表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/93

042 マリーを救出するのは不可能だ。諦めよう

 夜が更に深け、次第に辺りが白み始めたころだった。

 不意に真夜中の沈黙を破るように、ヨハンのアジトの扉が力強く開かれた。


 机の上で背筋をピンと延ばし、扉を睨みつけていたロキは、まるで来訪者が訪れるのを待っていたように、ただ平然とし扉の奥から来訪者が現れるのを待っていた。


 ロキは訪れた来訪者を見据え、アメジストの瞳を細めて静かに口を開いた。


「遅かったな?」


 来訪者は力なく肩をすくめて、机の上に腰を下ろした。


「まずいことになった――――“魔法省”が動き出してる」


「まぁ、そうだろう。あれだけ激しく魔法を使えば、いくら怠慢な“魔法省”も気づくだろう」


 来訪者はじれたように顔を顰め、苛立ちを押さえきれずいた。


「マリーを救出するのは不可能だ。諦めよう」


 その言葉を聞いてもロキはわずかにも動揺せず、平然と来訪者の話を聞いていた。


「今更だな?」


「今更だって?」


 来訪者は強い口調で反論した。


「私は、何度も警鐘を鳴らしてきたはずだ? なぜ貴方ほど者が意を唱えない――――ロキ、貴方なら分かっているはずだろう? この件が、いかに無謀で愚かなことかを」


 来訪者の言葉を聞き終えると、ロキは眼差しを緩めた。

 そしてロキは、その声を少しだけ穏やかにして言葉を紡いだ。


「お前も分かっているはずだろう? 私は相棒のすることに迷いがないのなら、たろえどんなに愚かで、無謀な道だろうと付き従うと――――あの男の為ならば、私はこの魂を捧げると、この間の夜も伝えたはずだが?」


 そこまで言い終えると、ロキは言葉を一旦止めた。

 そして手ごたえを確かめるように、ロキは来訪者を見据える


 来訪者はとても悲しそうに、その顔に影を落としていた。


「だが今のお前の言葉を聞いたら――――なおさら、ヨハンはマリーを助け出すと言って聞かないだろうな。私の相棒はそういう男だ」


「知っているよ。初めて出会った時から、あいつのそういう所が気に食わなかった―――――自信と確信に満ち溢れ、それを軽々とやりこなしてしまう才能。そして、無理や無謀、そう言われると、なおさらやる気をだす皮肉れた性格。全てが気に食わない。初めから分かっていたが、私にできるのはここまでだ。好きにやるがいい――――私は、どうなっても知らないからな?」


 残念そうに、来訪者は言った。


 皮肉を込めて口に出した言葉が彼の本心ではないことを、ロキは十分に分かっていた。

 

 全てを告げ終え、もはや自分にできることは何もないと悟った魔法使い――――海のように青く澄んだ瞳をした来訪者は、背を向き扉へと向かった。


「アンセム――――済まない」


「言っただろう? 私にできるのはここまでだと――――明日は国家魔法使いとして行動する」


 アンセムは背を向けたまま厳しい口調で言うと、そのまま白み始めた外の世界に消えて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ