表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/93

040 お前らぁ、ちったあ、黙らねえかあ

「なっ、なんですって――――姉さんが、さらわれたって?」


 大柄で体格のいい男たちは、夜も明けぬまま半ば強引に起こされたため、眠そうに目を擦りながら、ヨハンの話を聞いていた。しかし話が核心に触れると、いくら鈍感でお気楽な男たちも押し黙り、真剣に話に聞き入った。


 そして、マリーがさらわれた事をヨハンに告げられると、皆一様に声を揃えて大声を上げた。


「いったい、誰にです?」


 ホズがしゃがれた声で尋ねた。


「分からない――――けど、魔法使いであることは確かだ」


 ヨハンは深刻な口調で言って頷く。


 事の成り行きと、今回の一件を話終え――――ヨハンは疲れたように瞳を閉じて、肩を落とした。しかし疲れてなどいる暇などもちろんなく、ヨハンは自分を叱咤して再び目を開き、しっかりと現実を見据えなおした。


 そして、慌てふためく男達を見つめ、ヨハンは言葉を発しました。


「僕は、何に変えてもマリーを助け出す。その為に、君たちの力を貸してもらいたいんだ」


 ヨハンは一旦言葉を止めて翡翠の瞳を鋭く輝かせ、“ニーズホッグ”のメンバーを一人ずつ眺めた。


「君たち“ニーズホッグ”の魂を――――僕に預けてくれ」


 ヨハンの言葉を聞き終えると、急に男たちは口を閉ざして――――みんな、一斉に押し黙った。


 そしてヨハンはそれ以上何も言わず、ただ頭を深く下げ。


 そんなヨハンの姿を見て、ホズが全員を代表するように声を上げた。


「何を言ってるんすか、兄貴? 頭を上げてくだせぇ。(あね)さんがさらわれたのなら、あっしらが兄貴に力を貸すのは当然です。それに兄貴の頼みなら――――あっしらは地獄にだって、ご一緒しますよ」


 続いてチェシャが――――


「もともと、こんな命、兄貴に拾われたようなものさね、おれっちは兄貴の手にも足にもなるさね」


 続いてマッドが――――


「そうっすよ。ニーズホッグは、兄貴あってのチームなんすよ」


「すまない」


 その言葉を聞いたヨハンの身体から少しだけ体の力が抜け、それでもこれからやろうとしている事の重大さに、少年の魂の震えが止まることはなかった。


「よしっ、野郎共、我らの女神である姉さんを無事救出し、ニーズホッグの旗を――――大いなる空に掲げるぞ」


「おー」


 ホズの号令に、ニーズホッグのメンバーは大きな声を張り上げ、そして天高く手を掲げてみせた。


 マリーの救出を誓い合ったニーズホッグのメンバー――――しかし彼らは事の重大さを分かっているのか、まるでお祭りが始まるように浮かれ始め、ハッターはまたしても酒を配り始めた。


 その光景を半ば呆れながらも、ヨハンは信頼と感謝の眼差しで彼らを見つめていた。


「全く、君たちのお気楽さには毎回呆れるよ。だけど、何とかやれそうな気分になる」


 ヨハンはため息を吐き、小声で呟くように言った。


 しかし呆れたように彼らを見つめていても、ヨハンはニーズホッグのメンバーを心から信頼をしていた。

 

 ホズはそんなヨハンの胸の内には一切気づかず――――

 

 今まさに、乾杯の音頭をとろうとしていました。


 その時―――


「お前らぁ、ちったあ、黙らねえかあ」


 それまで、奥の椅子で腕を組んだまま黙って事の成り行きを見守っていたトールが、突然、腹の底から重低音を轟かせた。


 たった今まで、お祭り気分で騒いでいたニーズホッグの大男たちは、トールのその声を聞いて、まるで時間が停止したかのようにピタリと動きを止めた。


 そしてみんな一斉にトールの方を向き、一様に脅えて身体を震わせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ