第弐拾陸分伍話 金城
霧が深い山の中。男性のからくりが二体、何かを守るように立っていた。
「誰だ?」
一体が突然、何者かの気配を感じ取ったのか反応をした。すると、霧の中からゆったりと黒い少女が姿を現した。黒姫だ。
「任務を完了してきましたの。通していただける?」
黒姫がそう言うと、二体は道を開けるかのように身を引いた。
黒姫はゆったりと、赤姫を見せつけるかのように二体の横を通って行った。
「ふふふっ。今頃、赤姫の主様はどうなっておりますでしょう。きっと、もう、すでに……。うふ、うふふふっ」
黒姫は、背負っている赤姫に向かって語りかけるように、黒姫は呟いた。
頬が少し赤く染まり、目も少し垂れ気味である。不幸を喜んでいる、としか思えない表情だ。
しばらく歩くと、黒姫は赤姫に言い聞かせる。
「ほら、赤姫。今日から、ここがアナタのお家ですのよ。綺麗でしょう?」
目の前には、高らかにそびえたつ黄金の天守閣。月と夜の闇に照らされ、怪しさがより一層引き立つ。
黒姫は、石垣に隠された仕掛け、つまり入口へと続く石を押す。すると、最上階の戸が開き、そこから、長い長い階段が地上へ降りた。
しかし赤姫は、いちいち階段を使うのが面倒だったのか、最初の段で一気に城内へ入っていった。要するに、飛び上がっていた。風のように。
城内に入ると、あとはひたすら地下へ下りていくだけだった。ここでも、階段がめんどくさかったのか、一気に地下まで落ちていった。そして、華麗な着地を決めると、主人が待つ戸を開けた。
「黒姫、只今帰還しました」
「うむ。任務の方はどうだったか?」
部屋の奥で、この城の主である、菊夜京が黒姫に問う。
黒姫は「にこっ」と笑う。
「この通りです!」
そして、背負っていた赤姫を見せる。その時、どこからともなく一本の鎖剣が、黒姫に向けて放たれる。黒姫は風のように舞い、回避した。
「何の用です?風柱様?」
黒姫がそう言うと、どこからともなく強風が起こり、小さな竜巻が発生する。そして、竜巻から女性のからくりが姿を現した。
「ふんっ。菊夜京様に対するキサマの態度が許せなかったのでな。ちょっとした調教だ」
「まあ」というように、あどけない表情をする黒姫。その、態度に腹を立てたのか、風柱は鎖剣を放とうとした。が、その腕を菊夜京に止められる。
「風柱。そこまでにしておけ」
「ですが、菊夜京様。黒姫は、菊夜京様にご無礼を」
「まあ、落ち着け。埃が舞う」
風柱は、今の状況に気付く。興奮しすぎて、周囲には強風が起こっていた。しかし、それ以前に、風柱はある事に気付いてしまったのだ。
「ここの清掃を担当した者は誰だ?」
「私でございますが……」
風柱の質問に、小さな少女のからくりが申し出る。そのからくりを見て、風柱の顔色が大きく変わった。
「キサマぁっ!」
「きゃっ!」
乱暴に少女のからくりを首から掴むと、誰もいない床に叩き付ける。たたきつけられた衝撃で、少女のからくりから、火花が飛び散る。
「よくも菊夜京様に、きたねぇ埃、触らせてくれたなぁっ!」
風柱は人格が変わったかのように、激しく鎖剣を少女のからくりに切りつける。服はどんどん破け、内部品ごと体がどんどん抉られる。
「やめて、くださ、いっ!それ以上、はっ!」
「黙れぇっ!菊夜京様に、そんな言葉聞かせてんじゃねぇっ!」
風柱の暴力的行動は、どんどん勢い増しながら、酷くなっていく。体の部分はすでに無くなり、足と腕は孤立した状態になっていた。周りには、無残に破壊された部品が飛び散っている。
「もう、ご勘、弁、をぅ」
「だから喋ってんじゃねえっ!キサマ如きが、菊夜京様に――」
「もうやめておけ、風柱」
「いえ。これ以上の御無礼を、菊夜京様に晒すのは――」
「いいから、やめてやれ。城が壊れる」
風柱は、「はっ」と、我を取り戻す。周りは残酷すぎるくらい部品が散らばっていた。少女のからくりはそこにはもう、顔一つもなかった。それ以外のからくりも、大分破損を受けていた。例を上げるとすれば、心臓部と消化機能部が抉り出されるほどだ。
「ワタシとしたことが……。戦場ではない場面で、仲間を殺してしまった……」
風柱の鎖剣を持っている手が震える。
「だが、風柱。お主には仲間という意識はないのだろう?」
落ち込んでいた風柱に、菊夜京が問い掛ける。その問いに対して、風柱は綺麗すぎるくらいの笑顔で答えた。
「はい!全くその通りでございます!ワタシの中では、菊夜京様以外、眼中にありませんから!」
その答えを聞くと、菊夜京は「お主らしい希望だ」と呟いた。
「黒姫。お主は無事なのだろう」
菊夜京がそう呼び掛けると、風と共に黒姫が姿を現す。現した場所は、菊夜京の背後だった。
「ワタクシはとっくの前から避難しております。菊夜京様の胸の中に」
黒姫のその一言に、殺したいという想いが、ふんだんに入った殺気が飛ばされる。しかし、黒姫は依然、柔らかい笑みを崩さなかった。
「菊夜京様がお望み為された、妹の赤姫です」
赤姫は菊夜京の前に出て、赤姫を差し出す。
「うむ、ご苦労であった」
菊夜京は、跪いている黒姫の頭を、優しく、しかし、どこか悲しく撫でた。すると、さっきまで落ち着いていた黒姫の様子が急変した。
「何故、ワタクシはここに……。あの時、あの日、成功したずなのに、どうして……」
黒姫は錯乱した状態で、周りを見回していると、見るも無残な赤姫の姿が目に映る。
「赤姫っ!何で、ここに?それより、体は?壊れてるの?今すぐ、ワタクシがっ!」
黒姫は膝を引きずりながら、赤姫にすり寄る。その様子を見て、風柱は驚く。
「菊夜京様、これは一体……?」
「まだ、我が術に掛かりきってないらしい」
「術?菊夜京様、話が見えていないのですが……」
風柱が困り顔で菊夜京に聞く。すると、菊夜京は風柱に命令をした。
「いや、何でもない。風柱よ、我が望みを叶えよ」
「はっ!お望みのままにっ!」
「黒姫を、監禁せよ」
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