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063 神の摂理

「――――さて、いよいよだね」


 ヨハンは緊張した様子で口を開いた。


“クライスト”はうまく雲の陰に隠れながら、順調に“アルバトロス”との距離を縮め、すでに“グランド・エア”を目前に控えていた。


 ヨハンは今、操船室の真下にある、降下用のハッチで――――静かに自分の出番を待っていた。


「さすがに、この距離で見ると恐ろしいものがあるな――――」


 激しく噴き上げるグランド・エアを前にして、ロキは感慨深く口を開いた。


「何千年と生きてきた私だが、この光景は興味深いな。と、言うよりも、自分が存在する意味を考えさせられる」


「君がそんなことを言うなんて」


 ヨハンは声を出して笑った。


「感慨深くもなるだろう。この光景はそれほど神秘的だ。近づいてみて分かったが、こんなにも魔力が強い場所が、この現世にあるなんて――――異様だ」


「“獅子の戦”時代の魔力の暴走が原因だろうね? きっとあの時の魔力が、未だにこの地域には残り続けているんだろう。もしかしたら、その魔力に引かれて“スレイプニル”が起こったんじゃ」


「魔力に引かれてか? スレイプニルには何か特別な役割があるのかもしれんな」


 ロキの言葉に、ヨハンは頷いてみせた。


「僕も、それを考えていたよ」


 神妙な面持ちでヨハンが告げると、部屋に別の声が響いた。


「兄貴――――アルバトロスが速度を速めましたんで、こっちも速度を上げます。エンジンをもう一度動かすんで、ちょいと揺れます」


「分かった」


「それと、アルバトロスに接近するのはグランド・エアの中になりそうなんで、ハッチを出るときの暴風に気をつけてください」


 ヨハンはそれには答えず、黙ったままアルバトロスに視線を向けた。


「魔力を感じるよ――――多分、僕らに感づいているだろうね」


「そうだろうな」


 ロキは静かに言葉を続ける。


「いいか、お前は船を出てから魔力を使うな――――アルバトロスまでは、私がお前の翼であり盾だ。お前はアルバトロスでマリーを助けることだけを考えろ」


「なに――――」


 ヨハンは屈託の無い笑みを浮かべた。


「雀一匹落ちるのにも神の摂理がある。後は、なるようになるさ」


 全てを察し、この世の理すら理解したような穏やかな表情で――――

 

 ヨハンは荒れ狂う空を眺めていた。


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