第参拾話 決戦前夜
「全員いるか?」
あずさが整備室に集合した人物達に確認した。そこには支尾小枝子、未来の他にも、疾風、秦、つばさの三人の生徒と、それぞれが従えるからくりがいた。
「武蔵さんが保健室で寝込んでいます」
秦があずさに報告する。
「そうか……。ま、あいつには予め言っておいてるからいいか。それでは始める」
あずさは、画面の横に立つと説明を始めた。
「今回、お前達に集まってもらったのは言うまでもない」
全員が息を呑む。
あずさは一呼吸置くと、全員に告げた。
「赤姫の場所が分かった」
それを聞いた全員は驚いた。まさか居場所が特定できるとは思っていなかったからだ。
「で、どこにいるの? あ・ず・さ・ちゃん?」
「くっ」
小枝子があずさにそう聞いた瞬間、小枝子はあずさに頭蓋骨固めをくらう。
「何するの~!」
「馴れ馴れしいぞ、お前! 誰のせいでこうなったと思っている!」
「それは私だけど~!」
「だいたいお前が最初に発信器を赤姫に着けていたのを忘れていなければここまで遅れることはなかったんだ! ちゃんと反省しているのか?」
その状況を見ている疾風達の目は、呆れかえっていた。
やがて、それを終えると、あずさは説明を再開する。
「すまん。少し邪魔が入った」
「ただの不可抗力だよ……」
解放された小枝子がぼそぼそと言うと、少し強めの蹴りを入れられる。
「赤姫の場所はここだと思われる」
あずさは操作盤を使い、場所を指定する。
「ここに赤姫ちゃんが……」
「木っばかだな」
「山ですからね」
その言葉に反応し、あずさは説明を続けた。
「その通り。周りは木しかない。このあたりに敵の隠れ家があると思われる。木の中か、地面の中かしらないがな」
画面の前に立ち、あずさは宣言した。
「今回の作戦は、赤姫を救出することだ。敵を根絶することではない。したがって、今回は奇襲をかけ、手早く救出したのち逃げを打つことにする、ん?」
あずさが言い終わると突然拍手が聞こえてきた。
「何かホントの作戦みたいだな」
「ですね」
「そうやね」
疾風達三人は感心したのか拍手をしている。
その様子を見てあずさはため息を吐く。
「お前等……そんなんじゃ戦で死ぬぞ? 気をしっかり持て」
やがて拍手は終わり、あずさが続けて言う。
「ちなみに。今回の作戦は奇襲作戦だ。夜に出発する。したがって、今日はここで過ごせ」
それを聞いて、三人はそれぞれの思いを打ち明ける。
「マジか……女の子とイチャイチャできないじゃないか……」
「夜ですか。なんだかワクワクしますね」
「今から寝ないといけないやん! それから準備もしないと!」
この様子を見てあずさはまた溜息をついた。
「不安ですか?」
窓の外を見る武蔵に、未来は語りかける。
「いや。むしろ、早く行いたいと思っている」
「そうですか。なら、安心です」
未来はくないを磨きながらそう言った。
「なあ、未来」
「なんでしょうか?」
「敵の目的って何なんだろうな?」
武蔵のその質問に未来は言葉を詰まらせる。
「さあ。私にも分からないので答えられません」
「だよなあ」
武蔵は窓の外を見ながら思いふける。
今日、赤姫を取り戻せたらそれはそれでいいんだろう。けど、敵の目的は一体……?それに、あの黒姫っていうからくり、どことなく赤姫に似ていたし……。
「ぎゃっ!」
武蔵の首元にいきなり冷たい何かが押し当てられる。
「そんなに驚くなよ、自惚れくん」
「いきなりだったからしょうがないだろ! それよりなんだよ。何か用か?」
「これでも食おうぜ」
疾風は手に持った冷凍蜜柑を武蔵に見せる。網から出し、一個を武蔵の目に押し当てる(すぐにやめたが)。
「しかし、なぜ冷凍蜜柑なんだ?」
「ああ。あのあずさっていう人から貰った。何でも、戦の前にはこれを食っておくと殺る気百倍になれるらしい」
「……別の意味でか」
茶番をしながらも、二人は並んで冷凍蜜柑を食べ始める。すると、疾風から武蔵にこんなことを聞かれてきた。
「また赤姫の事でも想ってたのか?」
「……ああ。戦前だしな」
「心配しなくても、大丈夫だって。自惚れくんのからくりだろ」
「……心配とかじゃないけど。何だろうな」
武蔵は言葉に困る。
「言いにくい事なのか?」
疾風がそう聞くと、武蔵は少し言いずらそうにこう言った。
「……俺のこと覚えてるかな、って思ったりしてな」
それを聞くと、疾風は「ぷっ」と、笑いをこぼす。
「何だよ、いきなり」
「なんか女子みたいだな、自惚れくんって」
「じょ、女子って、お前なぁ……」
武蔵がそう言うと、疾風はこれまでにないほど真剣な顔になりこう言う。
「武蔵、自信を持て。赤姫を救うのは、オレでも、秦でも、つばさちゃんでも、誰でもない。お前だ。だから、自信を持て」
疾風にそう言われると、心を入れ替えたのか、武蔵は宣言する。
「ああ。俺が、赤姫を必ず救う。救ってみせる!」
真っすぐとした言葉を発射し、そう決意したのだった。
「その意気だ。それこそ、我らが自惚れくんだぜ!」
二人は戦を前にして、決意を固めたのだった。崩れることなどない、しっかりとした心を宿して。
21時頃に投稿したの初めてかもしれない。




