第捌話 嗚呼! からくりよ! その一
「……ではみなさん、並んでください」
入学して三日目。武蔵達改め負け組壱の生徒達は旧校舎前に並んでいた。
そう。今日はからくりとの対面式兼ね専用武器を受け取る日なのであった。
ついにやっと来たって感じだな。待ちくたびれた。どこの情報かわからないが、新校舎の方は入学初日に終わらせたらしい。新と旧でなぜここまで差がついてしまうのだろうか。……あ、才能が無いからか……。
「武蔵さん」
「何だ琵琶之秦?」
並び終わり、桜田先生が説明をしている時だった。武蔵の後ろに並んでいた秦が声をかけてきたのだ。
「武蔵さん好みのかわいいからくりだといいですね」
「そうだね……」
武蔵は少々あきれ顔で言った。
そういえば、入学式の日に見たあの子は誰のからくりだったんだろうな。もうとっくに才能がある人に奉仕しているんだろうけど。
「武蔵さん」
「またか琵琶之秦。そろそろ質問はやめてくれ」
「妄想するのもいいですけど、後ろが詰まっているので早く行って下さい」
あっすまん。
武蔵はすぐに早歩きし前に追いつきに行った。
その後、何事も無く無事新校舎まで来ると、番号順に並び直し入校した。
受け取りについて桜田先生は、からくりと専用武器の受け渡しはどちらもからくり整備室で一人ずつ行うとの事。からくり整備室の前まで来たら自分の学級・番号・氏名を言ってから入る。で、受け取ったらそのままこちら側には帰ってこなくていいらしい。そういえば、待っている間に悲鳴のようなものが聞こえたな。この学園は謎ばかりだな。
こうしている間に武蔵の番になった。
「……火花君、何回も言いますが受け取り終わってもこちら側には帰って来なくて結構ですので」
桜田先生が念入りに武蔵に言う。
「わかりました。では、行って来ます」
そう言うと、武蔵は今いる廊下の奥にあるからくり整備室に向かって歩き出した。
一歩一歩足を踏み出すたび鼓動が引き締まり、そして早くなる。それだけ武蔵は緊張している。頭に流れている血は緊張からかいつもより濁流のように荒ぶっている。
そしてとうとう戸の前まで来た。
立派な門の前には、所々赤褐色の酸化が進んだ鉄格子が2重に備え付けられている。
緊張するなぁ。当たり前かそんな事。でもついに来たなこの時が。すごく緊張はしている。だけど、何だろう。すごく会うのが楽しみっていう方が気持ち的には多い気がする。
武蔵は軽く深呼吸をし、二重に備え付けられた鉄格子を開き、門を軽く叩いた。
「すいませーん。壱年負け組壱二十三番の火花武蔵です。からくりと専用武器を受け取りに来ましたー」
武蔵が聞くも返事は無い。
いるんだよな?とりあえず、中に入ってみるか。礼儀としてはなってはいないが。
武蔵は門を押し、中に入る。すると、どうだろうか。部屋の中にはよくわからない精密機器が並び、奥には二つの戸がありどちらも鉄製に見える。戸の上には「地下」と書かれた文字の横に数字が小さい方から順番に並んでおり、只今「弐」が緑色に点滅している。
なんか場違い感がするような気がしないでもない。しかし、なんなんだここは?全然見た事が無いものばかり何だけど?
「えっ、何!?」
武蔵の横にある精密機器が突然唸るように音を挙げた。
これどうすれば……。えっと、先生はどこに?
武蔵が辺りを見渡すも教師らしい人はいない。この整備室内は武蔵だけの、一人の弧島と化してしまっている。
そんなこんなしているうちに音はどんどん大きくなっていく。
「ああ! ヤバい……。これいじるまで、絶対先生帰って来ない奴だ」
武蔵があたふたしている時だった。奥の左の戸から何かの合図らしき音が鳴ると同時に、戸が開いた。その中からは、一人の少女が武蔵のほうに歩いてきた。
「き、君は――」
武蔵が驚きの声を上げる。
その少女は、濃緑色の髪、小柄で華奢な容姿、洋風と和風が入り交じった赤い服装、そしてほっそりとまるで人形のようなきれいな顔立ち、その全てに武蔵は見覚えがあった。
「――あの時の」
武蔵の視界の全てはその少女に向けられた。
少女はそんな事に気づかず音が鳴る精密機器の所に行く。そして、四角い物体が無数に表示されている画面を触り始めた。
「えっと……確か先生の指示では、ここをこうして……これで、よしっ!」
少女は任務を終えると小さくガッツポーズをした。
かわいい……。ほほえま……。
「? どうかしましたか?」
「いや、何でも無いです。自分は、その、からくりと専用武器を取りに来たものですから」
少女は武蔵にじっと見つめられたのに何かを感じたのか疑問を浮かべた。武蔵は怪しいものではない事を最低限に説明した。
危ない危ない。つい見とれてしまった。警戒させてしまったかな?……いや、そうでもなさそうだ。
少女はその事を聞いた途端、目を星のように輝かせて武蔵を興味津々で見ている。
「あの……何かな?」
「だってだって! あなた様がこの赤姫のご主人様なのでしょ?」
えっ、嘘だろ……。こんなに人面良さそうで、人望良さそうで、誰からも愛されそうで、可愛がられそうで、意外と抜けた所ありそうな子が俺のからくり……?
武蔵はその言葉にただただ呆気にとられた。
やっとからくりがでてきました捌話です。
ここからどうなるのかこうご期待!