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戦国バスターズ  作者: 石清水斬撃丸
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第弐拾肆話 漆黒の風

 からくり整備室の地下室。そこは多くのからくり達の修理場となっていた。そして、今、一体のからくりが、からくりの母と呼ばれる人物によって、緊急修理を受けていた。

「記憶メモリの損傷が酷いわね。外面からは分からないぐらいに」

 小枝子は画面を見ながら、そう呟いた。

 外面からは分からない。すなわち、内側から、非常に恐ろしいぐらいに、やられていた。

「しかし、どうやったら、ここまで壊す事が出来るのかしら。外からじゃ、攻撃はできないはず……」

 小枝子は腕を組み、しばしば思考を回転させる。

「あぁー分からない!何が原因なのか分からない!」

 小枝子はあきらめがちに嘆くと、肩を落とす。

 その時だった。戸が開き、ある女性が入ってきた。

「修理は進んでいるか?それとも……お手上げのようだな」

 あずさは小枝子の様子を見ると、期待はずれだったかのように言った。

「はあ……。あれ?何であずさちゃんがここにいるの?」

 小枝子の頭に拳が突き出される。

「いてっ!ちょっと!何でいきなり殴るわけ!?」

 小枝子は打たれた箇所を撫でながら言った。

「ちゃん付けは止めろと、あれほど言ったのを覚えてないのか」

「いや、でも……あずさちゃんも一応女なんだから」

 再び拳が突き出される。さすがに隊長からの拳は効くらしく、小枝子は涙目になっていた。

「何でまた殴るわけ!?」

「少し、私の中の撫子魂がいらっとした」

 あずさは腕を組むと、本題に切りだした。

「それで、どうなんだ?そいつの修理は」

 あずさは横目でそう言った。

 横目で捉えていたのは、強女隊と小枝子の手によって負傷した赤姫だった。未だに腕と脚は修理されていない。顔も内側が露わになっている。只今、修理が完了している部分は無い。その理由は単純。

「腕とか足とかは修理すれば治るけど……。記憶メモリに足を引っ張られ過ぎてて、気付いたらこの様」

 「なるほどな」と言うように、あずさは溜息を吐く。小枝子は、中断していた作業をまた開始し始めた。

「おい、諦めたんじゃないのか?」

「諦めるわけ無いじゃない。自分の娘をこんな所で見殺しにする母親がどこにいるとでも?」

 小枝子がそう言いながら、修理を進めていると、まるで風のように何者かが入ってきた。

「修理は進んでいますのかしら?」

 その声に反応して、咄嗟に振り返る二人。振り返った先にいたのは、一人の少女。漆黒の振袖を纏った少女だった。

「何故だ。こいつは我々が「あの日」に止めたはず」

「あずさ、落ちつきなさい。この子は、赤姫じゃないわ」

 小枝子の言葉を聞いて、少女は「ニコッ」と不敵な笑みを浮かべる。

「嬉しいですわ、お母様。まだ覚えていて下さるなんて」

「そりゃそうでしょ。私があなたを生みだしたのだから」

 小枝子の目が鋭く尖る。それを見ても、少女は、怯む事無く、笑みを浮かべていた。

「あらあら。何もそこまで警戒しなくてもよろしいのよ?ねぇ、お母様」

 少女が小枝子に手を伸ばそうとした瞬間、恐いぐらい鋭く尖れたくないが足元に飛び込んできた。

 少女は、少し身を引き、体勢をとる。

「小枝子様。遅くなりました」

「ちょうど良い時に、帰って来てくれたわね。ありがとう」

 一体の男性のからくりが、小枝子と少女の間に割って入る。外見からすると、忍者。あるいは、

「おや、まだいらしたのですね。暗殺者さん」

「そちらこそ、久しぶりです。殺人鬼さん」

 両者、狂気じみた笑みを浮かべながら、見つめ合う。殺気を殺気で掛けたような威圧感が、その場に君臨する。

「貴様にもからくりがいたのか」

「ええ。公表はされてないけどね」

 小枝子はそう言うと、自分のからくりに命令をした。

「赤姫の避難準備をするわ。未来(みき)は黒姫を出来るだけ引きつけて」

「了解しました」

 小枝子から命令を下されると、未来(みき)と呼ばれるからくりは、黒姫に戦闘を仕掛ける。

 鋭く尖れた小刀を、黒姫に勢いよく突き刺そうとする。が、黒姫はひらりと、風の如く交わす。

「そんな攻撃では、ワタクシに傷一つ付けられ――」

 足元で、何かが爆発する音が聞こえた。黒姫は、自分の足を確認する。すると、さっき床に突き刺さったくないが、粉々に崩壊していたのだ。破片からは、煙が上っている。爆発したのだ。

「なるほど。そういうことですか。なら――」

 黒姫はそう言うと、一回転し風を作りだす。そして、消えた。

「逃げましたか」

「逃げてはいませんよ。ただ、少し徘徊させてもらいますわ」

 どこからともなく黒姫の声が聞こえてくる。しかし、姿も形も見当たらない。

 未来は、辺りを確認した後、すぐに小枝子達の後を追った。



「はぁ……はぁ……」

 点滴台を支えに、整備室を目指していた武蔵だったが、目覚めてすぐにこうして歩くのも無理があった。息切れをし、体中からたっぷり汗が沸き出る。傷口も痛み、一歩を繰り出すのが精一杯だった。

 くっ。足が言う事を効かなくなってきてる。だが、もう少しだ。出入り口が見えてきた。あと十数歩と言ったところか。がんばらないと。

 武蔵は再び、足を踏み出す。その時だった。陰から少女が出てきた。出てきたというよりも、現れたと言うべきか。

「不快ですわ。あのような者に、菊夜京様から授かれたこの足を汚されるなんて……」

「赤姫っ!」

 その少女を見て、武蔵は咄嗟に叫んだ。

 夢に出てきたあの少女だった。金色の朝顔が描かれた黒い振袖に、鮮血を塗ったような赤いスカート。そして、闇夜のように黒く長い髪。紛れもなくあの少女だった。

「赤姫?それはワタクシの事ですか?」

「ああ、すまん。あんまり似てたから、つい……いたっ」

 武蔵は少女に謝罪をした。しかし、腹部に痛み出てしまい、押さえる。

「怪我をしていらっしゃるのですね?」

「ああ、いろいろあってな」

 少女はそれを聞くと、何かを考えるように宙を見る。そして、武蔵に警告してきた。

「その、あなたが言う赤姫、でしたね。その子が今大変な事に巻き込まれてましたよ?」

「どういうことだっ!」

 武蔵の尋常じゃない様子を見ると、少女は不敵な笑みを浮かべた。

「詳しくは知りませんが、赤姫という子は――」

 少女は一息吐くと、何かを創造するように、武蔵に告げた。それはあまりにも、辛く、厳しく、残酷な事だった。

 

「――殺されるようですよ」


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