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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人

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133/185

第133話「禁術使い-2」

 時は少々遡り、ティタンが暗殺者たちに襲われ始めた頃。


「ふぅ……」

 王族が何時までもホールに居るとそれはそれで面倒な事になるという事で、メルトレスはゲルドとイニムの二人を連れて、オースティア城内に存在している自室に戻っていた。


「お疲れ様です。姫様」

「お茶です。メルトレス様」

「二人ともありがとう」

 メルトレスの部屋は第三王女に与えられている部屋だけあってとにかく広く、学園の寮の私室どころか、用務員小屋と比べても問題がない程の広さがあった。

 そして、それだけの広さと王族の格に相応しい家具と調度品が置かれており、部屋の中は何処か冷たく感じるも、非常に整った誰の目に留まっても恥ずかしくないような部屋になっていた。


「さて……」

 そんな部屋の中、メルトレスはイニムの出したお茶を一口飲むと、部屋の中に置いてあった自分愛用のサーベルを取り、調子を確かめた後、何時でも抜けるように自分の手元に置く。

 私室とは言えど、唐突に近い形で武器の調子を確かめる。

 それは本来ならば従者二人から咎められても仕方がない行動である。

 だが、ゲルドもイニムもメルトレスの行動を咎める事は無かった。

 何故ならば……


「ゲルド、イニム。状況は?」

「部屋に何かが仕掛けられている様子はありませんでした。また、誰が隠れていた形跡もありませんでした。警備については、部屋の前にオースティア王親衛隊の女性騎士が二名付いています」

「魔法による盗聴などは確認されませんでした。備品の欠損もありません。バルコニーには既に感知用の紋章魔法を設置してありますので、バルコニーの範囲内に入った時点で感知可能です」

「分かったわ」

 ゲルドとイニムの二人も、とても王城の中とは思えないようなレベルでの警戒をしていたからである。

 そしてその証拠として、ゲルドは既に鎧を身に付け、愛用の剣と盾を持ち、それらの全てに紋章をセットし終えていた。

 イニムも愛用の杖を持ち、チョーク型の魔具でバルコニーに敵感知用の紋章魔法を設置、侍女服の下にも複数の紋章を仕込んでいた。

 そんな三人の姿は、それこそこれから何処かの戦場に赴くと言っても、さほど違和感がない程の物であった。


「姫様。私の方からもいいですか?」

「何かしら?ゲルド」

 部屋の安全が一応は確保できたからだろうか。

 多少は気を楽にしたメルトレスに対して、ゲルドが質問をする。


「ティタンさんは確かに『正体は分からないが、危険な相手が居る』と、そう仰ったのですね」

「ええ、間違いなく言ったわ。ゲルドはティタン様の言葉が信じられないの?」

 ゲルドの質問にメルトレスはほんの僅かに眉根を潜めつつ、言葉を返す。


「いえ、ティタンさんの言葉なら十分検討に値すると思います。姫様の護衛としては少々心苦しい事ではありますが、ティタンさんのそう言う気配を感じ取る能力は私などとは比較にならないはずですから」

「でも、検討止まりなのね」

「第三者が真偽を判断できない情報ですから。それにあまり大げさに守りを固めてしまうと、ティタンさんたちがしている何かの邪魔になる可能性もありますし、大げさな守りになったために生まれてしまった隙を突かれる可能性もあります」

「ティタンさんはそちらの警戒も間違いなくしてますよね。わざわざ私たち二人だけを指名して、メルトレス様に付くように仰っていますし」

「そうね。それもあるかもしれないわね」

 ゲルドとイニムのティタンを信頼していると取る事も出来る言葉にメルトレスは表情を元の笑顔に戻しつつ、茶を改めて口に含み、飲む。


「それで姫様」

「何かしら?」

「実際の所、姫様は今夜何者かが仕掛けてくると思っていますか?」

「……」

 ゲルドの言葉にメルトレスは少しだが悩む様子を見せる。


「正直に言うと、オースティア城内で誰かが仕掛けてくる可能性はそこまで考えていないわ。もしも誰かが私に対して何かを仕掛けてくるのであれば、明日、学園に帰る道の途中で仕掛けてくると思う」

 そしてメルトレスの口から出てきたのは、とても妥当な言葉だった。

 実際、舞踏会が開かれているホール周辺に比べると、王族の寝室がある辺りの警備はとても厳重で、オースティア王親衛隊による物理魔法両面からの警備は、一流の魔法使いによる侵入は厳しいと言わせる程の物だった。

 なので、相手が何かを仕掛けて来るならば、街中ではあるが、移動中と言うどうしても警備が緩くなる時を狙う筈と言うメルトレスの思考は極々普通の物だと言えた。


「そう……ですか」

「ゲルド?」

 だがしかし、メルトレスがそう考えたからこそ、ゲルドは警戒感を露わにした。

 と言うのも、ゲルドは舞踏会の少し前に、師匠であるトレランスからこう言われていたのである。


『相手が仕掛けてこないと思っている時に仕掛ける。だからこそ、奇襲という物は厄介な戦術になる』


 と。

 師の言うとおりであるならば、王城の中でこそ奇襲を仕掛けてくる者が居るのではないか。

 そう思ったからこそ、ゲルドは警戒感を露わにし、侵入口になるであろうバルコニーの方へと目を向けていた。

 その時だった。


「っつ!バルコニーに反応有り!」

「なっ!?」

「姫様!」

 突然バルコニーに人影が五つ現れ、イニムが警戒の声を上げると同時に、四つの人影が部屋の中に侵入、そしてバルコニーに残っている人影が何かしらの魔法を発動させようとしていた。

 その中でイニムはメルトレスを連れて部屋の外に繋がる扉に向かって駆け始める。

 そして、偶然バルコニーに目を向けていたゲルドは剣を抜き、人影の正体を確かめるよりも早く一つの紋章魔法を発動していた。


「『鉄盤生成(アイアンボード)』!」

 魔法の名前は金属性下位紋章魔法『鉄盤生成』。

 鉄製の板を生み出す紋章魔法であり、剣の振りに合わせて生み出された鉄の板は……四つの人影を巻き込むように真っ直ぐに飛んで行った。

05/03誤字訂正

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