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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第三章:夜に舞う狩人
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第106話「次兄メテウス-6」

「お疲れ様でした。これで計測は終わりです」

「ありがとう」

 当たり前だが、仕立て屋による俺の身体の計測は何事もなく終わった。

 まあ、俺の見た目からそこまで鍛えていると思われていなかったのか、仕立て屋が俺の上半身を見た時に一瞬驚いているようだったが。


「メテウス様。改めて確認させていただきますが、まずは茶会にも着て行けるように整った服を一揃い、最優先で仕上げた方がいいのですね」

「そうだ。少し事情があってな。先に伝えた通り、この服だけは五日以内に仕上げてもらいたい」

「はい、頑張らせていただきます」

 俺が計測の為に脱いだ服を着直している間に、メテウス兄さんと仕立て屋が細かい打ち合わせをする。

 俺の意見は……求められない限り言わない方がいいな。

 ただでさえ今回の件で迷惑をかけてしまっているのだし。


「デザインは既存の物でよろしいのですね」

「流石に五日でゼロから書き下ろせとは言えんさ。それにお前の家の仕立てなら既存のものでも問題はない」

「ありがとうございます。そうして言っていただけると、私共としても力が入るという物です」

 なお、今回作る服の予定は全部で四着。

 メルトレスとの茶会に来ていくための服が一着。

 メテウス兄さんからの贈り物としての普段着が一着。

 狩猟用務員として学園の行事に出ると同時にオース山の中にも着て行けるような仕事着が一着。

 謁見の場や夜会に来ていくための正装が一着となっている。


「では、急ぎ店の方に戻り、取りかからせていただきます」

「ああ、よろしく頼む」

 ……。

 うん、メテウス兄さんには悪いけど、仕事着については学園の行事でしか着ないと思う。

 オース山の中に入るのだったら、自分で作った服の方が何かと都合も良いし、具体的に言ってしまうなら、行事にも着ていく仕事着は迂闊に汚せないけど、オース山に入る時は服をわざと汚すべき時もあるし、それなら自分の作った服の方がいい。


「さて、これで服については心配しなくてもよくなったな」

「うん、ありがとうメテウス兄さん」

「可愛い弟の為だ。これぐらいは何でもない」

 さて、仕立て屋も帰った事だし、俺も服を着終った。

 となれば、そろそろ指摘してもいいだろう。


「で、メテウス兄さん。一つ質問があるんだけどいい?」

「なんだ?」

「あの像は何?」

「……」

 俺はメテウス兄さんから視線を外し、窓の前に置かれている素焼きの像に視線を向ける。

 その像は、明らかに自分の身体よりも大きな卵に翼の生えた蛇が巻き付いていると言う、奇妙な造形をしていた。

 が、その点は重要ではない。

 問題は時折であるが、この部屋に入ってから、この像を起点とした視線を俺が感じているという点。

 そして、俺がこの像に不信感を持って睨み付けるのと同時に、隣の部屋の方から動揺した人間の気配が僅かにであるが伝わってくるという点である。


「魔法でこっちの事を見ている。で、良いんだよね。つまり……」

 俺は隣の部屋から伝わってくる気配の元に向けて視線を動かす。

 すると、素焼きの像から感じる視線も、壁の向こうの気配も、明らかに動揺の度合いを強める。


「あー……気づいていたか。何と言うかお前は相変わらずだな……」

 メテウス兄さんが何処か呆れた様子を見せる。

 うん、やはりそう言う事であるらしい。


「エレンスゲ。もういいぞ。こっちの部屋に来てくれ。どうやらバレていたらしい」

 メテウス兄さんが素焼きの像に向かってそう話しかけると、壁の向こうの気配が動き出す。

 そして、直ぐに俺たちがいる部屋の扉が開かれる。


「メ、メテウス様……私の『人形遠視(ドールサイト)』はどうして、それに何時からバレていたのでしょうか……?」

 扉の向こうから現れたのは茶色の髪を腰まで伸ばした一人の女性。

 その目の色は分からない。

 普通の人よりも前髪を長く伸ばし、目が隠れるように伸ばしてしまっているからだ。

 雰囲気としては……小動物のそれに近い気がする。

 メルトレスより少しだけ背が高いはずだが、この分だと一緒に並んだらメルトレスの方が大きく見えるかもしれない。


「あー……どうなんだ?ティタン?」

「視線は部屋の中に入った時から感じていました。壁の向こうに居る貴女に気づいたのは、あの像から伝わってくる気配と貴女の気配のブレ方が一緒だったのと、他の屋敷の使用人と違ってその場から動く様子が無かったからです」

「……」

 俺の言葉に女性は唖然としているようだった。

 どうやら俺の言葉は彼女にとっては想定外の事であったらしい。


「で、メテウス兄さん。彼女がそう言う事でいいんだよね」

「と、そうだったな。そうだ。彼女が私の部下としても学園で活動してくれている子、エレンスゲだ。エレンスゲ、自己紹介を」

「へ、え、あっ、はい!わ、私、エレンスゲ・ニドグラブと申します。学園の六年生で、メテウス様にはいつもお世話になっています」

 メテウス兄さんが彼女……エレンスゲの背を優しく押し、その行動で我に返ったエレンスゲは慌てて表情と衣服の乱れを取り繕うと、俺の正面に礼儀正しく立ち、名乗る。


「これからよろしくお願いします。ティタン様」

「こちらとしてもよろしくお願いします。エレンスゲさん」

 そして、お互いに小さく礼をした。

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