第132話「禁術使い-1」
「さてティタン。状況を説明するっす」
「あっ、はい」
炭になった暗殺者三人がそれ以上再生しない事を確かめると、ソウソーさんは部下の兵士に暗殺者のリーダーを捕縛させると共に、他の暗殺者の死体を回収させる。
で、指示を出し終わったところで俺にこの場で何が有ったのかを聞いてくる。
なので俺は彼らが暗殺者である事。
突然、暴走を始め、見境なく襲い掛かるようになった事。
そして、この場を凌ぐために暗殺者のリーダーと共闘していた事を話す。
「それと……」
「それと?」
「たぶんですけど、この通路に何かが仕掛けられていたんだと思います。最初にこの地点を通りかかった時、何か妙な感覚がしましたから」
「……」
「後、この魔法の件については暗殺者たちはただ利用されただけだと思います。彼……暗殺者のリーダーは本気でこの魔法を仕掛けた人物に対して怒っているようでしたから」
「そうっすか。なら丁重に扱えば、相当量の情報が得られそうっすね」
で、最後に補足として幾つかの話をしたのだが、ソウソーさんは俺の言葉に対してとても冷めた目をしていた。
その目はソウソーさんが雷属性の紋章魔法の連打によって焼いた暗殺者三人が収められた袋に向けられている。
「あの、ソウソーさん。彼らには一体何が?」
俺はソウソーさんならば何か知っているかと思い、質問をしてみる。
「……。あっしの『落雷』があれだけ直撃しても動き続けていたあたりからして、『不死化』と言う禁術が使われていた事は確かっすね」
「禁術……」
「それを本人たちの意思に関係なく、ただこの場を通り過ぎただけで発動させた点に、意思を奪われていた点、普通の人間の肉体の限界を超えた動きを見せた点、これらを合わせて考えると、複数の禁術を使った奴が居ることになるでやんすね」
「……」
ソウソーさんは少し黙った後、俺の質問に答えてくれた。
それにしても禁術……か。
だが、あの暗殺者三人の哀れな姿を見たら、禁じられるのも当然だと思う。
それほどまでに暗殺者たちの姿は酷いものだった。
「しかし、この場を通っただけで発動となると……拙いかもしれないでやんすね」
「拙い?」
そう言うとソウソーさんは近くに居た兵士たちに何か指示を出し、彼らを何処かに向けて走らせる。
一体どういう事だろうか?
「あの、拙いってのは……」
「この通路は人気が無い通路でやんすが、それでも全く人が通らないわけではないんでやんす。何時から魔法を発動させるための仕掛けが張られていたのかは分からないでやんすが……」
「あ……」
そこまで言われて俺も思い出し、気付く。
この通路は一部の兵士たちが持ち場に行くために使う通路だと言われていた事を。
その兵士たちに、暗殺者にかけられたものと同じ魔法がかけられていたらどうなるのかと言う事に。
「今すぐにその人たちの身柄を押さえないと……」
俺はソウソーさんにすぐに動くように言おうとする。
「拙いっすね。拙いっすが、慌てて動くのは敵の思う壺っすよ」
「でも……」
「敵は恐らく魔法発動のタイミングを任意で選べるでやんす。となれば、あっしらが慌てて行動を起こしてしまえば、それを感知して敵も動く危険性があるでやんす。そうなれば大惨事は確定。それだけは絶対に駄目でやんすよ。そう言うわけでやんすから……落ち着いて、まずは魔法を解除しておくっすよ」
「……はい」
が、それよりも早く発せられたソウソーさんの言葉で俺の動きは止められ、それどころか解除したままだった『血質詐称』をもう一度使うように諭されてしまった。
なので俺は『血質詐称』を発動。
血の色を例の獣の物である黒から、人の物である赤へと変える。
そして、それに合わせて体外に漏れ出し、余っていた魔力も消えていくのだが……何故かそれに合わせて髭が伸びていく。
やはりこれは副作用であるらしい。
「やっぱり副作用何すかね。それ」
「みたいです」
ソウソーさんから髭剃りを受け取り、俺はとりあえずその場で髭を剃ってしまう。
これでまあ、顔については舞踏会に戻っても大丈夫になっただろう。
「それでその、これからどうするんですか?」
「そうっすねぇ……暗殺者についてはあっしらの方で取り調べをするっす。まあ、拷問をしたりせずに、上手く口車に乗せれば、色々と吐いてくれると思うでやんすよ。とりあえず後後の処分含め、命を取る事はたぶんないでやんすね」
「なるほど」
暗殺者のリーダーについては特に心配する必要はないらしい。
俺の命を狙ってきた相手ではあるが、彼の仲間を思う気持ちと一時的に共闘した事を考えると、処刑される事がない点には多少気が晴れる。
「兵士については、今オースティア王親衛隊隊長であるラショナル・キャバリー隊長に情報を送ったところでやんす。どうにも、あっしらが作戦を始める少し前に警備の状態を変えたみたいっすからね。誰がここを通ったのか知るためには隊長の助力は必須っす」
「なるほ……」
兵士についても手を打ってくれている。
そう言うわけで俺が頷こうとした時だった。
「済まないが、今の状況はそんなに悠長な事を言っていられる状況ではないようだよ。ソウソー君にティタン君」
「うげっ……」
「あっ……」
通路の先の方から一人の男性……普段よりもだいぶ控えめな服装に身を包んだノンフィーさんが現れ、彼らしくない真剣な目つきと口ぶりで話しかけてきたのは。
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