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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
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第126話「舞踏会-6」

「ふむ、これはいい意味で想定外と言ったところだな」

「想定外……ですか?」

 ティタンとメルトレスがホールの中央で踊っている頃。

 メルトレスの父親にしてオースティア王国国王であるエレメギル・コントラク・オースティアはホールの奥で貴族たちの挨拶を受けつつ、その合間に自らの親衛隊の隊長であるラショナル・キャバリーとティタンについての会話をしていた。


「ああそうだ。私は彼が今までの人生の殆どを狩人として生きてきたという話から、てっきり貴族社会に馴染めない人間であると思っていた。が、今の彼の動きを見てみろ。初めて夜会を訪れて、それであそこまで堂々と踊れる人間はそうは居ないぞ」

「なるほど、確かにあそこまで周囲を器用に見れ、それを動きに生かせる者は早々居りませんな」

 エレメギル王の言葉に、ラショナルは渋そうな表情で答える。

 その表情を見れば、彼がティタンに対して良い感情を抱いていないのは誰の目にも明らかだった。


「はあ、素直でないなぁ。学園の人間がそんなに嫌いか。ラショナル」

「学園の人間だからと言って、嫌いにはなりませんよ。陛下。ただ、私は陛下と陛下の御家族に危険な物を近づけたくないだけです」

「……、例の魔獣化の件か」

「そうです。アレが制御できるような代物でなければ、私は彼をメルトレス様に近づけたいとは思いません。これは私以外の者に聞いても、王族を守護する者ならば誰もが同じように考えるはずです」

 今度はエレメギル王が渋い顔をする番だった。

 だが実際、ラショナルの言葉は正しい。

 ティタンの中に眠る黒い獣の力は、現状では暴走の危険性を孕んだ上で、ほんの一部……その黒い血に秘められたドラゴンと同じかそれ以上の魔力しか扱えないと言う報告が、学園長からエレメギル王の下にまで上がって来ているからだ。

 暴走すればドラゴンのような高位の魔獣並の力で見境なく暴れ出す男。

 そう聞いて、眉を顰めない警護担当が居ないはずがないのである。


「本当にそれだけが残念よなぁ……それが無ければ学園の狩猟用務員と言う安定した職に、報告を見る限りでは誠実な人柄、今日の態度や動きを見る限りでは学べば礼儀作法も問題ない。それに母親が平民だと言うが、きちんと他の家族には認められている。王家の権威を悪用しようと考える様子も見られない。今の安定している政情と国際情勢、それに娘の気持ちまで合せて考えたら、即決しても良かったぐらいだ」

「陛下、言っておきますが……」

「分かっている。流石に即決はせんさ。最低限の根回しは要る。それに面倒な連中の処分もな」

「分かっておられるならば問題ありません」

 二人の言う面倒な連中。

 それは勿論貴族主義者の事である。

 彼らは権利だけを主張し、義務を放棄する。

 国政に関わらせないようにしているとは言え、そんな貴族を放置していれば、他の真っ当な貴族までもが悪く見られ、やがては国そのものが傾きかねない。

 そのような事態に陥る事を見過ごすほど、今のオースティア王国の上層部は甘くなかった。

 故に彼らはソウソーの妻、マーキュリの生家であるエスピオ侯爵家が主導する形式で、貴族主義者を排除すると同時に、ティタンの資質を確かめられるような策を練り、実行した。

 メルトレスの思い人であるティタンを囮として利用するという策を。


「で、連中は動くと思うか?ラショナル」

「現状では五分五分かと。仲睦まじいように見えますが、お互いに本心を出していない様にも見えますので」

「五分五分か……となるともう一押しが欲しいところだが……」

 直にダンスが終わる。

 そこまで来たところで、エレメギル王はもう一押しないかと考え、顎に手をやる。

 そしてラショナルもダンスの終わり際にティタンがメルトレスに対して何か怪しい事をしないかと挙動を監視していた時だった。


「「っ!?」」

 ティタンがメルトレスの事を抱きしめる。


「あんの糞ガキャァ……」

「陛下……」

 エレメギル王は笑顔のまま、視線だけを険しくし、まるで怨敵を見つめるような視線になる。

 それは完全に娘を見知らぬ男に摂られる事を危惧する父親の目だった。

 そしてそれに合わせるようにラショナルの表情も強張っていた。

 だが、ラショナルの顔が強張っているのは全く別の理由からだった。


「……(今の気配はなんだ?一瞬だが、妙な気配がした。あんな悍ましい、まとわりつくような気配を出せる人間が今日この場に居るなどと言う報告は受けていないし、覚えもない。例の獣の力とやらか?いや、あれは獣ではなく人間の気配だった。これは……警戒を強めるべきかもしれない。あの小僧が死ぬのは構わないが、陛下たちに万が一があってはならない)」

 ラショナルの顔が強張ったのは、ティタンが感じ取った正体不明の貴族からの殺気、それをほんの一部ではあるが、ラショナルも感じ取ったが故にだった。

 それは王族の護衛として、長年勤め上げてきたラショナルでも初めて感じた、本当に気持ちの悪い気配だった。

 そうして感じ取ったが故にラショナルは動く。


「城内に居る全ての兵士と騎士に伝達。全員、警戒度を二段階上げるように」

「了解いたしました」

「ラショナル?」

「陛下、もしかしたら想定外が起きるかもしれません。お気を付けを」

「……。分かった。気をつけておこう」

 近くに居た騎士を呼び寄せ、警戒を強めるように言ったのだった。

 それが相手を助ける一手になるとは気付かずに。

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