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083 世界魔法陣

魔法陣(ペンタクル)――――それも、“世界魔法陣(フラクタルペンタクル)”?」


 ヨハンは声を上げた。


「さすがは良く学んでいる。これほど古いペンタクルを知っている魔法使いは、そうはいないぞ?」


「――――やめろっ」


 ユダの言葉に、ヨハンは声を荒げた。


「何?」


「そんなもので“聖杯”が取り出せるなら、僕だってとっくに試している。それでは、魔力が暴走するだけだ」


「小僧、今更悪あがきは止めておけ――――見苦しい」


「悪あがきだって? 冗談じゃあない。あなたは“聖杯”の魔力を暴走させて、またこの地に――――キャメロットに“カタストロフィ”を起こすつもりか」

 

 ヨハンは体を激しく揺らし、何とかこの紐から抜け出そうと必死の抵抗を続けた。


「いいか小僧――――この“フラクタルペンタクル”は、全ての魔力を還元し、自然の姿へと戻す。そしてこのペンタクルには、我々十三人が全ての魔力を注ぎ込んだ。七日と七晩かけ、七つのエレメントと十三の星と契約を交わして造ったものだ――――これ以上のペンタクルは、過去にも未来にも存在はしない。今、この現在を除いてなな」


 自身と確信に満ちたユダは、更に言葉を発した。


「そして今宵は新月――――全ての魔法使いの魔力が衰え、全ての呪いや封印が眠りにつく夜。だが、我々の呪われた肉体は新月の影響を受けることなく、魔力を高めることができる。全ては我々の筋書き通り。この(さく)の夜こそ――――我々が待ち望んだ時なのだ」


 ユダはそう告げて指を弾いた。


 するとヨハンは口の上唇と下唇がくっついてしまったかのように、ヨハンの口が開かなくなり、ヨハンは言葉を失った。それでも、ヨハンは体を震わせ、どうにかこの紐から抜け出そうと懸命に思考を働かせていた。


「さぁ、始めよう――――“聖杯の乙女”よ、準備はいいな?」


 ユダの絡みつく蛇のような視線に見つめられ、マリーは自分自身の心の中に――――魂に尋ねた。


 ヨハンと出会い、アレクサンドリアを訪れ、狭い世界を抜け出し、世界の広さを知り、そしてアルバトロスでユダと出会い、テンプルナイトとキャメロットの悲劇の真相を知り、全てを受け入れると心に決めた自分――――


 全てが走馬灯のようにマリーの心の中を、魂を駆け抜け――――


 そしてマリーは力強く頷いた。


「いい瞳だ」


 ユダは片方の手を開き、もう一方の手に握った杖を地に打ちつけた。


 マリーを包み込むように立ち上る光の柱は、さらにその輝きを増し、消えた月にとって代わるかのようにその輝きをました。


 そしてユダは、一言――――


「“終末(ユル)”」


 単語を唱え始めました。


 続けて――――


「“世界(ペオース)”」


 赤い月の光はマリーを包み込み、マリーの体を幾重にも覆う赤い衣となった。


「“再生(ウィルド)”」


 刹那、“フラクタルペンタクル”を覆う巨大なドーム型の光は弾け、弾けた光はマリーの周りを取り囲むように集った。


 縮退した紅の光に包まれると同時に、マリーは胸の奥が激しく熱くなり、魂の底から込み上げてくる何かを感じていた。


 ユダと十三人のテンプルナイトたちは、弾けた光が凝縮したかのようにマリーの周りに集う光を恍惚と眺め、その儚い紅の瞳に涙を浮かべていた。


 集った光は次第に落ち着き、マリーの胸の中心に集まり始めた。

 

 そして、紅の光は手のひらに乗る程度の大きさの球のなり、それは紅い宝石のように輝きながら――――


 まるでマリーの心臓が飛び出したかのように、マリーの胸の中心を漂った。


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