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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
115/185

第115話「緩和-2」

「……」

 次の日、俺は早速新しい紋章魔法……妖属性基礎紋章魔法『和らげる(イーズ)』の修得を始めた。


「あの、ソウソーさん。ちょっと疑問に思った事があるんですけどいいですか?」

「何でやんすか?」

 妖属性基礎紋章魔法『和らげる』。

 それは妖属性が有する特性の一つである緩衝の要素を表に出す紋章魔法である。


「『和らげる』って『ぼやける(ヘイズィー)』と違って、効果が随分とはっきり見えてませんか?」

「ああ、その事でやんすか」

 その効果は熱、冷気、毒、衝撃と言った実体を有さないあるいは実体を有していても極々軽いものの動きを抑制し、その効果を和らげること。

 と言うと凄い魔法に思えるが、『和らげる』の段階では魔法を展開できるのはせいぜい片手を覆う程度の範囲であり、抑えると言っても伝わるのを遅くする程度である。


「『和らげる』は元々別の属性の紋章魔法にあったよく似た効果を持つ別の紋章魔法を、妖属性に合わせて再構成した魔法でやんすからね。効果は割とはっきりしているんでやんすよ」

「なるほど。ちなみにその元の魔法って言うのは……」

「水属性の魔法っす。ティタンが覚えるのはちょっと大変っすねー」

「俺に水属性の適性は無いですからね」

 紋章の形は同じ妖属性基礎紋章魔法と言う事で『ぼやける』によく似ている。

 ただ、細かい部分で違いが存在しており、油断していると『ぼやける』と頭の中で混ざり合ってしまいそうな感じもある。

 これは……うん、『ぼやける』の復習も後できちんとしておいた方が良さそうだ。


「ま、分からない事、不明瞭である事を主とする妖属性であるにも関わらず、効果が目に見えると言う点に疑問を抱きたくなる気持ちは分からないでもないでやんすがね。曖昧な部分を前面に出した妖属性紋章魔法ってのは、それだけで修得と使用の難易度が大幅に上がるんでやんすよ」

「そうなんですか?」

「そうなんでやんす。適性や考え方の問題もあるのかもしれないでやんすが、ぶっちゃけ上位妖属性紋章魔法になるとあっしにも扱えないでやんすよ」

「うわぁ……」

 なお、中位紋章魔法は下位紋章魔法の数倍難しく、上位紋章魔法は更にその数倍難しいのだが、妖属性については、成立してからまだ三十年しか経っていないためか、数倍を通り越して十数倍の難易度になるらしい。

 俺よりはるかに優れた紋章魔法使いであるソウソーさんが扱えないのだから、それだけでもその難易度は推して測れるという物である。


「で、分かっていると思うでやんすが、『和らげる』はただの前段階でやんすからね?」

「分かってますって」

 俺はソウソーさんの言葉を受けて、もう一つの紋章……『和らげる』のそれをそのまま複雑化させたような紋章を見る。

 魔法の名前は妖属性下位紋章魔法『緩和(イーズィング)』。

 『和らげる』の範囲を広げ、術者の全身を覆えるようにした紋章魔法であるらしい。


「……」

 そう、ただ広げただけなのだ。

 確かに手にしか展開できない『和らげる』に比べたら、より実戦的だとは思う。

 が、『緩和』で出来るのは実体を有さない攻撃の勢いを削ぐ事だけで、矢や剣、金属性の魔法のように明確な実体を有する魔法に対してはほとんど効果を持たない。

 それに燃費の問題もある。

 常時発動していたりしたら、俺自身の魔力は問題なくても、紋章の劣化が酷い事になってしまうだろう。

 だからと言って任意で発動していたのでは、不意の一撃には対処できない。

 こんな魔法が果たして本当に役立つのだろうか?


「ふむ。ティタンの疑問に答えておくでやんすが、『緩和』において重要なのはその効果の高さではなく適用対象の範囲の広さでやんすよ」

「範囲?」

「そうっす。ティタンも知っての通り『緩和』は熱にも冷気にも対応出来るでやんす。寒暖どちらにも一度に対応できるというのは、中々ないっすよ」

「……」

「それに加えて衝撃緩和で後ろから殴られて一撃で昏倒すると言う状況を避けられ、毒を受けた際には毒が回るまでにかかる時間を長く出来るでやんす」

「……」

「で、これはあまり知られていない話でやんすが、闇属性の浸食や天属性の分解のように、物理的実体を有する防御手段を無視してくるような特性を持つ攻撃に対しても一定の効果がある事が分かっているでやんす。これは大きいでやんすよ」

「なるほど」

 確かにこの範囲の広さは素晴らしいものであるのかもしれない。

 が、それも『緩和』を発動できていればの話である。

 本をざっと読んだ限りの話ではあるが、俺が見た限り『緩和』の魔法の燃費はそこまで良さそうには見えない。

 肝心な時に効果が切れていたら、どうしようもないと思うのだが……。

 と、俺が思っている事が表情に出ていたのか、ソウソーさんは少し笑いながら話を続ける。


「きゅっきゅっきゅっ、燃費の心配をしてるっすね。その点については心配無用っすよ。必要な時だけ発動するように……ティタンが攻撃を受けたと感じた瞬間に発動するようにすればいいだけの話でやんすから」

「そんな事どうやって……まさか!?」

「そう、魔具連動技術っす。それを利用すれば最小限の燃費と動作で発動出来るっす。そして、効果の低さについてもティタンがアレを使えば、二撃目からはさらに高い防御力で対応できるようになる。でやんすから、『緩和』の対象になる手段でティタンを襲う奴は涙目確定っすねー」

「……」

 ああうん、ハーアルターとセーレの二人は決闘の際にソウソーさんに色々と教えて貰ったと茶会の席で言っていた。

 そして教えて貰った時にこの人は底知れないと感じた、と言っていたが……俺にもその言葉の意味が理解できた。

 ソウソーさんはもしかしなくても、俺以上に俺の戦闘能力を把握している。

 全くもって恐ろしい事に、だ。


「さ、王家主催の夜会までに頑張って修得するでやんすよ。そこに持ち込めなければ意味がないでやんすからね」

「あー、はい。頑張ります……」

 いったいこの人は何手先まで読んでいるのか。

 頼もしくもあるが……恐ろしい。

04/16誤字訂正

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