第肆話 適性試験
『君達にはこれから才能有りか無しを判定する殴り合いをしてもらいます!』
学園長から告げられた言葉はまさかの言葉だった。
殴り合いだとっ!?ここにいる全員で?ちょっとよく解らないな。もう少し詳しく言うと、筆記でお願いします、だ。
『規則は簡単! その場にいる人を一人でも地面に倒すことができれば才能有り! 才能なかった人は、古臭い旧校舎に移ってもらうからそのつもりでやってね! 男女混合だから男子が女子をおそ……こほん。倒しても構わないよ! ……それじゃ、始め!』
学園長は説明を終えて、放送を切る。
今、襲うって言いかけたよな?教育者の代表がそんな発言していいのか?どうなん――
「おらあ!」
「うわ!」
いきなり大柄な男子生徒が武蔵に襲ってきた。
「危ねえだろ!」
「うるさい! もう始まってんだよ!」
男子生徒にそう言われ、武蔵は周りを見回す。
すると周りは――というより第一体育館内は肉弾戦による戦場と化していた。
大柄な体、そしてがっちりとした筋肉を駆使し争う男子、小さな体で接戦を繰り広げる女子。そして、学園長が言っていた通りに、ちらほらと男女同士の殴り合いも存在している。
もうここは戦場だ。戦場なんだ。だけども、これでいいのか。俺には理解ができない。なぜ仲間同士で殴り合いをしなければならないんだ?どうしてなんだ?どうし――
「ぼっさとしてんじゃねえ!」
「うは!」
武蔵はこの場の状況を飲み込めずその場で立ち竦んでいた。
それを見てかさっきの男子生徒は、武蔵に活を入れながら襲いかかった。
武蔵は何も体制もとっていなかった為、弾き飛ばされ倒されてしまった。
「いてぇ……」
「ふん。気持ちを切り替えないからだ」
男子生徒はそのまま武蔵に言うなり立ち去ってしまった。
なんだよ。あいつは何も感じないのか?こんな今日から仲間になる人達と殴り合いするのがおかしいとは思わないのか?少なくとも俺はすごく考えてしまう。俺は本当に武士になれるのか?
そんなことを思っている時だった。武蔵は他の仲間が今どうなっているか確認するため起き上がった。
まず、早速見つけたのがつばさだ。相手は男子。体勢的にはもう負けたと見える。
地面に背中から着き、膝を立てながら倒れている。力の差がだいぶ出たような感じだ。相手の男子はまったく疲れを見せておらず、ただただ上から倒れたつばさを見下ろしていた。
「つばささんも負けてしまったのか……」
武蔵は落胆する。
寝ぼけている時は無双なんだけどな。相手が相手で厳しかったのかな?俺も人の事言えないけど。それにしてもあの体勢、かわいい……。健気だ……。
なぜか癒しに浸る武蔵だった。
次に見つけたのは、秦だ。こちらも相手は男子。男子同士だが、背丈が非常に厳しい。それもそのはず、秦はつばさより低い、小さいのだ。勿論、武蔵と疾風より小さい。
秦の所はこれから開始するらしく礼儀正しくお辞儀をして始めた。
戦闘が始まり、先に動いたのは秦だった。絵にかいたような殴りを見せ、見事にひらりとかわされ、自分から地面に突っ込んでいった。簡単に言うと、自爆である。
今のは作戦だったのか?いや、違うよな。まさか作戦なわけないよな?
「自惚れく~ん! どうだった?」
武蔵がそれぞれの戦闘状態を確認している時だった。後ろから肩をポンポンと叩かれ聞かれた。
言わなくても、言うまでも無くあいつである。疾風である。
武蔵は聞かれたのでありのままの事を教えた。
「負けたよ。相手に何もできないまま」
「うっそ! 相手は?」
「男子だよ」
「男子に負けるとか……」
疾風は武蔵から聞くと、口を押さえながら笑った。
男子に負ける人は俺以外にもいるぞ。秦とか白羽乃さん……とかな。こいつに教えてやったらどんな顔をするだろうか。
「そう言うお前はどうなんだよ?」
「オレ? オレは天才だから勝ったよ」
「誰に?」
「女子の亜麻城美佳ちゃんに」
「女子じゃねえか!」
相手が女子と知り、キレる武蔵。
女子相手に勝ってんじゃねえよ!こいつ、女好きの癖に女子を押し倒して才能有りに行くとか容赦ねえな!こいつは崖から子を蹴落とす獅子か何かなのか?それと、女子の名前を聞いている所が犯罪じみている。正直言ってキモい。
そんな茶番をやっている時だった。
『一通り終わったみたいだから、移動してもらうね! ちなみに、君達の行動は監視カメラからちゃんと見ているので不正かどうかも確認できるよ! 不正したものは……いなかったね。残念……』
どうやら試験が終わり、学園長が放送を掛けてきた。
監視カメラって……。初めて聞いた言葉だが、どこからか見ているという事か。不正してなくてよかった。というよりも、一方的だったけど。
『じゃ、負け組……こほん、才能無しの人は速やかに旧校舎に移動してもらうよ! 最後に! これからの学園生活がんばってくださ~い!』
学園長はそのまま切ってしまった。
負け組み、ね……その通りなんだけど、いくらなんでも素が出すぎじゃないの、ここの学園長。とりあえずこれで終わりか。さてと、それじゃ、旧校舎に移動するかな。その前に琵琶之秦と白羽乃さんを誘おう。
武蔵はつばさと秦のもとに向かった。
「二人とも、お疲れさん」
「武蔵くん。どうだった? わたしはボロ負けだったけど」
「俺も負けたよ」
「武蔵さん負けたんですか? どうしてです? 頭でも――」
秦は武蔵が負けたという事を知り驚いた。
「頭は壊れてない。安心しろ琵琶之秦」
秦を安心させるように話す武蔵。
「それより早く行こう。……あいつの視線がきつい」
後ろからは羨ましそうにじっとこちらを見ている疾風に恐ろしさが沸いたのか、出発をしようとする武蔵。
武蔵、秦、つばさはそれぞれの学生鞄を持ち第一体育館を後にした。なお、疾風はそんな三人の後ろ姿をただただ見ていることしかできず、その場に待機したのだった。
第肆話でした。
ちなみに『肆』は(よん)と読みます。思いっきり当て字ですみません!
今回は試験話でしたが、私乃場合は体力も何もないので旧校舎送りですね。
疾風だけぼっち状態になりましたが、これから全員どうなるのか……。
見ものですね。