054 小指の先
小指に視線を落としていたヨハンは言った。
「――――“テンプルナイト”。彼らがそう名乗ったからには、彼らの行き先は――――“キャメロット”だ」
操船室の中央で、確信に満ちた瞳を輝かせながらヨハンは言葉を続ける。
「“獅子の戦”の時代に“キャメロット”を治めていた少年王アルトリウス。そして、そのアルトリウスの元に集った騎士たちを、人々はそう呼んだ。神に選ばれし王――――アルトリウス。その王に使える選ばれし騎士“テンプルナイト”。彼らは、黒にも白にも染まらぬ――――“神の鷹”と呼ばれた」
「その“神の鷹”が、マリーをさらった犯人だってのか?」
トールは大声を上げてヨハンに尋ねた。
「分からない」
ヨハンは頭を振った。
「この一件には、魔法使いが裏で糸を引いているはずなんだ。それも、かなり権力のある魔法使いが――――“獅子の戦”が終決し、アルトリウス王が亡くなった後も、アルトリウス王への信望者は多いと聞く。今回の一件は、“キャメロット”を失った者が復讐者として動いているのかも?」
明確な答えの出ぬままヨハンは思考を断ち切り、目の前に広がる薄暗い空に瞳を向けた。
「とにかく、一刻も早く“アルバトロス”に追いつこう。マリーが心配だ――――」
そう告げると、ヨハンは再び自分の小指に視線を落とした。
そして二人は、お互いの糸と糸を手繰り寄せるかのように――――
小指の先に待つ、お互いに視線を向けていた。