第109話「茶会-1」
「えーと、どうでしょうか?」
メテウス兄さんが学園に来た一週間と一日後。
つまりはメルトレスとの茶会当日。
俺は用務員小屋でつい先日受け取ってきた狩人としての正装に身を包んでいた。
で、ゴーリ班長たちに感想を求めてみたのだが……。
「着られているという感じしかしねえな。もう少し着慣れれば違うのかもしれねえが……まあ、今は仕方がねえな」
「俺からは意見を出さないでおく。出身上そう言うのには疎いしな。ただオース山の中に着ていくのは止めた方がいいと思う」
「馬子にも衣装っすね。普段の姿が普段の姿なんで仕方がないっすけど」
うん、散々な評価だった。
いやまあ、俺自身、今の自分の姿について評価しろと言われたら、不釣り合いだと断言できるぐらいだし、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「しかしどうしてこんなに似合わないっすかね?」
「んー……配色が明るめってのもそうだが、光物が合わねえんじゃねえか?ティタンの狩り方だと光物ってのは着けてちゃいけないものだろ」
「ティタンが普段着ている服は気配を消しやすくするためにも地味な物が中心だしな。その姿を見慣れているせいで余計に違和感が大きいのかもしれないな」
「あー、なるほど……」
で、肝心の狩人服だが、簡単に言ってしまえば俺が普段山の中に入る時に着ている服を明るい色で均一に染め上げ、つや消しのされていない金具で矢筒などを抑える帯が付けられ、山の中でも非常に目立ちそうな、かつ色々とひっかけそうな服になっていた。
幸いと言っていいのか、飾り紐などは取り外しが自由に出来るものになっているが……他の要素を考えると焼け石に水だろう。
「でも、着ないわけにはいかないんですよね」
「そうっすね。王侯貴族主催の狩猟会なんかだと、今ティタンが着ているような服が基本で、普段着ている服は従者としてならばともかく、貴族としては絶対に着てはいけないでやんす」
「お貴族様は大変だな。こういう時ばかりは自分の身の上がありがたく感じる」
「ま、主賓や主催者以上の獲物を簡単に狩りかねない学園の狩猟用務員を狩猟会に呼ぶ貴族なんて早々居ないから、ティタンがその服を着て森の中に入る事はないだろうよ」
「そもそも、俺は馬に乗れませんから、その手の集まりに呼ばれてもいけませんけどね」
なお、貴族主催の狩猟会では、みんながみんなこういう服を着て、複数人で幾つかのグループを作り、主催者の土地で馬に乗って移動、主催者の雇った狩人が獲物を追い廻して疲れた所を貴族が狩る。
そして、ある程度の時間が経ったところで集合、誰の狩った獲物が一番素晴らしいかを比べ合う、という流れで行われるらしい。
メテウス兄さんのくれた冊子にはそう書かれていた。
うん、凄く面倒くさいし、魔獣を舐めすぎではないかと思う。
雇われた狩人の腕前が良いから、こういう会が成り立つのだろうけど。
「さて、そろそろ時間だな」
「気をつけて行って来い」
「頑張るっすよー」
「はい、行ってきます」
まあ、いずれにしても今気にするべきはこれからの事……メルトレスとの茶会である。
と言うわけで、俺はゴーリ班長たちに後を任せ、持つべきものを持つと、茶会が開かれる場所へと向かうのだった。
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水の塔七階、707教室。
そこでメルトレスとの茶会は開かれる。
「ああ、これが例の……」
さて、その水の塔だが、別名『座学塔』とも呼ばれ、殆どの座学はこの水の塔内に存在している大小様々な大きさの教室で行われるそうだ。
で、一番最近に建てられた塔と言う事もあって塔の中は非常にきれいで、しかも訪れる者にとって分かり易いように整理された造りになっているらしい。
そんな水の塔の特徴は、清潔感がある事に加えて、程々の大きさと深さの池が塔の脇に掘られている事。
そして、日に一度、俺の耳が今捉えているように、紋章魔法によって池の水が塔の上にまで汲み上げられ、塔の頂上から池に向かって汲み上げられた水が滝のように流れ落ちる事であり、その姿は学園の外、王都オースティアの方からも見る事が出来るとの事。
「結構、派手な音が鳴るな」
そのような姿を毎日見せているからだろう、王都オースティアの民が、王立オースティア魔紋学園の象徴として何を挙げるかと聞かれたら、だいたいの人はまず水の塔の姿を挙げるなんて話も聞く。
うん、俺は初めてきちんと聞くが、塔の傍に居れば結構な大きさで音が聞こえるし、これだけ大きな音が聞こえるのなら、それだけ目立つのも納得である。
「さて、急がないとな」
俺は青く塗られた扉を開け、水の塔の中に入る。
今日は休日なので、水の塔の中に人気は殆ど無い。
居るのは部活動と言う活動を行っている生徒または教職員か、個人的な用事で教室を借りている人ぐらいなので、当然なのだが。
「まずは一番上まで上がって……」
俺は階段を見つけて登る。
そして四階まで来た時だった。
「ん?」
「あっ」
「……」
次の階に上ろうとする俺の視界に、普段よりも着飾っているセーレと、やっぱり来たかと言うような表情をしているハーアルターの姿が入ってきた。
 




