そして憤りは晴らされる後編
少し遅くなってしまったかな?書き上がったのですぐさま投稿しました。
後編です。
由緒や佐賀部長、高瀬副部長がエリナを連れてきた場所は青葉高校の理事長室だった。
寿 エリナは自分が通っている青葉高校に由緒達が向かっていると分かった時、不審そうな顔でこちらを見ていたがすぐに不適な顔をして堂々と由緒達の後をついていった。
現在、青葉高校理事長室には冷や汗をかくような張り詰めた空気が流れていた…………。寿 エリナはその空気に飲まれたのか、部屋に入ってそうそう俯いてしまった。
空気の発生源は鳴神高校の七原理事長とアーチェリー部顧問の早乙女先生。対する青葉高校の瀬川理事長と校長は顔が青ざめ唇が震えていた。
「我が校の生徒が鳴神高校の最上 由緒さんに一方的に暴言を吐き、彼女の私物である弓を取り上げあまつさえ地面に叩きつけ壊したと?そうおっしゃるのですかな」
「えぇ、そうです。しかも大切な大会の最中に、いわれのない誹謗中傷を怒鳴り散らすばかりでなく人様の物を一方的に目の前で壊すという暴挙を行ったのですよ、何度もお話しましたよね?」
青葉高校の瀬川理事長の確認に穏やかに応える鳴神高校の七原理事長。
高瀬副部長曰わく、私が寿 エリナを確認し本人ならば連れてくる旨を話してあったらしい。青葉高校の方には私がイギリスに行っている間に何度も話しあいの席を設けようとしたが断られたらしい。
『我が校の生徒がそちらの生徒を一方的に傷付けたとおっしゃるが、その当の本人は今イギリスに行っていてこの場に来れないとの事でしたが………本当は此度の大会の失敗を無かったことにするための方便では無いのですか?何しろオリンピックに出場するというのは学生の身ではかなりのプレッシャーでしょうしね。海千山千の選手の人達も本番ではプレッシャーによるミスや体調不良などを訴える人もいるらしいですし……………今回のことはその女子生徒の苦し紛れの嘘だったんですよ、きっと』
暴言と弓を壊したという我が校の女子生徒が見つからない限り信じられないという有り得ない言葉を返された鳴神高校の七原理事長は、まー………見事にブチ切れた。
だったら見つけ出して連れてきてやるよと、売り言葉に買い言葉でその場は一旦お開きになり、電話越しでの何度かの話し合いの末、今日を迎える事と相成ったらしい。
青葉高校の瀬川理事長はアホなの? バカなの? どっからそんな自信が出てきたの? なに、死ぬの?
本当に犯人の生徒を見つけ出して連れてくるとは思わなかったの? そして連れてこられたんで今更自分の対応がまずかったと慌ててる?
私、この高校を受験しなくてホント良かった。
「はてさて。そちらの要求通り、犯人である女子生徒を連れて来ましたよ? もちろん、無理やりでは無く、彼女の任意の上で。文句ありませんよね?」
ちなみに、佐賀部長と高瀬副部長は私と一緒に寿 エリナをここまで連れてきた後、部屋を出て行った。あの2人が一緒にいてくれたのは万一、逆上した彼女が私に害をもたらせない為である。
「そちらの生徒さんがやらかした行為は器物破損及び名誉毀損と侮辱罪。そして国の代表として選ばれる未来を潰そうとした慰謝料を考えて貰えますね?こちらも身内でもない方にこの様なことを言いたくないのですが、なにしろこの高校の最高責任者である理事長も被害にあった我が校の生徒を侮辱したわけですからあなたにも侮辱罪が当てはまりますし無関係ではありませんから一応ね?」
青葉高校の瀬川理事長の顔色が更に悪くなり最早土色になっている。
何故だろう。七原理事長から高瀬副部長と同じ匂いを感じる。
「さてと。そちらのお嬢さんは何か言いたいことでもあるかな?弁解とかね。あぁ、大丈夫。証拠ならちゃんとあるから。君が、実は無実だと言う弁明は聞けないし聞かないけどね」
何が大丈夫でなのだろう。そして証拠があったのならわざわざ向こうの言う通りここに本人を連れてくるという手間を掛ける必要は無かったのでは?
そう疑問に思っが、七原理事長の黒い笑顔になんとなく理解してしまった。
精神的な嫌がらせですね。報復の一環ですね?腹黒いことを考えているのですね!!
「………証拠って何ですか?私は彼女にそんなことをした覚えはありません!!今日が初対面です!全部、その子のデタラメよ。………証拠があるなんて嘘なんでしょ。私は無実よ!!」
思わず顔が引きつった。
ほーう?良い根性じゃないか。ここにきてやってないと抜かすか。証拠がない、嘘?
瀬川理事長も寿 エリナの言葉に、何故か、勇気付けられたらしい。すぐさま不敵の笑みで言い返した。
「彼女はこう言っていますが、どういう事ですかな?やはり、今回の事はその女子生徒の狂言だったという事ですかな?」
得意げな顔してんなよ。いい加減にしろよハゲ!七原理事長の邪魔をしないように黙ってはいたが、もう、私が参戦してもいいよね?
私が口を開きかけた、その時だった。
「失礼する!生徒会会長の一ノ宮だ」
「同じく、生徒会書記 三ノ宮!」
「生徒会庶務 五十嵐」
ノックもそこそこに、生徒会の人達が入ってきた。…………3人とも、私の知り合いだった。出来れば会いたくない知り合いだった。
というか、最近、私がなにかアクションを起こそとする度に邪魔がはいるのは何でだ?
少しは私も出番が欲しいんだけど。
「みんな!来てくれたのね!!」
3人が来て嬉しそうな寿 エリナ。なんで嬉しそうなんだ?え、しかも言い方からするともしかして知り合いなの??
そして、再びのノック音。
「生徒会顧問 六条です。会談中すみません。こちらに生徒会の者が伺っていると聞いたのですが……」
恐る恐るといった体で、生徒会顧問の六条さんが入ってきた…………ちょうどいいので、このまま彼等を引き取ってくれ。
「六条先生…………!!」
そして、何故か歓喜する寿 エリナ。なんで?
六条さんは中に入り、室内に生徒会のみんなと寿 エリナそして私を確認すると一気に青ざめた。お気の毒に。
「話し合いの最中、うちの生徒会が乱入したのですね。申し訳ありません。すぐにお暇しますので…………お前らなにやってんだ!?早く来い、帰るぞ!」
早口言葉のように一気に言い放つと小声で生徒会の皆を呼ぶ六条さん。その様子に寿 エリナが「先生!?」と叫んでいたけど、無視してた。
「いや、六条先生。俺達生徒会は生徒の安寧と秩序を守る為にいる。ならば俺達がこの場にいても問題ないはずだ」
んなわけないだろう。相変わらず勝手な。
「ふむ。確かに生徒会は生徒の為にいる。良かろ。私が許可する」
「瀬川理事長!?」
瀬川理事長のあっさりとした返答に、逆に六条さんが慌てる。心中お察しします。
突然の展開に、七原理事長は怒りを通りこして呆れ果てている。そしてまともそうな六条さんに憐憫の眼差しを送っている。
そうこうしているうちに生徒会会長の一ノ宮先輩が私の近くに歩み寄ってきた。
「久しぶりだな。由緒」
「…………久しぶりだね」
嫌々ながらも返事を返す。瀬川理事長が知り合いなのかねと訪ねてきた。
一ノ宮先輩は肯定し、私に厳しい視線をよこす。
「由緒、聞いたぞ。エリナに無実の罪を着せようとしいるんだろ?ありもしない事をでっち上げて周りを巻き込んで恥ずかしくないのか!?」
「そうだよ。由緒はきちんとエリナに謝んないとダメだよ?」
「エリナだけじゃない。今回の一件で迷惑をかけた人達にもお前は謝罪しなくてはならない」
三ノ宮先輩と五十嵐先輩も後に続く。瀬川理事長は胸を張りのぞけっていた。寿 エリナも勝利を確信したのか由緒を馬鹿にするかのような笑みを見せる。ただし、六条さんだけが血の気が引き、震えていた。
「一体誰から今回の話を聞いたのかは知らないけど………ふざけんなよ?こちとら危うく代表選手に選ばれなくなる瀬戸際までたったんだ。部活の先輩が機転を聞かせてくれなかったらどうなっていたか。部外者には引っ込んでくれ」
「………ごまかそうとするな、少なくとも俺は部外者では無いはずだ。正直に答えろ。お前はエリナが、俺と仲が良かったから嫉妬してこんな事をしたんだろ?気に入らなかったらなぜ直接、俺に言わないんだ!!」
「はあ?」
俺という部分を強調して三ノ宮先輩と五十嵐先輩をチラリとと見ながらの台詞に、私は疑問符と呆れしか浮かばなかった。
なに言ってんだ?この俺様馬鹿は。
「違うぞ一ノ宮、俺とエリナに由緒は嫉妬したんだ」
「違う!俺だ」
三ノ宮先輩と五十嵐先輩も追従した。寿 エリナが「みんな!エリナの為に争わないで!!」と言ってウルウルしてる。もう、黙ってくれ馬鹿共。
バサリとテーブルに何か投げられた。軽い音をたてたソレは、みなの視線を一気に集めた。
「いゃああああ!!?」
寿 エリナの悲鳴が響く。テーブルに投げられたのは大量の写真だった。そこには寿 エリナが私に詰め寄り、弓を割る場面まで事細かく写っていた。
「こちらが言っていた証拠ですよ。瀬川理事長、寿 エリナ君。そして生徒会の皆さん?」
写真を投げたのは、七原理事長だ。完全なカオスになる前にありがとうございます。お陰で馬鹿共との泥沼化は免れました。
でも、この写真は一体。ピントが全部私に合わせてあるような………?(汗)
私は写真に釘付けになった。
「これはある人から善意で譲り受け貰った物です」
ある人って誰だ。切実に聞きたいんですが。
「写真を撮った方は、コレが最上君の役に立つならと喜んでネガごとくれましてね。人に迷惑をかけるのはやっぱりいけないことだからと………話の通じる人でこちらとしても助かりました」
……………………。七原理事長の優しい笑顔が怖いので私は聞くのを諦めた。
話し方からするとケリはついてるみたいだし。そうゆうことにしておこう。うん。
「こ、これは………」
一方、瀬川理事長は証拠を見てまたしても青ざめてプルプル震える。
上目遣いでおっさんが見てきてもキモいだけだわ。誰得なんだよ、それ。
「こちらとしても未来ある子供にケチがつくのは自業自得とはいえ、教育者としてはチャンスもあげたいと思い今まで警察沙汰にするのを控えていたのですが………今回の話し合いで無理だと分かりました。このまま失礼するとしよう。佐賀君と高瀬君を連れて行こう最上君」
ケチがつくって、寿 エリナだけでなく私も含んでますね?むしろマスコミにバレたら苦労するのは私だし。言いたい事、聞きたい事はたくさんあったけど………彼女に法でもって報復出来るのならそれに越したことはないし、聞きたい事の方はあの3人が彼女の知り合いという事で何となくわかったし。これ以上彼等に関わるのはデメリットしかないか。
七原理事長と共に立ち上がった私はおもむろに一ノ宮先輩と三ノ宮先輩と五十嵐先輩の方を向いて一言。
「あ、アンタらが彼女と知り合いで、しかも味方になって私を糾弾した事は祖父に報告するから。先輩方もそのつもりでいてくれ。それから先輩方。私は先輩方のことをただの顔見知り程度にしか思ってないから。私はあくまでも婚約者『候補』止まりで終わるつもりなので、それではさようなら」
「「「「待ってくれ!!!」」」」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
待つわけないだろ。ふと、六条さんを見れば瀬川理事長や生徒会メンバー、寿 エリナを冷たい目で見つつ、こちらに深々頭を下げていた。
マジお疲れ様です。
青葉高校の校門で佐賀部長が待っていてくれていた。
「お疲れ様でした理事長。最上もお疲れさん」
「ありがとうございます。佐賀部長」
「佐賀君、今回はありがとう。ところで、高瀬君はどこだい?見当たらないのだが」
「春奈ならまだ青葉高校の中です。何でもまだトドメが残っているとかで」
トドメ…………?
「おや。そうなのかい?そんなのあったかな……」
七原理事長………なんでそこで首を傾げるのですか?そして高瀬副部長は何をしに行ったの!?佐賀部長止めてくださいよ!!!
と、私が心の中でツッコミの嵐を起こしていたら。
「遅くなってゴメンね~~」
高瀬副部長が帰ってきた。
「副部長!」
「おっせぇぞ!」
「高瀬君。トドメとやらは終わったのかな?」
「しっかり刺してきたよ伯父さん」
え゛?
「こら、高瀬君。公の場では理事長と呼ぶように言っただろう」
「は~い。ごめんなさい」
「………………………………………」
なんか納得した!
……………なんというか、寿 エリナについては法的措置が適応されるから。もう、どうでもいいんだよね。周りの人達の手助けのお陰でオリンピック選手にも内定貰えたし。報復も過ぎれば自分を侵す毒になってしまうから。
でも、一番の理由は何だかんだ言って高瀬副部長の意外すぎる一面を知ってある程度頭が冷えたことかな。
寿 エリナに対する憤りは晴れたけど、教訓として高瀬副部長だけは敵に回さないようにしよう。
ところで、高瀬副部長の言っていたトドメってなんだろう。
後日、一ノ宮家と三ノ宮家、五十嵐家から大量のお詫びの品と共に詫び状が祖父の家に届けられた。寿 エリナは青葉高校を自主退学し、瀬川理事長は罷免された。そしてどこからか聞きつけてきた二ノ宮先輩と篠宮先輩が訪ねてきた。2人は私がオリンピック選手に選ばれたことを激励してくれた。
私は気合いの入った佐賀部長と高瀬副部長、早乙女先生の指導のもと、オリンピックに向けて今日も弓を引く。
高瀬副部長という存在に主人公が喰われた!?
由緒によるギャフンを期待していた皆さん。何かごめんなさい。
いつまでも経っても上達しない風光を許して!
とりあえず憤りシリーズはここで一体お開きとします。楽しめたのなら光栄です。 短い間でしたがありがとうございました。
いずれまた<(_ _)>
風光