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043 英雄の祝日

 その日、王都はかつてないほどの賑わいを見せていた。


 空はこれ以上ないぐらいの快晴を迎え入れ、そして王都は活気と熱気で満ち溢れていた。


 道という道、広場という広場には、収まりきらぬ程の人々が集い――――これから凱旋する戦艦や飛空挺、兵士や国家魔法使いたちを一目見ようと、朝早くから多くの人が集まっていた。そして人が集まっているのは広場や道だけではなかった。港、公園、建物の上、丘の上、それに木の上に登っている人まで――――今日は大陸に暮らす全ての人が、これから凱旋する者を称えるための一日。


“英雄の祝日”と、“世界政府”が定めた歴史的な一日だった。


 そのため誰一人として働く者はおらず、全ての店は閉まり、市場は開かれず、本来ならば今頃漁から帰ってきて大忙しの港も、今日だけは船を出している漁師は一人もいなかった。


 集まった人々は勝鬨(かちどき)を上げて帰ってくる英雄たちを、今か今かと待ち侘びていた。


 王都に住む人々――――“ローランド王国”だけでなく、そしてこの大陸に住む全ての人々が、今日という日が来るのを心から待ち望んでいた。今日のこの日のために、大勢の人たちが遠く離れた場所から、わざわざ王都を訪れていた。


 全ての建物には白い獅子の旗が掲げられ、そしてたくさんの虹色の旗が建物の間にかかっている。道や広場に収まらぬ人たちも建物から顔を出し、手には旗を握ってそれを必死に振っている。


 その時だった――――


 人々の熱気が頂点に達し、待ち侘びた期待が今にも破裂しそうなぐらい膨らんだ瞬間。


 太陽が王都の象徴、“無憂魔宝宮(グリモ・サンスーシー)”の真上に来た時――――大きな勝鬨と共に、西の空と水平線に、飛空挺と戦艦の編隊が現れた。


 澄み渡る天空と、濃く深い海に、大きなV字を描き――――金色の太陽の光に包まれながら、神々しいぐらいの光りに包まれながら、凱旋した英雄たちは王都に還ってきた。


 それを見た人々は大きな歓声と歓喜の声を上げ、手に掲げた旗を大きく振り続けた。中には涙を流す者もいた。そして、建物の上から色とりどりの紙吹雪やブーケが投げ込まれ、凱旋する英雄たちを最大の賛辞と賛美、そして歓声をもって迎え入れた。


 戦艦の編隊は、“ポート・アレクサンドリア”に建造された海軍基地“オケアノス”に停泊した。そして戦艦の砲台からは七色の煙が上がり、自らの凱旋を鼓舞するように帰還を告げた。


 戦艦のタラップに続く赤いカーペットが即座に敷かれ、その絨毯の上を凱旋した英雄たちが胸を張り、堂々と歩き始める。


 凱旋した飛空挺も、自らの凱旋を鼓舞し歓声の余韻に浸るように、悠々と空を飛行する。王都の上空を大きく一周しては、地上で帰還を待ち侘びる群衆を煽っていく。そして、空中からは大量の紙吹雪を撒きながら、飛空艇は一番地へと向かって行く。


 地上では、一人の男がその紙吹雪を拾いあげ、その紙に目を通す。


「号外だっ」



 飛空挺から撒かれたのは紙吹雪ではなく、今回のバグラ大陸への出兵の成功を告げるものだった。


 天から降ってくる号外をまるで神のお告げのように受け取り、それを手にしては人々は歓声を上げた。


 七隻の飛空挺は順々に降下して行き、一番地の飛行場であり――――今回の凱旋式が行われる式場でもある空軍基地“ユーピテル”に着陸した。横一列に着陸した飛空挺は、着陸すると同時に盛大な拍手で迎え入れられた。


 飛空挺の正面からタラップが下り――――初めの一人、白獅子の最高司令官が、赤い絨毯の上を歩き、今までの中で最大の祝砲が打ち上げられた。


 太陽が昇っている青い空に花火のような光りが弾け、色とりどりの閃光は空で徐々に形を変え――――そして、快晴の空に白い獅子の紋章が浮かび上がったた。


 その祝砲は、魔法で作られた砲弾だった。


 魔法の砲弾によってつくられた白獅子の紋章は、この凱旋式が終わるまで天空に浮かび続けていた。


 それから飛空挺から続々と兵士がタラップ降りはじめ、赤い絨毯の上に列をなして並びだした。

 

 海軍基地の兵士を合わせると、数万人を越える兵士が列をなしている――――そして全員が並び終えると、赤い絨毯は兵士たちの被っている制帽で一面白に変わっていた。


 鼓笛隊の演奏が始まり、そして素晴らしい鼓笛隊の演奏が終わると――――再び盛大な拍手が沸き上がった。


 そんな歴史の一ページを――――いかにもつまらなそうな顔で、貴賓席から眺めている一人の魔法使いがいた。


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