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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人

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第113話「茶会-5」

「いやぁ……若人同士の語らいは良いものじゃのう……」

「本当でやんすねぇ、これは頑張った甲斐があるという物でやんす」

「ふむ、ティタンの奴中々頑張っているな」

「ああ、聞いていて心が安らぐ」

 ティタンたちが707教室で茶会をしていた頃。

 その二階下、507教室には複数の人間が集まり、707教室よりも荒っぽいと同時に気軽な雰囲気の下、茶会が開かれていた。

 ただ、もしもこの空間に彼ら以外の人間が踏み込んだら、誰もがこう言わずにはいられなかっただろう。


『アンタたちはいったい何をやっているんだ』


 と。

 だがそう言われても仕方がない事だろう。


「しかし、ハーアルターめ。もう少しセーレ嬢に対して積極的に出られないのか」

「彼はまだ12歳ですし、そこまで気にしなくてもいいのでは?」

「いやいや、他の女性ならばともかく、当家としてはセーレ嬢は逃すわけにはいきませぬ」

「確かに。魔法使いとして優秀なだけでなく、頭もよく回る女性は貴重だ。今の内に囲っておくのが正解だろう」

「中位とは言え、最大八層の『積層詠唱』でしたっけ。あの歳であれなら、今後の期待値は高いですよね」

 なにせ部屋の壁にはエレンスゲの『人形遠視(ドールサイト)』の発展形である紋章魔法によって707教室内の光景が映し出され、しかもその光景からはソウソーが使った『盗聴(ワイアタップ)』の発展形の紋章魔法によって映像に同期する形でティタンたちが話している声が聞こえるようになっているのだから。

 もはや誰がどう見ても出歯亀である。


「ところでメルトレス様がセーレ嬢に贈った装飾品については?ハービュー殿」

「勿論、我が家で厳重な警備の下に預かっております。メルトレス様からセーレ嬢に贈られた事を示す書類も、セーレ嬢が当家に預けた書類もしたためてありますので、これで無関係の人間が手を出すならば、ターンド伯爵家に喧嘩を売る事と同義になります」

「現状で不穏な動きは?」

「流石にありませんな。まあ、『王侯会議』もありますので、警戒を緩める気はありませんが」

 尤も、彼らはただ出歯亀行為をするために集まっているわけではなかった。

 その本来の目的……情報交換のために、まずはティタンの兄であるメテウス・ボースミスが、ハーアルターの叔父であるハービュー・ターンドに軽い質問をする。


「姫様については及第点ってところっすかね」

「じゃの。やってしまった事は確かじゃが、きちんと謝る事は出来ていたの。相手も間違っておらんかった」

「アレでもしもハーアルターかティタンに向けて謝っていたら、少々考えなければいけなかっただろうな」

「王家との縁は欲しくとも、考えなしに行動されるのは勘弁してもらいたいですからな」

「そう言っていただけるなら王家に仕える身として嬉しく思えますな」

 続けてソウソーが茶会が始まる少し前のメルトレスの言動に口を出し、それに対して学園長、メテウス、ハービュー、そして王都守護隊であるトレランス・ノトルーズがそれぞれに言葉を発する。


「ただ、あの件にメルトレス様だけでなくゲルドも気づかないとは……」

「まあ、剣の師匠である君としてはそう言いたくはなるじゃろうなぁ……が、今回は大事に至らなかったのじゃし、既に本人も反省しておる。とやかく言う必要はないと思うぞい」

「と言うか、もしもそれを指摘したら、何処で知ったんだって話になりそうでやんすよね」

「ああ、言われてみれば……」

「とりあえず、この菓子でも食って頭に糖分を回すんじゃな」

「ありがとうございます……っ!?」

 学園長がトレランスから菓子を受け取り、それを口の中に入れる。

 すると想像以上に甘かったのか、それとも甘味以外の味もあったのか、トレランスは一瞬驚き、直ぐに何か言いたそうな視線を学園長に向ける。

 が、当然のように学園長は何も知らないという態度でトレランスの視線を流し、話を次の話題へと移す。


「トレランス君。例の招待状の行方についてはどうじゃ?」

「……。不明です」

「不明?」

 トレランスは一瞬何か言いたそうな顔をするも、学園長の求めに応じて話を始める。


「初めから説明します。イニム・エスケーは用務員小屋にティタン宛ての招待状を届けました。そして学園長とソウソーさんの協力の下、これを外部の人間……貴族主義者の中でも過激な部類に入る連中に盗ませました」

 勿論、後々悪用されないように、朱印などをよく似た別物に変えた別物ですがとトレランスは捕捉しつつ、話を進める。


「我々王都守護隊は盗んだ人物を尾行しました。尾行は途中までうまく行きました。何度か受け渡しが有った事を確認、当然受け渡しに関わった人間は全員マークしてあります」

「ふむ」

「問題は手紙が王城地区に入った時に起きました。その時手紙を持っていた人物が、周りで監視していた我々の目すらも欺いて、手紙を掏り取ったのです」

「ふうむ……恐ろしい話じゃのう……」

 トレランスの言葉に部屋にいる全員が一度黙る。


「そう言うわけですので……メテウスさん」

「心配しなくても大丈夫だ。周りの人間に向けられたものならばともかく、自分に向けられたものに気付かない程ティタンは抜けていない」

「ご協力感謝します」

 メテウスとトレランスが短く言葉を交わし、頷き合う。


「では、ティタン君にはばれているじゃろうが、他の面々にばれても面倒じゃ。彼が来る前に適当に解散といこうかの」

「「「……」」」

 707教室の茶会が終わると同時に、507教室の密会も終わりを告げる。

 そしてティタンが踏み込む頃には、507教室には誰も居なかった。

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