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068 半獅子半蛇の怪物

「ようやく、ここまで辿りついた」


 ヨハンは力強く言った。


 そして後ろ振り返り、雲の巨人と揉み合うように、別の雲の固まりに消えてしまったクライストのことを危惧した。


「後ろを見ている暇はないぞ」


「ああ、分かっているさ」


 クライストの魔力を微かに感じたヨハンは、頷いて前を向きなおした。


 するとヨハンを取り巻く空間が歪み始め、宙を漂う魔力が乱れる。


「芸がないね」


 ひび割れた空間を何事も無く駆け抜ける箒は、アルバトロスとの距離をもう間近としていた。


 再び手の届く距離までアルバトロスに近づいたヨハンは、更に神経を研ぎ澄ませ、感覚を最大限に高める。


「もう以前のようにはいかないよ――――こっちも、それ相応の準備をしてきてるんだ」


 誰に言うわけでもなく言い、ヨハンはアルバトロスの背から伸びる、トンボのような六枚三対の羽が、不規則に動く合間を縫って、船内に入れる場所を品定めするように眺めていた。


 アルバトロスはすでにキャメロットの中心――――クレーターのような巨大な空洞の上空で停止しており、船内に浸入するには絶好の機会だった。


 ヨハンは老婆の腰のように曲がったアルバトロスの背に足を付け、いよいよアルバトロスの侵入に取り掛かろうと、事を起こし始めた。


 ヨハンはまず、緑色の墨で幾つかのルーン文字を描き、アルバトロスを覆う侵入者を防ぐ魔力の膜を取り除いて行く。それからヨハンは、腕に付けている、銀と金の蛇が絡み合って出来た腕輪を外し、その腕輪に魔力を込めた。蛇の腕輪は、ヨハンが丸々通り抜けられるぐらいの大きさまで広がった。


 その間にも、侵入者を防ぐ魔法が次々とヨハンを襲うが、どの魔法もロキの魔力に相殺され、ヨハンに届くことはなかった。


 ヨハンは広がった腕輪をアルバトロスの上に置き、単語を幾つか呟いていく。


 ヨハンは今、アルバトロスの外と中の空間を繋げようと魔力を調節して、空間の座標と出現位置を固定しようとしていた。しかし目を瞑り、精神を集中さているヨハンに、突如として思わぬ邪魔が入った。


 ヨハンよりいち早くそれに気がついたロキは、直ぐに態勢を変えて行動に出た。


 刹那―――――


 炎の波に辺りは覆われ、ヨハンたちを飲み込もうと、勢いよく炎の波が迫ってきた。


 ロキはその迫りくる業火を、まるで空気を吸い込むように飲み込み、炎の波を一瞬で平らげてみせた。


「ちっ、あと少しで空間が繋がる所だったのに」


 ヨハンは、悔しそうに言った。


「そのまま魔力を集中させていろ」


 ロキは、突然現れたそれを凝視したまま、ヨハンに厳しく言う。


 ロキが鋭く睨みつけるそれは、とてもこの世のものとは思えぬ姿をしていた。


 上半身は金色の毛と(たてがみ)を纏った“獅子”の姿をし、その下半身は毒々しい“大蛇”の尾を持っていた。その半獅子半蛇の怪物は――――ふしゅーっと体から奇妙な音を鳴らし、ロキとその後ろのヨハンを凝視していた。




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