 そして、その全てを部屋の奥へと押し流しつつ侵し、嫌な音と臭いを立たせながら焼き、溶かし、まるで酸のような振る舞いを見せたのである。

 そう、黒い液体の正体は触れるもの全てを焼き溶かす強烈な酸だった。

 それもただの酸ではなく、水属性によって生み出された液体に、大量の闇属性と火属性を魔力練り込み混ぜ合わせる事によって、物質であるかも魔法であるかもお構いなしに溶かしてみせる酸である。


「姫様!」

「メルトレス様!」

「分かっています!」

 酸と理解した時点でメルトレスたちは既に動いていた。

 勿論、メルトレスたちに目の前の酸の正確な知識は存在しない。

 だが、酸を吐き出す直前の男の口から赤、青、黒の三色の光が放たれていた事から、今自分たちに向けられている魔法が三属性を融合した上位紋章魔法相当の魔法である事は理解していた。

 それ故にメルトレスたちにはそれが攻撃を凌げた後に致命的な隙を生み出すと分かっていても、最大限の防御を行う以外の選択肢はなかった。


「『(エリア)拡大(エンハンス)』『土塁(ヒプアプソイル)』!」

 まず先頭に立ったゲルドが両手で盾を構えつつ、金属性下位紋章魔法『盾拡大』と地属性下位紋章魔法『土塁』を発動。

 酸の流れを押しとどめる壁になるように金属性の盾のサイズが二回り以上大きくなると共に、メルトレスたちが立っている場所を押し上げるように大量の土が生じる。


「『旋風(トルネイド)結界(シェル)』!」

 続けてイニムが風属性中位紋章魔法『旋風結界』を発動。

 脇から流れ込んでくる、あるいは飛沫となって飛んでくる酸を退けるように、メルトレスたちの周囲を旋風の壁によって覆う。


「『黄金を以て(ゴルドメイク)聖別せよ(サンクチュアリ)』!」

 最後にメルトレスが光金複合中位紋章魔法『黄金を以て聖別せよ』を発動。

 他者の領域を己の領域に変えてしまう浸食と言う極めて攻撃的な性質を有する闇属性に対抗するために編み出されたその紋章魔法によって、ゲルドとイニムが使った『盾拡大』、『土塁』、『旋風結界』の三つに黄金色の輝きと共に高度な魔法的な守りを与える。


「ぐっ!?」

「うっ……」

「二人とも頑張りなさい!」

「「「ーーーーーー!?」」」

 メルトレスたちの守りと、魔法使いの男が生み出した酸がぶつかり合う。

 部屋の中に置かれていた高価な家具や調度品と言った物たちが見るも無残な姿に溶かされ、酸の波に巻き込まれた者たちが悲痛な叫び声を上げる。

 酸そのものは防ぐ事が出来たが、それらの物が視覚的及び聴覚的にメルトレスたちに与える衝撃は決して軽いものでは無く、魔法使いの男……より正確に言えば魔法使いの男を人形にして操っている何者かに対する怒りを深めつつも、メルトレスたちの守りは少しずつ揺らぎ始める。


「ほウ、これを凌ぐカ」

「はぁはぁ……」

「なんとか……しの……げた……」

「なんて臭い……」

 だが幸いにしてメルトレスたちの守りが破られるよりも早く、男の生み出した酸は効果時間を終え、部屋に嫌な臭気を残しつつも消え去っていた。

 しかし、状況は完全に悪化していた。


「我が復活の贄としテ、増々相応しいナ」

「復活……?」

「姫様。今はそれどころではありません」

「囲まれ……ましたね」

 酸の流れに乗る……否、酸に押し流される形で、兵士たちが室内に侵入。

 『不死化(イモータル)』の魔法によって再生を終えると、メルトレスたちを包囲するように構えていたからである。

 そして酸を放っている間に動いているのは魔法使いの男もだった。


「さテ、さテ、ならばこれはどうだろうナ?」

「なっ!?」

 魔法使いの男の目の前には既に複雑な紋章が作り出されていた。

 魔法使いの男の指が伸び、複雑に絡み合う事によって。

 それはつまり、『不死化』の魔法によって思いのままに生成される肉体を利用し、魔法使いの男の血肉自体を紋章魔法の素材にする事によって、魔力の効率は度外視しつつも、状況に応じた紋章魔法を使えると言う、普通の人間では仮に思いついても決して実行しないであろう悍ましさという物に血肉を与えたような戦術だった。


「護衛は殺セ」

「「「ーーーーーー!!」」」

 兵士たちがメルトレスたちに向かって切りかかってくる。

 それと同時に魔法使いの男が作り出した紋章が、白、黄、金の三色の光を放ち始める。

 それはつまり、光、風、雷の三属性が融合された紋章魔法を目の前の男は使おうとしていると言う事だった。


「っつ!?どうすれば!?」

 メルトレスは必死になってこの場を切り抜けるためにはどうすればいいかを考える。

 だが、既に『煮え(ブラク)滾る(ボイリング)酸の黒海(アシドオシャン)』で疲弊しているメルトレスたちには……否、仮に疲弊していなくても、メルトレスたちには防ぐ手段は無かっただろう。

 何故ならば光と雷の二属性程に貫通力と速さに優れた魔法は無いのだから。

 そこに速さに優れた風属性が加わるのであれば、見てから対応するという選択肢は存在しない。

 更にメルトレスが紋章から読み取った情報として、魔法使いの男はそれを雨のように分けて放つつもりであった。

 であれば、メルトレスたちの実力ではもはや避ける手段も防ぐ手段も無かった。


「さア、贄になるがいイ」

「くっ、ティタン様。申し訳……」

 そうしてメルトレスが思わずティタンに対して謝ろうとした時だった。


「オラアアアアァァァァ!!」

 魔法使いが生み出した強烈な酸でも全く解けない程に強化された部屋の扉が、獣のような男のような、どちらともつかない雄叫びと共に破られた。

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