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059 美しい空だ

 見渡す限り、一面の白い平地だった。


 空は吸い込まれてしまいそうな蒼穹(そうきゅう)――――東の空には赤い絵の具を零したような、紅の(あかつき)


 その光景は――――限りなく細い、円の淵だけを残したような月が、西の空に帰ってから始まった。


 夜の帳が、開幕を告げるようにゆっくりと上がり、照明が照らすように、空が白み始める――――東の雲が、一面赤色に染まり、その雲の間から、ゆっくりと太陽が姿を現していく。


 黄金の太陽が天に昇り、光の帯を世界の隅々まで張り巡らせるかのようなその光景は、マリーの心にも、暖かい日差しを差し込ませた。


 マリーは、今、大聖堂の真ん中に立っていた。


 そして昇ってゆく太陽を、これでもかと言うぐらい眩しい表情で、見守るように眺めていました。


「まるで、血を流したような夜明けだ――――こんな日は、決まって誰かが死を迎える」


 黄金の夜明けに見とれているマリーの横で、ユダが不気味に呟いた。


「信じられないくらい――――きれい」


 ユダの言葉はマリーには届いておらず、マリーはうっとりとその夜明けに見惚れているばかりだった。


 前後、左右、見渡す限りが空に包まれた、まるで雲の上に放り出されたような空間に、マリーは自分自身が空に浮かんでいるような気持ちになっていた。


「なに、あれ?」


 そして次第に現れる壮絶な光景を前に、マリーが信じられれないとその瞳を見開いた。その視線が注がれるのは、円卓の上に浮かぶ赤い光の地図が、キャメロットを記すその真上―――――雲の平原に現れた“大きな竜巻”のようなものだった。


 周りの雲や空気が螺旋を描くように立ち上り、その螺旋は雲の上を超えて、空の上――――まるで星の外まで続いているようだった。


 雲の中心から何かが溢れ出ているかのような、地上から何もかもを吸い上げているかのような――――その螺旋はmどこまでも高く立ち上っている。轟と音を立てる螺旋の竜巻は、全てを飲み込んでしまいそうなぐらい恐ろしく巨大なものだったが――――それでも、この澄み渡る青い空に立ち上る一本の螺旋は、とても神秘的で美しくもあった。


 そしてマリーは、想像を絶する星の光景に圧倒されていた。


「マリー、偉大なる空――――“グランド・エア”を知っているか?」


 ユダが静かに尋ねた。


 マリーは、ニーズホッグのメンバーから聞かされた“グランド・エア”の話していたことを思いだした。


「偉大なる空――――“グランド・エア”は、かつて神々が住んでいた場所として崇められた空だ。そして、全ての魂が帰る場所。星を乖離す駿馬――――“スレイプニル”は、この星に彷徨う迷える魂を、この大いなる空に導く神の馬だと、昔の魔法使いたちは考えていた」


 ユダの儚い紅の瞳は目の前の光景を羨むように、空に現れた螺旋に注がれていた。


「飛空挺乗りたちは皆、この嵐の中にこそ、偉大なる空があると信じ、皆この空を目指し散ってゆく。何百年も前に私たち魔法使いが信じていたことを、今の飛空挺乗りたちは今でも信じている。時代が変わろうと、信じるもの変わらない。スレイプニルはそんな飛空挺乗りたちの思いを、この偉大なる空へと運ぶのかもしれんな。しかし、全ての飛空挺乗りたちが憧れるのも分かる」


 ユダは顎を撫でながら、感慨深く告げた。


「神々が住んでいると思いたくもなる――――美しい空だ」


「あら――――」


 マリーは口元を緩めて、ユダを見つめた。


「ユダって、意外とロマンチストなのね」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 ユダは瞳を閉じ、胸に手を当てて答えた。そして、再び瞳を開けてマリーを見据える。ユダのその瞳は、強い意思を宿し、表情は真に迫っていた。


「さぁ、時機に“キャメロット”だ。聖杯に選ばれし、聖杯の乙女マリーよ、汝に宿す神の力で、我々を導きたまえ。全てはキャメロットの栄光のため――――そして、全ての魔法使いのために」


 厳かに、そして堂々と告げたユダは――――纏っている白のローブを翻すと、大聖堂から姿を消した。


 マリーはユダのいなくなった空間に視線を落とし、それから再び、星の外へと伸びて行く――――


 偉大なる“グランド・エア”に視線を落とした。


「――――ヨハン」


 そっと呟いたマリーの声は、虚しく大聖堂に木霊した。


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