第参拾壱話 夜戦開始
この日に投稿する意味がある。
「ここにおられましたか、菊夜京様」
天守閣最上階。風柱が菊夜京を見つけ、声を掛ける。
菊夜京は遠くを見つめていた。三日月が天高く上り、優美に輝きを放つ。そして、一筋の風が走ると、菊夜京はこう言った。
「風柱、もう少しで客が参る。おもてなしの準備をしておけ」
「分かりました。ただちに」
風柱は命令を承ると、暴風を起こし、その場から去る。
三日月を見ながら、菊夜京は笑いかける。
「いよいよだ。我の幸福なる計画の始まりの時だ」
☆
「あの女によればもう少しらしいが、まだなのか」
暗闇の森の中、あずさはそう言った。
現在、赤姫の救出兼、奇襲作戦を実行中。小枝子によれば、このあたりに赤姫が居るとのことなのだが、全く見当たらない。赤姫どころか敵の本拠地と思われる物さえ見当たらないのだ。
「あずささん、本当に赤姫がこのあたりにいるんですか?」
武蔵が周りを探しながらあずさに聞いた。
「たぶん、だがな。あの女は、頭は馬鹿だが、情報だけは確かだ」
あずさはそう言うと、捜索に戻る。
「心配ですか?」
武蔵の背後に立っていた未来が声を掛ける。
「いや、そういうことじゃないが、不安で」
「大丈夫ですよ。小枝子様は信頼できるお方です。きっと見つかります」
未来が優しく語りかけた時だった。
「隊長っ!」
遠くの方から、あずさを呼ぶ部下の声が聞こえた。全員その場所へ向かう。
「隊長、、これを――」
部下はあずさに筒状の物を渡そうとした。が、あずさは受け取るのを拒み、部下に問う。
「貴様、誰だ?」
あずさにそう言われ、呆気にとられる部下。それを見ていた武蔵達も驚いていた。
「え、急にどうしたんですか? 隊ちょ――」
「とぼけても無駄だ。貴様、いったい誰だ?」
あずさはそう言い、刀を抜き、構えた。
「ちょ、刀はいくらなんでも……」
武蔵はそれを見ると、止めに入ろうとする。しかし、未来に自分が止められる。
「武蔵様、離れてください。危険です」
「……ははは。バレちゃ仕方ねえなぁっ!」
部下は突然、笑いながらそう言うと、体から風を起こし、姿を変えた。
「今さっき、菊夜京様からおびき寄せるよう命令されたんだが、こうも引っかかってくれるとは、なかなかの好都合」
部下だった女は、菊夜京に仕えるからくりだった。忍者服に身を包み、左手には本物の部下の死体を持っていた。
「いつから成りすましていた?」
「かなり前からだ。簡単に言えば、あの学園を出発する時とでも言っておくか」
からくりはそう言うと、高笑いを森に響かせる。
何、だと……。こいつ、そんなところから部隊に紛れていたのか。
武蔵と同様に、あずさは歯を嚙み締める。
「貴様、命を捧げろっ!」
「捧げるも何も、死んでやるよ、ここでなっ!」
からくりはそう言うと、先ほどあずさに渡そうとしていた筒状の物を体内に口から取り込む。
「やりましたよ、菊夜京様ぁっ! 任務完了でっすぅっ!」
からくりはそう叫ぶと、体を赤く発光させる。体からは蒸気がたちまち噴出される。
「全員、伏せろっ!」
あずさは全員に呼びかけた。
その直後、からくりは爆発した。
爆風と熱風が山の中を駆け抜け、からくりを構成していた部品が辺り一面に勢いよく飛び散った。
「全員、大丈夫……」
風が収まると、あずさは生存を求めようと後ろを振り返る。しかし、そこにあったのは、負傷した隊員たちの姿だった。
(これでは、任務が遂行できない……)
あずさは負傷した隊員たちのところへ行く。
「武蔵様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だけれど」
「そうですか。ウッ……」
ノイズ交じりの声を出し、未来はふらつきながら、倒れていく。
「未来っ!」
武蔵は未来の身体を抱える。そして、そこで気付いた。未来の背中に大量の部品が突き刺さっていることに。損傷部から火花が飛び散る。
「何で、こうなってまで、俺を……」
「決まっテいルジャありマセんか……」
「武蔵様が赤姫様をスクウのです。こコでシナセルワケニハ……」
未来はそう言うと、機能を停止した。
「自惚れくん、あれを見ろっ!」
疾風が慌てたように武蔵を呼ぶ。
武蔵は指された方を見る
「あ、あれは……」
目の前には、月の光を浴びて輝く金色の城がそびえていた。
「あれこそ敵の本陣……」
あずさが見上げながらそう漏らした。
「あの中に赤姫ちゃんが……」
「ああ。ついにこの時が来たんだ……」
武蔵は意気込みながらそう言った。
「ですけど、今の僕達じゃ体制不利ですよ。敵の本陣ですから、あっちの方が戦力多いだろうし……」
秦がそう言った時だった。
つばさがあずさのところへ行き、こう言った。
「うちがこの人達をできるだけ治すさかい、隊長さん達は赤姫ちゃんを」
「……できるのか?」
あずさは翼を見つめ、答えを待つ。
「大丈夫です。金創医選択者ですから」
つばさは持っていた盾の中から包帯などを見せつける。手は若干震えているが、その眼差しは本気だった。
「なら、頼んだ」
あずさは、つばさの眼差しを確認すると、残った隊員と武蔵達に呼びかけた。
「これより、残った者達で敵本陣へ攻めるっ! だが、敵もこちらの手をすでに読んでいる。気を引き締めていけっ!」
今宵、戦が幕を開ける。




