第110話「茶会-2」
「えと、こんにちは。セーレさん、ハーアルター。闘技演習の時以来ですね」
二人の姿を認識した俺は、ライ・オドルとの決闘騒ぎ以来と言う事もあるので、まず小さく頭を下げる。
「はい、こんにちはです。ティタンさん」
セーレも俺の挨拶に応じる形で、やはり軽く頭を下げる。
「その荷物……やはりそう言う事か」
で、最後にハーアルターは頭を下げず、挨拶もせず、俺の持っている小包へと視線を向けていた。
「ちょっ、ハー君!?挨拶、挨拶」
「……。久しぶりだ用務員。勝利に浮かれたりはしていないか?」
「そんな事は有り得ないのでご安心を」
うん、ライ・オドルとの闘技演習で勝った件で浮かれたりはしていない……と、自分では思ってる。
ライ・オドルよりも強い人なんてゴーリ班長たちもそうだが、この学園には数えきれないぐらい居るし、そもそもあの戦いで俺は出来れば使いたくない力……例の獣の力を使わされている。
なので、あの戦いを反省し、落ち込む事はあっても、浮かれる事は絶対に許されないと思っている。
それが出来ているかどうかについては、自分で判断するわけにいかない事なので、何も言わないが。
「それで用務員。お前も707教室か?」
「お前もと言う事はセーレさんたちも……」
「あ、はい。メルトレス様にお茶会へ招待されて、今から行くところです」
「なるほど。では、一緒に行きましょうか」
「いいだろう。用務員には色々と確認したい事があるしな」
俺たち三人は一度頷き合うと、三人揃って階段を昇り始める。
それにしても確認したい事か、一体なんだろうか?
「用務員、お前が持っているのは骨細工だな」
「骨細工って言うと一月くらい前に食堂で騒ぎになっていたあれ?」
「あー、分かりますか。その通りです」
まずハーアルターが確認したのは、俺の荷物について。
俺が今持っている小包の中身は、ハーアルターが察した通り、およそ一月前にメルトレスに見せて欲しいと頼まれ、俺が造った骨細工の首飾りである。
まあ、この件についてはハーアルターたちが知っていても別におかしくもなんともないだろう。
あれだけ多くの人の目がある場で約束を交わしたのだし。
「なるほど。となればやはり僕とセーレが呼ばれたのは目くらましの為だな」
「目くらまし?」
今度は俺が疑問を呈する番だった。
セーレとハーアルターの二人が呼ばれたのが目くらましの為とはどういう事だろうか?
そもそも二人は一体なぜメルトレスに呼ばれたのだろうか?
「僕とセーレの元に茶会への招待状が届いたのは四日前の事だ。理由は先日の闘技演習の勝者である僕たちを讃えるため。だが四日前と言うのは、少々非常識なタイミングだ。招く相手にも予定があるのだから、普通ならばどんなに遅くても一週間前には招待状は届いていなければいけない」
と、俺の表情から疑問を察してくれたのだろうか。
ハーアルターが説明を始めてくれる。
「だが用務員の表情と服の仕立てから察するに、お前は一週間以上前から今日の茶会を知っていたと考えられる。となれば、本来は『鋼鉄姫』様と用務員の二人だけで会う所だったのを、それを快く思わない誰かが僕とセーレを招くように『鋼鉄姫』様に強く進言したと見るのが妥当な所だ」
俺とメルトレスが二人きりで会う事を快く思わない誰か……か。
まあ、そんなのは腐るほど居るだろうな。
メルトレスはオースティア王国の第三王女なのだし。
しかし……
「ん?どうした?」
「いや、たったこれだけの事でよくそこまで分かるなぁ。と、純粋に感心しまして」
「ハー君凄い……」
「お前たちが貴族社会に疎いだけだ。後、ハー君は止めろ。恥ずかしい」
「可愛いのに……」
いや、実際ハーアルターは凄いと思うんだが。
何処か恥ずかしそうにしているが、ハーアルターは確かまだ12歳の筈である。
12歳でこれだけ貴族社会に詳しいというのは、十分に褒められるべき事柄だと思う。
俺が12歳の頃と言えば……ああうん、屋敷で家庭教師から一通りの基礎的な知識を教わって、貴族として生きるか、狩人として生きるかの決断を迫られていた頃か。
うん、やっぱりハーアルターは凄いと思う。
「とにかくだ!誰が進言したのかまでは分からないが、僕とセーレを招くように言った誰かが居て、その誰かあるいは別の何者かは分からないが、その事実が用務員に伝わらないようにした誰かが居る。これだけは確かだ」
「へ?」
「お前の反応を見れば、僕たちが来る事を知らなかった事は分かる。でも招く客が増えた事を他の客に伝える事を、『鋼鉄姫』様とその従者二人が揃って忘れるとは思えないからな」
「ああなるほど」
言われてみれば確かに。
メルトレスはともかくとして、ゲルドとイニムの二人がそう言う事に気づかないとは考えづらい。
「で、此処までは前置き。問題はここからだ」
「え……」
で、これで話は終わりと思っていたのだが、まだあるらしい。
だが既に俺たちは七階に来てしまっている。
この先の説明まで聞いている時間は……正直ない気がする。
「と、もう七階か。仕方がない。この件については『鋼鉄姫』様に直接問いただすべきだな」
「ハー君本気なの……私なんかの為にそんな事をする必要はないんだよ?」
「ふん、単純に筋が通らないのが嫌いなだけだ。それにこれは貴族としての務めでもある」
ハーアルターが俺の顔を睨み付けるように見てくる。
「用務員、お前には悪いが、場合によっては茶会どころでは済まなくなるかもしれない。その時は僕の事を恨んでくれ」
「……」
その目は、何かしらの覚悟を決めているようだった。
うん、そう言う話ならば俺はこう言い返すべきだろう。
「心配しなくてもハーアルターを恨むような事にはならないと思う。勘だけど」
心配しなくても大丈夫だと。




