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戦国バスターズ  作者: 石清水斬撃丸
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第弐拾伍話 闇の風

 赤姫を連れて、小枝子とあずさは外に出ていた。周りには強女隊(なでしこたい)の部下達が警戒をしている。いつ赤姫が攫われるか分からないからだ。

「なぜ外にこいつを持ち出そうと思ったんだ?」

「あの部屋は、私と私の作ったからくり以外は入れない。もう安全地帯なんて無いのよ」

 「そういうもんか」と、言うように、あずさはそっぽを向いた。

「小枝子様。整備室の立ち入りを不可能にして参りました」

「そう。ご苦労だったわね、未来」

 未来が任務を終えて、小枝子の元に戻ってくる。

 その時だった。迂闊だった。小枝子が少し赤姫から離れている時だった。連れ去られた。あっという間に。まるで風に乗るかのように、連れ去られた。

「貴様っ!ここの生徒かっ!」

 あずさに指摘されると、その生徒は「ピタッ」と止まった。しかし、その生徒は、小枝子にとって予想外、斜め上だったのだ。


「む、武蔵くんっ!?」


 赤姫を連れ去ろうとしていたのは、なんと武蔵だった。点滴台は無い。包帯も巻かれていない。あり得ない事に、怪我は、完全に、何の形跡もなく、完治していた。

「貴様っ!そのからくりを今すぐ渡せっ!」

「嫌です!」

「貴様……っ!」

 あずさが、渡すように呼びかけるも、武蔵は拒んだ。あずさは、刀を抜く態勢をとった。

「強女隊に告げるっ!あの男を、何としてでも捕えろっ!」

 そして、部下達に命令を出した。その瞬間、武蔵は風のような速さで赤姫を連れ去ってしまった。

「一瞬ですって……」

「一体どこに……?」

「怯むなっ!まだこの辺りにいるはずだっ!隈なく探せっ!」

 あずさは、部下達に引き続き命令を告げると、小枝子の横を通りながらこう答える。

「もう、こちらの好きにやらせてもらう」

「ちょ、あず――」

「口答えするなら、貴様にはここで死んでもらう。元はと言えば、全て貴様が原因だからな」

 あずさにそう言われると、悔しかったのか、小枝子は唇をかんだ。

 そして、武蔵捕獲作戦が開始されたのだ。


 戦命学園の周りは、南は山、北はひたすら田んぼで囲まれていた。はっきりしすぎるくらい地形が決まっていた。

 そういうわけで、武蔵は比較的隠れやすい山へと身を移していた。

 すごい……全然、体が痛くない。足も軽いし、怪我をする前より倍以上の力が出せている気がする。あの子は一体、何者なんだ? 武士のような、死忍のような、金創医のような、全ての職業を掛け合わせたみたいな子だ。それと、なぜあの子は俺に協力をしてくれるんだ? まずそこが分からない。初対面同士のはずなのに。一体、なぜ?

 武蔵が、そう考えながら風のように走っていると、隣にはいつの間にか、あの少女がいた。

「赤姫は救い出せましたか?」

「ああ、この通り」

 武蔵は、背中に背負った赤姫を、走りながら少女にみせる。

「よくできました」

 少女は赤姫を確認すると、ウインクをしながらそう言った。

「そっちは?どうだった?」

「何人か絡まれましたが、追い払いました。かわいそうですが」

 少女はそう言うと、目的地に着いたのか走るのをやめた。

 はあ……はあ……。流石に疲れ――ない? 何でだ? あれだけ走ったのに、全然疲れないぞ。

「ワタクシの注射は、どんな人にも必ず効きますから」

 少女は誇らしげに、胸を張りながら、嬉しそうに言った。

 その様子を見て、武蔵に久しぶりの笑みがこぼれる。

「どうしましたか?」

「いや、その……。なんか、思い出しちゃってな。赤姫もそんな風に笑ってたなって」

 少女はそれを知ると、「ふふふっ」と笑い出す。それに釣られて武蔵も笑い出す。

 こういうの、最近忘れてたけど、やっぱり良いな。共感出来ているというか、同じことで笑い合えるっていう喜び。今、少しだけ、


「幸せだ」


 武蔵は心だけにとどめておこうと思っていたのだが、つい口に出してしまう。その瞬間、口から、鼻から、耳から、目から血が勢いよく噴き出した。噴火のしたかのように噴き出した。そして、そのまま、力なく、体から倒れた。

「ワタクシの注射は、どんな人にも効くといったでしょう。幸せを味わうことによって、そのまま一気に不幸を与えてあげましてよ。死という不幸を」

 少女はそう言うと、赤姫を腕の中に、大事そうに持ち抱える。

「やっと会いまして、赤姫。もうこんなところで()き使われませんからね」

 少女は顔面血だらけの武蔵を見ると、左足を勢いよく上げて、

「では、ごきげんよう。赤姫の主様」

 そのまま勢いよく蹴り飛ばした。

 武蔵は為す術ないまま、崖の下まで落ちていった。、そう、少女の目的地は崖だったのだ。邪魔な武蔵を消すために。


「くっ。どこまで行きやがった」

 あずさは武蔵が一向に見つからないのに、苛立ちを感じ始めていた。

「あのガキのせいで、部下たちが……。おいっ!今すぐ出てこいっ!さもないと、こちらから斬るぞっ!」

「隊長発見しました!」

 あずさがそう吼えた瞬間、部下の一人が武蔵を発見した報告をした。

 あずさはすぐに、報告のあった部下の元へ行く。

「もう逃げられはしないぞっ!早くからくりを……ん?」

 あずさは、その光景に目を疑った。部下に一回、二回呼びかけをされるも、それが聞こえないくらい衝撃を受けた。

「何だこれは……」

「分かりません……っ。ですが……っ」

 今にも泣きだしそうな部下の声、拳を震わせるあずさの目の前には、顔面血だらけ、体中傷口だらけの武蔵がいたのだから。

「隊長っ!隊長っ!」

 何度も呼びかけられて、あずさは気を取り戻す。頬に一筋の汗が流れ落ちる。

「た、対象を確保っ!至急、対象を手術室に運べっ!」

 あずさがそう命令すると、部下たちは若干怯えながらも、武蔵を急いで運んだ。

「(何故、あいつは、ここまで手間をかかせるんだ……くそっ!手など貸したくないというのに……っ!)」


 黒い少女。

 赤姫。

 連れ去られた。

 俺は騙され。

 そして……。

 今は……。

 何を……?

 死、なのか……?

「はっ……っ!」

 武蔵が目覚めると、そこには何も無かった。いや、無いというよりも、何も映し出されていなかった。ただただ闇。黒い闇の中。しかし、音だけは聞こえている。微かに隣で、心拍数を測るモニタの音が聞こえる。あとは、自分の息。喋ろうとしたが、どういうわけかのどが非常に痛い。風邪なんかと比にならないくらい痛い。それでも、なんとか声を出そうとした。

「あ、あぁ……」

 掠れ声が虚しく部屋に消えていく。武蔵の耳には全く届いていなかった。

「ようやく起きたか」

 武蔵は濁ったような声を聞き、頭を動かすも、その人物を確認することはできない。

「おっと、すまなかった。こうしなければ聞こえなかったか」

 そして、いきなり耳の聞こえがよくなった。まるで鼓膜が形成されたかのように。

「お前の耳には、ちょっとした機械をつけている」

 「機械」という言葉に反応し、武蔵は少し怖くなっのか、頭を機敏に動かす。

 何が起きているんだ! 俺の身体に何をしたというんだ!

「すまない。私の質問に答えてくれれば、外してもらうよう、あのからくり女に言っておく。だから、そう騒ぐな」

 そう言われると、武蔵は落ち着きを取り戻し、頭を静止した。


「では、質問させてもらおうか。何故、あの暗殺者に手を貸した?答えろ、火花武蔵っ!」


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