第参話 入学式
入学式と言えば、私の小学生の時は幼稚園や保育園の名前が言われて、
そこに在籍していた生徒は起立するというものだったのですが、
私の在籍していた保育園の名前が一回も言われず、
そのまま終わりを迎えたことをよく覚えてます。
今でもなぜ言われなかったのかが不思議です。
でわ、参話目どうぞ。
春。それは出会いの季節でもあり、恋が始まる季節でもある。
生まれてから何度目か忘れてしまったが、結構来ている春。
本来なら、本来ならば、もう恋は始まっている。はずだった。しかし、奴が来てオレの恋愛は触れることなく終わりを遂げてしま――
「何、語ってんだよ?」
「く、自惚れくんには分からないだろう! このオレの気持ちは!」
「分からないだろうね、永遠に……」
現在、学園を目指して学生鞄を持ち、いつもの四人で仲良く登校中。
ちなみに寮から学園までは約三里(一〇キロ)とかなり離れている。学ぶ者は道中も学べということか。
その間、どうやら疾風は静かな空気に耐えられないようで一人、淡い春の恋について語っていた。
「皆も何か喋らない? 流石にオレも喋りつくしたんだけど」
疾風が武蔵、秦、そしてつばさに助け舟を出す。
「いや、遠慮しておく。眠いし」
「力をここで使いたくないです」
「……」
三人共眠そうな雰囲気だ。
全員それぞれの志望職業の色の制服を着て、眠気と戦いながら学園を目指している。
武蔵と疾風は青いブレザー型の陣羽織、秦は紫色のブレザー型の陣羽織だ。三人共、陣羽織の下に白いワイシャツを着ており、そこに赤いネクタイを締めて学園指定の茶色のズボンをはいている。
一方、紅一点のつばさは、白い振袖で男子同様白いワイシャツを着ている。そして襟元には赤いリボンをつけている。そして、学園指定の茶色いスカートをはいている。
この制服の色は、戦命学園ならではの職業確認方法の一つである。見ただけで選別できるのは中々画期的ではあるが、覚えている者はあまりいない。
話はまた軌道に戻るが、武蔵達がなぜこんなに眠そうかというと理由がある。
それもそのはず。武蔵達が出発した時刻は朝の五時半、しかも全員勉強疲れ。眠くないはず無いのだ。むしろこんな状態で眠くない疾風の神経が驚きだ。
「つばさちゃん! 無視しないで! オレの発言無視しないで!」
つばさに無視をされたのがよっぽど心に痛かったのか疾風が猛烈に抗議する。
「疾風さん、今話掛けない方が……」
秦が止めに入った時にはもう遅かった。
つばさは学生鞄をその場に置き、疾風の背中にダイブしたのだ。簡単に言えばおぶられ状態だ。
「つばさちゃん大胆だね? もしかしてオレにぶぎぃ!」
「ふぐぅ……」
つばさの腕が疾風の首を絞める。刑あるいは罰が只今執行された。
入学前の生活で分かったが、朝はとにかく寝ぼけているらしい。とりあえず記憶はあるらしいが、どうにもこうにも自分では制御不能で目が覚めるまでこの状態が続くらしい。
実際、入学前、朝に白羽乃さんの部屋に訪れた時、これをもう三回くらっている。あやうく天国行きになる所だった……。
「それより、学園遠いな……」
つばさに苦締められている疾風をよそに武蔵は果てしなさを痛感した。
ワイシャツに締めた青いネクタイを軽く締め、つばさの学生鞄を持つ。
そして一行は学園をひたすら目指すのだった。
学園に着いたのはそれから約二時間後の事だった。
長い登校を終え、入学式を終える前にすっかり全員疲れてしまった。これが毎日続くとなると中々の地獄である。中々どころではないのかもしれないが……。
「つ、つばさちゃん……もう、着いたから……」
苦し疲れ気味におぶられたつばさに報告をする疾風。
「すぅ……」
「ね、寝てるだと!」
そんな事関係なしに眠っているのであった。それには疾風も驚きを隠せないのだが、なぜか嬉しそうだった。
「はあはあはあはあ――」
「疾風どうした? 妙に息の入りが、気持ち悪いんだが……」
「どうしたもこうしたもない! 背中でつばさちゃんが寝ていると思うと嬉しくて、はあはあ――」
武蔵が疾風に聞くが、素晴らしい程に、変態的に、変人的に嬉しそうに答えるのであった。
気持ちわるっ!背筋がざわざわしてくるんだけど!白羽乃さん早く起きて!そこから一刻も早く離れるんだ!でないと大変なことに!
「……は! わたし何を……」
「起きた? つばさちゃん?」
背中で突如起きたつばさに対して疾風が嬉し羨ましそうに聞いてくる。
わくわくしているのがこちらからすごく伝わってくるんだが。まあそんなに良い答えが返ってくるとは思わないな。
「え、もしかしかてて運んできてくれたん!?」
「そうですよ! 女性相手なら力を発揮しますよ!」
その女性相手という発言に、日常生活以外の怪しさを感じたのは俺以外にもいるはず。
「かんにんえ! あないなに長い道んりを運んできてくれて! うち何や疾風くんにけったいな事やっちゃったか?」
「僕、何もしてませんが」
つばさは知らず知らずの間に疾風の背中から降りていた。
そして、なぜか分からないが秦に謝るつばさ。
どうやらまだ寝ぼけているらしいな。いや、寝ぼけているのか?ひょっとしたら寝ぼけてないんじゃ……。
「つばさちゃん! オレこっち!」
疾風がつばさに気付いてもらえるよう猛烈に目立とうとしている。
必至だな。どれだけ好かれたいのかがここから見ていてよくわかる。
「ん、誰だあれ?」
武蔵は一人辺りを見回していると、変わった人物がいることに気づく。
今いる場所から、少し離れた木の木陰でその人物はいた。
赤い振袖とスカート、そしてひらひらとしたフリルが特徴の白いエプロンをした小柄な少女が、気持ちよさそうに眠っている。
風のおかげで濃緑色の髪の毛がさらさらとたなびいている。
なんだか不思議な女の子だな。雰囲気というかオーラというか、寝ていても何かを漂わしている感じがする。
「自惚れく~ん」
不思議な少女を見ている時だった。
もう生徒玄関前にいた疾風たちは一人でポツンといる武蔵の事を呼んでいた。無論、呼んでいるのは疾風だけだが。
「ああ、すまん! 今行く!」
武蔵は呼ばれたことに反応して、生徒玄関方面に駆けていく。
「一応、このまま第一体育館に行くらしいよ」
「このまま? 学級確認は?」
つばさが武蔵にこの後の予定について教えてくれた。
しかし、それに武蔵は疑問を浮かべ、質問をする。
「それが……」
つばさが言いずらそうにしているので、代わりに秦が答えてくれた。
「無いです。発表されていません」
「へえそうなんだ……嘘だろ?」
少し間が空いてからようやく武蔵は気づいた。
発表されてない……だと?それじゃ、いつ、どのように、どんな形でやるんだ?謎しか出てこない……。
「でも、とりあえず。今は第一体育館に行こ?」
「そうだな、まずはそうするか」
「さっきからオレ、はぶられてない!?」
疾風が横でぶつくさ言っているが、関係無いことだと思うので無視をしよう。
そして一同は、内履きのぞうりに履き替え、第一体育館へと向かった。
しばらくすると、第一体育館についた。
第一体育館の中は、武蔵たち同様新入生だらけだ。が、並びも何も無いので散らばっているという状態だった。
「ここで待っていればいいか?」
「オレは自惚れくんを信じるよ」
「俺に託さないでくれる!?」
疾風は武蔵に全てを託す。
俺に託されてもなぁ……。正直困る。人に全てを託す人ってなんだろう、楽でいいよね。
何分か待っていると、第一体育館内に第一声とも呼べる放送が掛かった。
『これより入学式兼ね適性試験を行います』
放送からは男性教師だと思われる声が発声された。
しかし放送で伝えられたのは、入学式開始と急で急過ぎる適性試験の知らせだった。
「いきなりすぎるな……」
「でもこれじゃあ筆記試験は――」
つばさは試験に疑問を抱く。
そのことに関し、秦が答えた。
「いや、できますね。筆記ではなく体力的な試験なら」
秦の言葉に一同の背中に悪寒が走る。
ヤバい。試験だから筆記しかしてない……。入学初日で退学になるのだけはごめんだぞ……。でも、そうなる予感しかしない。神様!天照大神でも何でもいいから少し知恵というか力を貸して下さい!お願いします!
「自惚れくん、顔が暗いけど大丈夫?」
ただし一人だけ不安も何も現れていない。
なぜこいつだけこんなに元気なんだ?わけがわからん。朝に白羽乃さんに締められていたというのに……。いや、まさか白羽乃さんに締められたのが力になったのか?まさかな……。
『では学園長式辞』
始まって早々、学園長式辞という異例だった。
ちょっと待て。いくらなんでも早すぎる気がするのは俺だけか?何かこの間にあった気がするのだが……。
武蔵が心の中でそう思っている時、式辞が開始された。放送で。
『新入生諸君! まずは入学、おめでとう!』
放送からは、明らかに合成・加工された学園長の声だった。その声は結構高い。
おっかしいだろ!なんで学園長も放送で式辞してんだ!めちゃくちゃすぎるぞ、この学園!しかも、声が明らかにおかしい!
『この戦命学園での三年間はきっと、いつか、多分だとは思うが、君達の力になるだろう! 精々その日が来るまで武士道に励みがんばってくれ! 以上!』
そして、早々と幕を閉じたのであった。
早い。なんだこれ?こんなに早く終わる入学式あったであろうか。少なくとも俺の記憶からして無い。無いというかあるはずがない。そして、多分とか言ってたな!不確実な要素があるのか!?
武蔵が心の中でそう思っていると、合成・加工しまくりの声で学園長が続けざまに報告する。
『では次に、適性試験を受けてもらおうと思います!』
ついに適性試験の話が来た。
第一体育館が一気に緊張に包まれる。
『入学早々ごめんね! でもやってもらうのがここの掟だから! じゃあとりあえず、内容を伝えよう!』
武蔵は緊張で息を飲み込んだ。
いよいよだ。だいたい大方の予想はできているけど、どんな試験になるんだ……。
『君達にはこれから才能有りか無しを判定する殴り合いをしてもらいます!』
学園長はマイク越しで張り切りながら、明確に、確定的に、はっきりと宣言した。
入学初日からこの学園での生き残りが始まるのであった。
第参話目でした。
たぶんこの学園に私がいたら高い確率で終わってますね(笑)
疾風は女好きですが、私は可愛いものなら何でもイケます!
可愛いものはやっぱ可愛いですからね!