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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第1話「プロローグ」

開幕から微グロでございますので、苦手な方はご注意ください。

「グルオオオオオォォォォォ!!」

 あっという間の出来事だった。

 あっという間に……急いで息を吸って吐くほどの時間も無いぐらいに短い時間の間に、全ては終わってしまっていた。


 綺麗な青空だったはずの空は、嵐が来た日のように重くどんよりとした、真っ黒な空になっていた。

 活力に満ちた緑色の葉を付けていた草木は、燻され、焼かれ、黒く染め上げられると同時に、穴だらけの虫食いになっていた。

 僕と爺ちゃんが獲物として狙っていた元気なアースボアも、全身に穴が開いて、穴から真っ赤な血を流し、痛みに悶え苦しんでいた。

 爺ちゃんは……


「爺……ちゃん……」

 腰から上が無くなっていた。

 狩人として生き、時には厳しく、けれどいつもは優しく僕の事を育ててくれた爺ちゃんは、叫び声の一つも発する事が出来ない内に殺されていた。

 山に入るうちに傷だらけになった両腕も、山の事なら何でも知っている皺だらけの顔も、暖かくてたくましかった胸も、山の樹から僕が作った弓も、全部無くなっていた。


「なに……が……」

 でも僕には腰から下だけになった爺ちゃんの下に駆け寄る事は出来なかった。

 僕の身体にもアースボアと同じように、たくさんの穴が開いていたから。

 ああでも、もしかしたらあそこで苦しんでるアースボアよりは幸せなのかもしれない。

 あまりにも痛すぎるせいなのか、全身に穴が開いているのに、痛いとは感じなかったから。


「フシュルルルル……」

 黒い火の粉がまた辺りに漂ってくる。

 爺ちゃんを呑み込んで、火の粉だけでアースボアと僕の身体を穴だらけにした悪魔のような炎が漂ってくる。


「……」

 炎の主は全身を黒いでこぼこした鱗に覆われた巨大なトカゲに似た生物だった。

 けれどトカゲと違ってその頭には橙色の線が入った真っ黒な角が、その背中には橙色の被膜を持った蝙蝠のような翼が生えていて、爪と牙も僕がこの山で見たどの生物のよりも強そうな感じがしていた。

 ああ、間違いない、これは……ドラゴンだ。

 爺ちゃんが寝物語として、時々話してくれた、この世で最も強い生物。

 空を自由に飛び、魔法の力が込められた炎を吐き、爪の一振りで巨木を倒し、一噛みで鉄のような甲殻を持つメタルビートルでも噛み砕いてしまう最強の魔獣。

 もしも出会ってしまったら、絶対に助からないと言われている相手。

 それが僕たちを襲った相手だった。


「ガツ、バグッ、ゴクン」

 ドラゴンは息絶えたアースボアを骨ごと噛み砕いて呑み込むと、げっぷをするように軽く火を吐き出す。

 それだけで、偶然火が飛んだ先にあった樹が穴だらけになって、ゆっくりと大きな音を立てながら倒れ始める。


「……」

 でもドラゴンはそんな事を気にした様子もなく、僕の方に近づいてくる。

 金色の縦長な瞳孔を持った目を僕に向けて、鋭い牙の間から黒い炎と真っ赤な舌を覗かせながら近づいてくる。


「たす……けて……」

 逃げたかった。

 けれど身体が動かないから、逃げられなかった。

 どうしてか視界が滲んでくる中、ドラゴンの大きな口が僕の目の前でゆっくりと開かれた。

 もう駄目だ、そう思わざるを得なかった。


「!?」

「え?」

 でもその時は来なかった。

 ドラゴンは突然何かに気付くと、慌てた様子で飛び去って行った。


「……」

 ああでも……どの道僕はもう駄目だろう。

 目の前が暗くなってきて、身体の感覚も無くなってきているのだから。

 ドラゴンに噛まれても、噛まれなくても、死ぬその時が少し変わっただけなのかもしれない。


『一つ問おう』

 何処からか女の人の声が聞こえてくる。

 他の音は一切聞こえないのに、その人の声だけははっきりと、良く聞こえた。


『お前はまだ生きていたいか?』

「生き……たい……です……」

 もう身体は何処も動かないはずなのに、全身に開いた穴から血は全て流れ出てしまったはずなのに、不思議とこの一言だけは出す事が出来た。


『そうか。ならば私がお前の死の運命を壊してやろう』

 胸の上にゴツゴツとした手のような何かが乗せられる感覚がする。


『ただ、私は壊す事が専門だ。何かを創る事は出来ない。故に貴様の人間としての器を壊す事で、貴様を救う』

「あ……ぐ……」

 胸から何かが僕の中に流れ込んでくる。

 それはとても暖かい……なのに全身が寒気立つような何かだった。


「あ、あっ、ああああぁぁぁぁぁ!?」

 全身から黒い何かが溢れ出し、僕と言う人間を壊していく。


『全てを破壊しろなどとは言わない。全てを支配しろとも言わない。規律正しく行けとも、己が心のままに行けとも言わない。ただこれだけは言わせてもらおう』

 僕の視界に人が……麦藁のような髪の毛に、金色のドラゴンのような瞳、血のように紅い衣、骨のような見た目の両腕をした女の人が、牙のような歯を見せつつ笑っている姿が映り込んだ。


『お前の息吹を見せてくれ』

 女の人は最後に何かを言うと、何処かへと消え去ってしまった。

 後にはまるで何事もなかったかのように、傷一つ無い僕が一人寂しく居るだけだった。




 これが俺の持つ記憶の中で最も忌まわしいと同時に、俺の行動原理となった出来事である。

新作でございます。

初めましての方は初めまして。

久しぶりの方はお久しぶりでございます。

前作から継続の方は、今回もよろしくお願いいたします。


第1話から第7話までは、開始記念と言う事で四時間ごとに更新させていただきますので、よろしくお願いいたします。



01/03前書きに注意追加

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