032 雨と焦りと黒い梟
ヨハンは町を全力で駆けていた。打ちつける雨を気にする様子もなく、鋭い視線で辺りを見回しながら、全速力で町を駆け抜ける。
ヨハンは広場の真ん中で膝に手をついた。
もうマリーが訪れたことがありそうな場所は、全て回りきっていた。しかしマリーの姿は、一向に見当たらない。
ヨハンの身体を不吉な焦燥感が包み込む。あ
妖しげな魔力の気配は、次第にその存在感を増していた。
「くそっ、こんなことなら魔法の地図を返してもらっとけば良かったな? こうなったら――――」
そう言ってヨハンは腰のチェーンに手を落とし、たくさんのアクセサリーの中から“大きな目がついたメダル型の彫刻”を取り外しました―――――メダルにはさらに五本の短いチェーンの伸び、それぞれのチェーンには色の違う透明の石がついていた。
ヨハンは、そのアクセサリーを手の中で握って魔力を注ぎ、そして手を開くと、手の中のアクセサリーは梟によく似た、五羽の黒い鳥に姿を変えた。
五羽の黒い梟は――――それぞれ目が一つずつしかなく、頭の正面についた大きな目は、一匹ずつ目の色が違っていました。
梟たちはヨハンの腕から手にかけて並んで止まり、そしてヨハンが手をあげると、五羽の梟は大きな翼を広げて、一斉にヨハンの元から飛び立って行った。
梟たちは空で散り散りになり、町を覆う曇り空に吸い込まれるように消えて行った。
そして梟たちが飛び立ったのを確認したヨハンは、濡れた髪を後ろで束ねて――――自分もふたたび駆け出して、灰色の町並みに消えて行った。