第拾参話 嗚呼! からくりよ! その六
屋上。ひときわ高い場所に設置された学校の施設。しかし、その使用目的は謎。何かがあるわけでもないし、誰かが必ずしもいる訳でもない。全く謎の施設なのだが、今そこに二人の生徒とそれに仕える三体のからくりがいた。
「いやぁ、何でこんな事になってしまったのかな、つばささん」
「……」
疾風はつばさに説明を求める。しかしつばさは黙ったままだ。なんとなく、雰囲気だけからしてかなり虫の居所が悪いようだ。
「あの、黙っていても分からないんだよね、つばささん?」
「……あなたが」
つばさは両手を思いっきり握りしめる。刃を食いしばり、目は鋭く釣り上がってきている。そして言い放った。
「あんはんウチの股間に顔を突っ込んでけたんでしょ!」
つばさはそう言い放つと、背中に担いだ盾型の専用武器である鬼夜を下ろし、その名から弓矢を出すと疾風に狙いを定めた。
「ほなさいなら……」
つばさは矢を放った。しかし、その矢をとっくの前から狙いを定めていたように銃弾がその軌道を変えた。
「おお、すまない紅桜」
「早くその場から離れろ。でないと、銃弾鼻に突っ込むぞ」
紅桜と呼ばれる女性のからくりに疾風はそんな笑えない冗談を言われ、すぐにその場所から離れた。何が笑えないかというと、すでに銃口を向けられているからだ。鼻に。
「姉さん! 疾風さんはボク達の主人なんですよ! そんなことしたら……」
男性のからくりが紅桜にそう忠告した。すると、紅桜はスタスタと近寄り、そして、唐突に抱き付いた。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ~。お姉ちゃんがいるから安心して……。おい、何見てんだ? 打ち抜くぞ?」
その光景を見ていた疾風にいきなり人格が変わったかのように言い放つ。疾風は笑いながら両手を挙げた。そして、後ずさり。完全に悪党である。いや、そうなのだが。
「あいつら射ぬいてやる……」
つばさは再び疾風に狙いを定める。が、後ろから腕をがっちりと掴まれ押さえられてしまった。
「ちょ、何するのよ鬼兜っ!?」
後ろから押さえてきたのは、鬼兜と言われる鎧を纏ったからくりであった。顔は鬼の仮面を付けているため分からない。
「つばさ殿、いくら頭に血が上っているとはいえ少しやり過ぎでござる」
「じゃ、じゃあ鬼兜だったらどうするわけ?」
「せ、拙者なら、そうでござるな……」
鬼兜は少し考えてから行動に移した。つばさは自分で頼んでおきながらも少し引いていた。その動きに。
「あのぅ……」
「何?」
鬼兜に強烈な喧嘩腰を向ける紅桜。しかし、鬼兜はそれに怯む事無く続けた。
「あなた達とは戦う気は全くないので、とりあえずそこにいる男の人を差し出してもらえませんか? 鬼兜からのお願いですぅ❤」
それは、似ても似つかないつばさの真似だった。
鬼兜がそう言った瞬間、銃口が向けられた。鬼兜はそれを腰に備え付けていたハリセンで必死に防ごうとする。
「アタイの夜桜に手を出そうとは、余程死に急いでいるようだね?」
「いや、拙者そう言うわけではなく、ただ、つばさ殿に見本をしていただけであって、決して夜桜殿に手を出そうとは思ってないでござ――」
言っている途中だった。引き金が引かれた。辺りには銃声が鳴り響き、ただただ唖然。しかし、引き金を引いた本人も唖然としていた。
「な、何故だ……。何故、貫通できない……」
放たれた銃弾はハリセンを貫通していなかったのだ。相手は紙。何十も折り重ねられた紙。ただ、何枚おり重ねたのかは謎。したがって、何枚も折り重ねられた事によりとてつもない防御壁を持った。まさに最強のハリセン。
「危なかったでござる……」
鬼兜は少し冷静を取り戻し、今の状況を呑みこむ。この場にいる全員が自分を見ている。視線をそらさずに、ただひたすら自分を見ている。自分が中心になっている。
鬼兜はぷるぷると震えだし、そして、
「は、恥かしいでござるぅぅぅ!」
つばさに飛びつき、抱き倒した。つばさが倒れた反動でスカートがめくれる。それを見た疾風は一瞬で鼻血を噴き出す。一滴も残らせないくらいに。
「鬼兜! 今ここで抱き付く事が一番恥かしい事だよ!」
「はっ! 言われてみればそうでござる! あぁ……恥かしいぃぃぃ!」
「続けなくていいよ!」
しばらつばさは鬼兜から解放されない事が決まった。その光景を見ていた紅桜は夜桜に話を持ちかける。
「ほら夜桜。お姉ちゃんの胸に飛び込んできていいんだよ~」
「いや、あの人たちの真似をしないでください!」
「えいっ!」
紅桜は自分から積極的に夜桜を抱きしめる。夜桜は必死に逃れようとする。いや、苦しくてもがいていると言うべきか。
「め、めえはん……むにゃへ、むにゃへふるしい……(ね、姉さん……胸で、胸がで苦しい……)」
「あぁ! どうしてこんなにちっちゃいんだろぉ! 自分の弟だとは思えないくらい可愛い!」
夜桜の苦しみの訴えも空しく、抱きつき時間は継続されるのであった。そして、そうしている間に今日の終わりを知らせる鐘が鳴るのであった。
☆
「あ」
赤姫は鐘に反応し、声を漏らす。
「どうにか終わったな?」
「終了いたしましたね」
「終わりましたね」
「終わったわね」
武蔵、赤姫、秦、音無蜂の四人は確認し合う。確認し合うと、数秒の沈黙が場を包みこむ。そして、武蔵は切りだす。
「それじゃ、帰るか。寮に」
本日これで終了也。
とりあえず、からくり編はここで終了します。
次回の話は今回の話の裏側のさらに裏側の話になります。




