第弐拾玖話 悪魔誕生
こつこつと、履物の音が階段に響く。菊夜京は背後には風柱を付けていた。
牢屋の前まで来ると、菊夜京は中を確認する。
「この者達か。任務を遂行できなかったというのは」
背後についていた風柱は鎖剣を構える。
「菊夜京様ぁ……ワタ、、、、シ、、、、」
「き、、、、くう、、、、や、、、、」
そこには、先ほどの戦闘で大破してしまった梨瓜と穴檎がいた。声はノイズ交じり、損傷部からは火花と共に閃光が走っている。
「貴様らっ! 菊夜京様の名を着やすく呼ぶでないっ!」
風柱は鎖剣を振り上げる。が、
「よせ、風柱」
「き、菊夜京様。何を?」
菊夜京が風柱の腕を掴む。風柱はそれに驚き、鎖剣を地面に落とす。
「この者達の失敗は、元はと言えば我が無理に行かせたが故。責任は我にある」
風柱は感服し、身を引く。その表情は何故か幸福に近いものを感じていた。
菊夜京は静かに右腕をかざす。すると、右腕からまばゆい光が満ちてきた。
「なんと美しい……」
「今一度、我に力を貸してくれ」
菊夜京がそう願うと、光は梨瓜と穴檎をみるみるうちに包み込み、そして、
「あぁっ!」
「うぅ……」
二体は完全に修復されたのだった。二体の裸同然の姿を見て、菊夜京は着物を渡す。
「お前達は、しばらくこれを着て休んでいるといい。消費した力が戻りやすくなるはずだ」
「有り難き幸せですことよ、菊の坊や」
「わーい、着物だ~。(ビリっ)。あぁ……」
「貴様ら……」
風柱はそんな二体の様子を見てイライラし、強風を吹かせていた。
「さて、それでは本命を見に行くとしよう」
「菊夜京様、本命と言うと?」
「決まっているだろ? これだ」
菊夜京は牢屋の前まで行くと風柱に紹介をするように見せた。
風柱は驚き、戸惑った。その凶悪さゆえに。こちらをその赤く光る眼光で睨みつけてくる姿、まるで悪魔のようだ。
「黒姫を知っているか?」
「はい、先日監禁しましたが?」
「このからくりはその姉妹、つまり妹に当たる赤姫だ」
「赤姫……まるで黒姫とは対になっているような名前ですね」
風柱がそう言った途端に、赤姫は思いっきり突進してくる。体が鉄格子にぶつかるが、それでも近づこうとする赤姫。標的は、完全に風柱に向かっている。
「き、菊夜京様!」
「風柱、お前が我の事を愛しているに、赤姫も我を愛しているのだ」
「愛しているだなんて、そんな……」
風柱は少々照れる。
「赤姫よ、今こそ、その力を我に」
菊夜京は赤姫に右腕をかざすと、赤姫は牢屋を突破する。
「な、菊夜京様っ!」
風柱が菊夜京を守ろうと動こうとした時、赤姫に首を掴まれていた。
「赤姫、風柱から離れろ」
菊夜京に言われると、赤姫は首を掴むのを止め、くるりと菊夜京の方を向く。
「はい! 分かりました、ご主人様!」
元気よく返事をした。
「いやあぁぁぁっ! 赤姫えぇぇぇっ! 駄目よぉぉぉっ!」
となりの牢屋から悲痛な声が漏れる。
「風柱、お前はこのまま隣の牢屋の監視をしてくれ」
「分かりました、菊夜京様」
風柱はすたすたと隣の牢屋へ行く。
「では、赤姫行こうか」
「はい! ご主人様!」
赤姫は菊夜京と共にどこかへ行ってしまった。
「赤姫ぇ! 行っちゃ駄目っ! そいつは、そいつとだけは――」
「はあっ!」
風柱が強力な蹴りを黒姫の顔面に入れる。
「きゃあぁぁぁっ!」
「貴様ごときが、馴れ馴れしく菊夜京様をそいつ呼ばわりするなっ!」
「風、柱ぁ……あなた、は……あいつに、操られている……」
「貴様……そのような戯言を!」
黒姫の身体に、風柱の鎖剣の強力な一撃が入る。
「あか……ひ、め……」
黒姫は機能を停止した。




