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065 さて、行こうか相棒

「アニキ――――“グランド・エア”に入りやす」


 激しく揺れる船内に、緊張が走った。


“グランド・エア”に入った瞬間――――砲撃されたかと思えるぐらいの、大きな音と揺れとともに、稲妻が大きな悲鳴を上げた。


「アルバトロスとの距離五十――――そろそろ奴らの防御幕に当たります」


「分かった」


 ヨハンは嵐に負けぬくらいの声で告げた。


 アルバトロスとの距離が縮まり、ヨハンは改めてアルバトロスの大きさを実感していた。


 アルバトロスはクライストを五倍にしても足りず、ここまで近づいてしまうと、もうアルバトロスの船尾しか伺うことができずにいた。


 アルバトロスの船尾は、まるで地獄の門を閉じたように不気味で、まるでヨハンを冥府の入り口へと誘っているかのようだった。


 その刹那――――


 激しい稲妻が光と影をもたらした時、今までとは違う衝撃が船内を駆け巡った。


 アルバトロスの魔力で編まれた防御膜にぶつかった衝撃だった。


 魔法で張られた防御の膜は、暖めたミルクの上に張る膜よりも薄く、柔らかいものだったが、それでも外からの砲撃や侵入者の一切を、膜の内側に通すことはない。


 それは、魔法機関を持つ飛空挺の特徴のような機能だった。


 よって、その膜の中に入るには、同じ魔法機関を積むクライストが直接の体当たりをもって、その膜を強引にこじ開けるしか無かった。


 まるで見えない壁にぶつかったような衝撃に、クライストが激しく震えた。


「今から最大船速で防御幕を突き破ります。それと同時にハッチを開くんで、その隙に出てください――――」


「ああ、分かった。僕が出たら、君たちは直ぐにこの空域を出てくれ」


「分かってます。こんなおっかない場所、さっさとトンズラしましすよ。じゃあ、行きますよ」


 その瞬間、船内に何かが空回りする音が響き――――その音と共に、降下用のハッチが勢いよく開いた。

 

 ハッチが開くと、ハッチの外からは激しい雨風が吹き込んだが、ヨハンはそれを気にせずに、腰のアクセサリーから羽の彫刻を取り外し、空中で金色の箒に変えた。


 箒は吹き荒れる風をものともせず、ヨハンの足元を漂い、主人が足をつけるのを大人しく待っていた。


 ヨハンは頭の中を真っ白にした。

 そして、感じていた。


 音楽が遠ざかり、照明が落ち――――幕が上がってゆくのを。


 自分の鼓動だけが、ゆっくりと高鳴って行くのを。


「さて、行こうか相棒」


「ああ」


 肩の上でロキが応えると、ヨハンは両足を箒の上に乗せて、器用に二本の足でバランスを取ってみせた。


 そして天井の辺りまで上昇すると、箒は勢いよくハッチの外へと――――荒れ狂う舞台へと、滑空して行った。



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