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<五>予期せぬこと

 家族の帰宅を待つ華子に突然予期せぬ凄まじい不幸が訪れた。両親と昭雄の三人が乗った観光先のバスが崖に転落し三人とも事故で亡くなってしまったのだ。福島県警察本部から連絡を受け、華子は叔母と懸命に連絡を取ろうとしたが電話は一向につながらず叔母からの連絡もない。事故の現地へ行っても叔母の姿はなく行方は知れない。華子と昭雄が小学生時代に世話になっていた叔母の家も、今では華子が住所を知らない神奈川県へ引越してしまっていたので、完全に連絡のすべを失ってしまった。

 華子の提案した還暦お祝い旅行があだとなり、幸せだった家族を一遍に破滅させることになった。華子にとっては余りにも悔いの残りすぎる唐突な結末だった。家族以外特に親しい友人の居ない華子は、突然天蓋孤独の身となって心に大きな穴を空け、失意のどん底へと墜ちた。そして華子は仕事にも行かなくなった。抜け殻の様になった彼女はその後どうやって生活をしていたかすら記憶に留めることをしなかった。

 もしかして華子は、まるで性格が変わってしまったのかも知れない。それまでとても温厚だった彼女の性格は一変してヒステリックになっていった。

 

 ドーナツのファストフード店に行った時のことである。

「いらっしゃいませ、こんにちは」

 よく応対を教育されたアルバイト店員である。満面の笑みを浮かべて元気に、そしてにっこりと微笑む。

 華子はドーナツを十六個トレーに乗せレジに置いた。一人四個づつ、亡くなった家族の分も買わずには居られなかったのだ。そこで、店員が微笑みながら言う。

「お持ち帰りですか? それとも店内でお召し上がりですか?」

 華子の顔色が変わった。

「あのね。あんたね。人のこと、馬鹿にしてない? どこの世界にお店で一人で十六個もドーナツ食べる人がいるっての!?」

 華子はまるで般若の面のように目を吊り上げて言った。店員はマニュアル通り、ただそう確認するように教育されているだけなのだ。

「そう。何も言わないってことはあんた。そういう人もフツーにいるってことね。じゃああなたドーナツ十六個フツーに食べてみなさいよ」

 店員は泣きそうである。それでも華子の容赦ない攻撃は続く。

「そう。出来ない訳ね。じゃああなた。私が下半身デブだから当て付けに言ってるだけ?」

 奥でこれを聞いていた店長らしき男性が慌ててレジの前へ来た。

「……あの……デッ、デブは関係ありません。そういう意味じゃありません。デブは……」

「あんたね。とうとう私のこと今『デブ』って言ったわね。しかも二回もよ。このお店では客のことデブ、デブって言うの。ええ? 何とか言いなさいよ。どういうことなのか今すぐ詳しく説明しなさいよ! 詳しくよ!」

 華子の話は完全に因縁をつけているとしか思われず訳が分からない。

 しかし、若い店長らしき男性も窮地に追い込まれたのか、訳の分からないことを口走った。

「……あの。詳しくと、と言われましても。くっ、詳しくはウェブで……」

「ムムム。あなたそういうこと言う訳ね。分かったわ。もういい。食べてやる!」

 店の客は目立たないように席を立ちこそこそと出て行った。

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