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戦国バスターズ  作者: 石清水斬撃丸
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第弐拾漆話 農業バスターズ 前編

 赤姫が連れ去られて二週間。武蔵はようやく口を通しての食事ができるようになり、少しだけだが、喋ることができるようになった。秦と疾風の怪我はほとんど完治してきており、授業にも出られるようになった。つばさに関しては、完全に治った。からくり達も、完全修理された。いつでも主人を守れるようになった。

 しかし、それでも、拘束だけはいまだに解かれなかった。それほど、四人が犯した罪は深かった。

 そして、今はその罪を償うという事で、ちょっとした作業をさせられていた。

「つばさ殿、大丈夫でござるか?」

 鬼兜は、木陰で休むつばさを心配した。

「平気、だよ?ただ、ちょっと、疲れたかな?」

 つばさは息を切らして、そう答えた。頬に一滴の汗が流れ落ちる。

「つばさちゃん、休憩はなるべく早く切り上げてくれよ。そうじゃないとオレ達……」

「そうですよ、つばささん。でないと……」

 手に鍬を、頭にかぶりものをした疾風と秦が、何かを怖がるように、不安そうにつばさに言った。

 つばさは、納得の苦笑いをしながら答えた。

「そうだったね。とりあえず、そろそろわたしも再開しようかな?」

「コラァっ!アンタ達っ!何、手休めてるのよっ!」

 つばさが作業を再開しようとした、その時、やけにカマ臭い口調で怒鳴られた。

 声がした方向を一応確認してみると、鎌を装備したカマ臭い平吉が、そこにはいた。

「げっ!琵琶之秦っ!つばさちゃんっ!とりあえず、ここはっ!」

「そうですねっ!」

「そうやねっ!」

 三人は瞬時に持ち場に突き、作業を始めた。

「あら~?おかしいわね~?さっきまで休んでいるように見えたんだけど、アタイの気のせいだったかしら~?」

 平吉はつばさの顎をつかみ、じっと見る。

 つばさは、必死に視線を逸らそうとするが、逸らせば逸らすほど平吉が視線を向けてくるので、気絶寸前になっていた。一本に結われた髪が恐ろしさのあまり細かく揺れる。

 危機迫るつばさを見てか、疾風は助け舟を出す。

「へ、平吉さ~ん。そういえば、今植えているこの種って、何なんですか?」

 男から呼ばれたためか、平吉はやけにやる気満々で答える。

「興味があるなんて、アンタ中々イイ子ね~❤いいわよ、答えてあげる~❤」

 疾風の背中に「ゾクゾク」、とした感覚が流れ込む。いや、疾風だけではないだろう。今この場にいる全員の背中に、それは流れた。

 疾風は恐ろしさのあまり平吉に面と向かって言ってしまった。

「あの、顔が近いです……。あと、キモい」

「何か言った?」

「言ってないです」

 いきなり男に戻った平吉の怖さに、恐ろしさに怯えて、即返事をする疾風。幸い、「キモい」という言葉は聞こえてないらしい(聞こえていないふりかもしれないが)。

「その種は、この夏に収穫しようと思っている胡瓜よ~❤この辺の気候と相性が良いから、随分前から育てているのよ~❤」

「へ、へぇ。すごいですね……」

 平吉が種の説明をするが、今の疾風には入っていかなかった。それもそのはず。この話が終わったら、身体に何をされるのかが気になって仕方がなかったのだ。勿論、自ら望んではいない。

「それに、胡瓜だと、夜の楽しみにもなるしね~❤」

「「「(やめてぇぇぇっ!)」」」

 平吉がそう言うと共に、三人同時に心の中で悲鳴を上げる。夜の楽しみとはいったい……。それをしるのは平吉ただ一人。これはもう、ただの平吉の闇だった。心の闇だった。

「じゃ、とりあえず頑張ってね~❤」

 平吉が去ると、三人は糸でつられていたような体を、地面におろした。肩の荷が下りたといっても過言ではない。

「はあ……。心臓に悪すぎるよ……」

 つばさは胸を抑えながらそう言った。

「同じく……」

「いや、二人はまだそのくらいで済んでいるだろうがな、オレはもうトラウマだ……」

「何ですか、その言葉?」

「支尾先生が使ってた。何でも、心が傷つくとできるらしい」

 三人が、精神的疲労を回復していた時、一体のからくりが地面に突っ込んでくる。

「音無蜂じゃないですか。どうですか、羽の調子は?」

 秦は、地面に右腕が突き刺さった音無蜂にそう言った。

「修理してもらって、早くはなったけど……。早すぎて、体が追い付かないわ」

「では、調整してもらいますか。鈍足に」

「アンタ、喧嘩売ってる?そんなことしてもらわないわよ。根性で追い付いてみせるわ」

 右腕を引っこ抜くと、音無蜂はまたどこかに音速のごとく飛び立ってしまう。

「音ちゃん、元に戻ってよかったね」

「……何ですか、そのあだ名?」

「え?言ってなかったっけ?音ちゃん、名前が言いづらいから、付けたんだ。それに、こっちの方が可愛いし」

「……音無蜂、可愛いですか?」

 秦がつばさにそう聞いた時だった。どこからともなく、先が鋭く尖った枝が、秦の横を通る。枝は、耕した土の上に突き刺さる。

「音ちゃん、怒っちゃったね」

「そうですね……。口が滑りました」

「つばさちゃん、ぜひオレのからくりにもあだ名をっ!」

「それより、早く作業始めようか?何だか日焼けしてきたし」

「そうですね」

「何だかんだ、前々から気付いてたけど、オレの事嫌いだよね?それと、琵琶之秦。お前も、何だかんだで協力してるよな?オレ分かってるからな!」

 疾風の訴えも虚しく、作業が再開される。が、つばさが異変に気付く。

「ねえ。こんなにわたし達耕したっけ」

「何言ってるんですか?さっきやってたじゃありませんか。……怯えながらですけど」

「そうだけど……。まあ、いっか。鬼兜、始めるよ。鬼兜?」

 つばさは鬼兜に呼び掛ける。しかし、鬼兜に返事はない。動きもしない。何があったのだろうか。気になって、その強面の鬼面を軽く叩いてみる。

「大丈夫?どこか具合でも悪いの?作業するよ、鬼兜?」

「……大丈夫でござる。心配しなくても大丈夫でござるよ、つばさ殿。ただ……」

 いきなり喋り出した鬼兜に、つばさは「ビクっ」とする。その様子を見て、疾風は萌えていたが、作業を手伝っていた紅桜にしばかれていた。

「ただ?」

 つばさは心配そうに鬼兜の顔を見上げ、見つめる。

「……あまりの恐ろしさに、腰が抜けて動けないんでござる」

 つばさは「そういうことか」、と言うように納得すると、熱中症にならないよう、謝りながら鬼兜に水を掛ける。掛け終わると、作業を開始し始めた。

 土の感触に違和感を感じながらも、つばさは種を植え始める。しかし、この時、誰も気づいていなかった。地面が少しずつ沈みつつあることに。


「ふぅ~。やっと半分」

 額にかいた汗を拭うと、つばさは体を伸ばした。

 つばさが呑気そうにそうしていると、突っ立っていた鬼兜が何かに気付く。

「つばさ殿っ!髪に虫がっ!」

「えっ!最悪っ!何が止まって?」

 つばさが恐る恐る聞くと、鬼兜はただただ静かに答えた。

(あり)でござる」

「何だ蟻か。怖がって損した」

 つばさは「ホッ」とし、溜息をつく。

 しかし、鬼兜はまだ気になることがあるらしく、つばさに聞く。

「それと、つばさ殿。何で、つばさ殿のところだけ沈んでいくんでござるか?」

「え?」

 鬼兜に指摘され、足元を確認してみた瞬間、

「きゃっ!」

「つばさ殿っ!」

 「ドサっ」、という音を立てながらつばさは地面に吸い込まれるように落ちていった。

 鬼兜は咄嗟の判断で、つばさを助けようとしたが、何者かに強く背中を蹴られる。その拍子に、つばさ同様、地面に落ちていった。

「ごほっ!ごほっ!」

「ちょっと、何で鬼兜まで、えほっ!えほっ!」

「「つばささんっ!(つばさちゃんっ!)」」

 少し距離を置いたところで作業をしていた疾風と秦が、今の事態を見てこちらに走って来る。

穴檎(あなごん)、出てらっしゃいっ!」

 謎の女性の声が聞こえると、地面の中から、おそらくからくりと思われる男性が勢いよく、土を振り撒きながら出てくる。

「何だ、こいつは……」

「なっ……」

 疾風と秦は思わず驚愕の声を上げる。何が驚嘆か。それは容姿だった。丸々と太った坊主頭のからくりが、黒き褌一丁、しかも怪しげな仮面、外国ではガスマスクと言われる物をしていたのだから。一言で表現してみせれば、露出狂だ。

「だれだ、おまえ?ぼくは、()()に、よばれて、きたのに……」

穴檎(あなごん)、そこで何をしてるのぉ?」

 穴檎(あなごん)。そう呼ばれるからくりは、後ろで網に入っているつばさと鬼兜を担いでいる女性を見る。その女性の容姿もまた大胆且つ刺激的なものだった。髪は後ろでまとめ上げ、項が色っぽく丸見え。しかも、服装ときたら、黒のさらし一枚と、男性と同じく、黒き褌一丁という姿だったのだ。

 その姿を見た途端、疾風の鼻から血が噴き出し始めた。溶岩が「ぐつぐつ」、と燃え滾るように。

()()!ぼく、さみしかったよぉ」

 穴檎は、()()と呼ばれるその人物に走っていくと、寂しかったのか、思いっきり抱き付く。その大きな胸に、「コロンコロン」とした顔を埋める。まるで、幼い子供のようだった。

「うらっやましい……」

「疾風さん、落ち着いてください。あの人たちは敵です」

 その光景を見て、疾風が先に逝きそうになっていた。鼻血が良い感じに、蛇口をひねって出てくる水のようになっていた。

「そう、心細かったのねぇ。もう大丈夫よぉ」

 梨瓜は、穴檎の頭を優しく撫でる。まるで母親のように。

 その時、疾風はと言うと、

「オレ、も、仲間に……」

「騙されないでください。あの人たちはどう見ても敵です」

 疾風の鼻血は勢いを増していた。蛇口をさらに捻った時に出てくる水のような勢い。手を出したら、周囲に勢いよく飛び散るだろう。

「あらぁ?もしかして、この子たちの仲間の坊やかしらぁ?」

 梨瓜にそう聞かれた時には、疾風は多量出血して幸せそうに眠りについていた。

「ちょっとっ!こんなときに、寝ないでよっ!」

「つばさ殿っ!あまり暴れないでくれでござるっ!狭いところでこれ以上はっ!」

 狭苦しい網の中で、つばさと鬼兜が抵抗に出る。しかし、無意味すぎる抵抗だった。網は破れることも、千切れることも無かった。それ以前に、しっかりと持たれていたため、抵抗と言えるほどでもなかったのだった。

「この坊や達の反応を見る限り、坊や達もこの坊や達の仲間なんだろう?」

 梨瓜にそう聞かれると、秦は警戒しながら、慎重に答えた。

「何をするつもりなんですか?赤姫さんのことなら……」

「梨瓜。こいつ、なんで、しってるの?」

 秦の口から出た言葉に、梨瓜にしがみ付いていた穴檎が反応をする。それを見て、梨瓜は小馬鹿にしたような笑いをすると、全員に告げた。


「まさかとは思っていたけど、この坊や達が、あの不良品の仲間だったなんてね。警戒して損したわ」


 その言葉が許せなかったのか、秦が隼丸を勢いよく飛ばす。しかし、梨瓜の美しく、誘うような回し蹴りに、いとも簡単に弾き飛ばしてしまう。

「そんな攻撃じゃ、菊夜京様に仕えるワタシ達、最狂(さいきょう)のからくりには掠り傷一つ付けられないわよ。小さな坊や達」

「最狂だと……?何ですか、それ?」

 秦にそう聞かれると、梨瓜は呆気にとられる。まさか、そこを聞かれるとは敵ながら思っていなかったようだ。

「ぼくの、梨瓜を、こまらせるなぁ!」

 しかし、そんな梨瓜の様子を見て、穴檎がドリルのように回転しながら、土を巻き上げながら、鋭く尖った両手を向けて秦に突っ込んできた。

「なっ!」

「秦くんっ!」

 つばさの叫び声が、戦場(いくさば)と化した畑に響いた。


久しぶりに、あとがきちゃんと書きます。

今回は、菊夜京様から新たな刺客が送られてまいりました。その名も、穴檎と梨瓜!菊夜京様に仕えているからくりは狂った人たちが多いので、今回も狂わせました(笑)。かわいいお子ちゃま言葉を発してくるおっさんのからくりである穴檎と、妖艶で、艶っぽくて、エロくて、エロくて、エロすぎる梨瓜様!どちらもお気に入りです!ああ、私の中の戦バスキャラランキングがまた構築されていく……っ!あ、最狂集団はあともう少し出てくる予定です。一話限りも出てくるかな?ただ、幹部クラスなので、退場回はまだ先ですね。戦バス自体が、まだスローペースなので……。


ここまで長文あとがき読んでくださいまして、ありがとうございますっ! よろしければ、評価・感想の方をしてくれると、私、岩城ぱれす、とても感激ですっ!ぜひお願いしますっ(梨瓜様を想いながら)!

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