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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人

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第114話「緩和-1」

「で、507教室には誰が居たんですか?」

 メルトレスとの茶会が終わった俺は、覗き見と聞き耳の気配を探って507教室に辿り着いた。

 が、俺が辿り着いた時には既に誰かが居たと言う痕跡を残して、部屋の中に居たであろう何者かたちは全員去ってしまっていた。


「うわっ、居たかどうかの確認すら無しっすか」

「必要ないでしょう。ソウソー先輩」

 だが調べないという選択肢は俺には無かった。

 と言うわけで、用務員小屋に戻った俺は、間違いなくあの時507教室に居たソウソーさんを問い詰めているのだった。


「エレンスゲ手製の像は確保してありますし、エレンスゲが居たならメテウス兄さんも行動を起こしていたと見ていい。で、外部の人間にこんな怪しい行動をさせるのなら、俺との関係も考えてソウソーさんか学園長のどちらかぐらいはあの場に居る筈ですから。そもそも聞き耳の気配もソウソーさんのものでしたしね」

「……」

 俺は507教室の確認をした後に707教室から回収してきたエレンスゲ手製の素焼きの像をソウソーさんに見せる。

 なお、重石代わりなのか、インク型の魔具なのかは分からなかったが、像の中に入っていた液体は既に捨ててあるし、像の目の部分に布も巻いてあるので、この像を介してエレンスゲが用務員小屋の中を覗くのは不可能なはずである。


「反論は?」

「無いっす。まあ心配しなくても、あの場に居たのは信頼がおける人間だけっすよ」

 ソウソーさんはそう言うと、507教室に居た人の名前を挙げていく。

 その中にはハービュー・ターンドにトレランス・ノトルーズと言う俺が聞いたことがない名前も混じっていたが、彼らがどういう立場の人間であるかを聞けば、あの場に居た理由には納得できたし、信頼がおけると言うソウソーさんの言葉にも納得は出来た。


「つまり、あそこから話が漏れる心配はしなくてもいい。と」

「そうっす。と言うか、正直な話として、あの中に内通者が居るなら、もうどうしようもない状況っすね」

 まあ、それはそうだろう。

 一番俺たちと縁がないのはトレランスさんだが、その人は王都守護隊の隊長だ。

 もしもこの人が裏切っているような状況なら、もう俺程度ではどうしようもないだろう。


「で、覗き見ついでにどんな話を?」

「そりゃあ訊くっすよねー」

 俺は続けてソウソーさんにその場でどんな話をしていたのかを聞く。

 それだけの面々が集まっていながら、俺たちの茶会を聞いているだけなど有り得ないからだ。

 で、ソウソーさんから一通りその場で話し合われた事を聞いたのだが……。


「つまり、俺を囮にする。と」

「まあ、そう言う表情になるっすよね」

 メルトレスの手紙をわざと敵方に渡すという手法には少々顔を渋くせざるを得なかった。


「はぁ……幾つか質問良いですか?」

「勿論っす。危険な役目でやんすからね」

 俺は今まで以上に気を引き締めると同時に、周囲の気配に意識を向けつつソウソーさんに対して質問をする。


「まず第一に、今日の茶会に居た俺以外の面々の安全は確保されていますか?」

「勿論確保しているっす。姫様たちにはそうと分からないように警護を付けているでやんすし、ハーアルターとセーレの二人に対しても同様っす」

 まず初めに確認したのは、メルトレスたちの安全。

 手紙の宛先だったからと言って、敵が必ずしも俺を狙ってくるとは限らないからだ。


「ボースミス伯爵領の安全は?」

「メテウスが確保しているでやんすが、それに加えてオースティア王家とあっしの妻の実家でも手を打っているでやんす」

「ソウソーさんの奥さんの実家?」

「きゅっきゅっきゅー、ま、今は気にしなくていいでやんすよ。ただの侯爵家でやんすから」

「……」

 俺の実家であるからと言う事でボースミス伯爵領が狙われる可能性もある。

 が、こちらについても問題は無さそうである。

 ソウソーさんと侯爵家の間に繋がりがある件については……ソウソーさんの言うとおり、今は気にしないでおくとしよう。

 突っ込んだら危険な気配がする。


「敵の正体については分かっていないんですよね」

「分かってないでやんすね。手紙は途中で何処かの勢力に掏られたらしいっすから」

 敵の正体は不明。

 つまりどう仕掛けて来るかも分からない……と。


「……」

 まあ、実際問題として、俺が囮と言うのは色々と都合がいいのだろう。

 メテウス兄さんの言葉ではないが、自分に向けられる殺意や敵意に限るならば、爺ちゃん並みに隠すのが上手い相手でなければ俺は感じ取れる。

 毒についても幾らかは爺ちゃんに教わったから、食べ物や飲み物に混ぜられた程度ならば、よほどうまく誤魔化されてなければ感じ取れると思う。

 そして何よりも都合が良い点として、俺はただの伯爵家の三男であると同時に狩猟用務員の新人でしかないという事。

 殺される気は全くないが、仮に死んでもそこまで被害は大きくならないだろう。

 例の獣の力は……発動した方が危険だし、うん、やっぱり死なないように頑張った方が良さそうだ。

 アレは頼りにならない。


「一応言っておくでやんすが、あっしたちは確かにティタンを囮にするっす。けれど、犠牲にする気はないっすからね」

「それは分かっているので大丈夫です」

 俺が見殺しにされる心配はしなくてもいいだろう。

 メテウス兄さんと学園長たちがそんな計画を容認するとは思えない。

 まあ、いずれにしても計画そのものはすでに動いてしまっている。

 俺に出来るのは、囮として敵を引き付けつつも、無事に生き残る事。

 ただそれだけである。


「ん、分かってるならいいっす。ああそれと、そう言うわけでやんすから……」

「そう言うわけでやんすから?」

「安全のためにもまずは新しい妖属性紋章魔法『和らげる(イーズ)』を覚えてもらうでやんすよ」

「……」

 ただそれだけであるが……ここで新しい魔法を覚えろと言われるのは想像していなかった。

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