第103話「次兄メテウス-3」
「……。ティタン、どうして姫様との茶会なんて話になった?説明しろ」
俺とメテウス兄さんを乗せた馬車は、陽が落ち始めた王都オースティアの街並みをゆっくりと走っていた。
ボースミス伯爵家の屋敷は王城地区にあるはずなので、この様子だと屋敷に着くのは陽が完全に落ちてからになるだろう。
「えーと……」
で、どうやらメテウス兄さんは移動に時間がかかると言う事で、この場で出来るだけの情報収集を行うつもりであるらしい。
しかしだ、いったいどこから話せばいいのだろうか。
中にはメテウス兄さんが相手だからと言って、話すわけにはいかない内容も多々あるのだが……うーん。
「とりあえず確認。メテウス兄さんはフラッシュピーコックの件について何処まで知ってる?」
だが、話さなければ進まない。
そう判断した俺はまずメテウス兄さんにどこまで知っているかを確認する。
「お前がフラッシュピーコックに襲われ、妙な魔法をかけられていたと言う事までは、学園長からの手紙で把握している」
「分かった。そこからなんだね」
「そこから?」
そして確認が終わったところで俺は話す。
フラッシュピーコックの件にメルトレスたちが関わっている事。
その際に黒い獣になった俺がメルトレスを襲いかけている事。
その事件の二日後に何故か骨細工を見せる約束をすることになった事。
骨細工を見せる為の場として茶会が開かれる事になった事。
後は俺が初めて学園に来た日のことなど、メルトレス関係の諸々。
そうして、俺の話を聞き終わったメテウス兄さんは……。
「訳が分からん。どうして姫様はお前に好意を抱いているんだ」
「ごめん、俺にも分からない」
むしろ俺が聞きたいと言い返したくなるような言葉を言ったのだった。
うん、とりあえずメテウス兄さんが頭を痛そうにしているのは演技でもなんでもなく、本心からだと思う。
改めて思い返してもメルトレスの行動理由が分からなくて、俺も微妙に頭が痛いから。
「まああれだ。オースティア王国を治めるオースティア王家と、ウズタカ山地が境界になっているとは言え、オースティア王国北の国境沿いの土地を領地とする我がボースミス伯爵家、この二家の仲が良くなる点については、国、我が家、領民、このいずれから見ても良い事ではある。それが政治的な思惑を切っ掛けとするのではなく、個人的な繋がりを基にして始まるというのもな」
「そうなんだ」
まあ、中央との仲が悪いよりは、良い方が良いに決まっているのだが。
「だが、その繋がりの基となる『鋼鉄姫』様の考えと言うか、思考と嗜好が読めないな。普通なら、ティタンは二度と近寄るなと言われているところだと思うんだが……」
「うん、俺もそう思う」
「……。となるとこの繋がりは恐ろしいな。個人的な繋がりを基本とした繋がりなだけあって、当人の感情次第では簡単に反転する。最悪、現状の良くも悪くもない我が家と中央との仲が、破滅的にまで悪くなる可能性もあるか」
「えっ……」
俺はメテウス兄さんの言葉にまさかと言う顔をする。
だが真剣な目つきで学園の方に視線をやるメテウス兄さんに、冗談を言っているような気配は一切無かった。
「……」
メテウス兄さんは俺の驚きをよそに、顔の前で手を組み、何かを考えているようだった。
そうして暫くの間考え込み続け、やがて考えがまとまったのか、手を元の位置に戻す。
「まずは情報を集める必要があるな。明日にでもエレンスゲを呼んでおくか」
「エレンスゲ?」
「ボースミス伯爵領出身の学園の生徒だ。お前にも後で紹介しておこう。私との繋がりもあるしな」
んん?学園の生徒がどうしてメテウス兄さんと連絡を取り合っているのだろうか?
「どうしてと言う顔をしているな」
「そりゃあ……まあ」
と、流石は兄上と言うべきか、俺の顔色から疑問に思っている事を察したらしい。
「別に珍しい事じゃない。ただ単にエレンスゲの後援者として私が色々と便宜を図る代わりに、学園内で起きている出来事について教えてもらっているだけだ。これぐらいなら大なり小なり差はあれど、どこの貴族もやっている」
「へー」
ちなみにメテウス兄さん曰く、王立オースティア魔紋学園での生徒の動向は、王国の縮図と言っても良いらしく、どの生徒がどんな言動をしているのかを調べれば、彼らの後援者として名を連ねている人物の状況もある程度は掴めるとの事だった。
なので、そのエレンスゲと言う名前の生徒には、学業に支障を来たさない範囲でだが、出来るだけ幅広い人脈と情報網を造らせ、学園内での情報収集をするようにメテウス兄さんは指示をしたらしい。
「ところでその……エレンスゲと俺を今まで会わせなかった理由は?」
「必要もなければ、余裕もなかったからだ。エレンスゲにではなく、お前にだがな。ああ、エレンスゲはお前の事を当然知っているぞ」
「ああなるほど」
どうやらメテウス兄さんはそのエレンスゲと言う人物をかなり信頼しているらしい。
その表情には笑みが浮かんでいる。
「さて、そろそろ着くな」
「……」
と、こうして話している間に、馬車は王城地区にまでやって来ていたらしい。
馬車の外をチラリと見たメテウス兄さんが小さく呟く。
「そんなに緊張しなくてもいい。学園の用務員小屋の方が落ち着くかもしれないが、ここもお前の家だからな」
どうやら自分でも気づかない間に身体を強張らせていたらしい、指摘をされて初めて俺は自分の顔や手が硬くなっている事に気づく。
「さ、堂々と胸を張っていくぞ。お前は主の側なんだからな」
「分かった」
やがて馬車が停まる。
そして、俺はメテウス兄さんに先導される形で馬車を降りた。




