<十三>驚愕の遺影
華子に連れてバスに後ろから入ってきた彼女の面影はかつてどこかで会った人のような気がする。もしかして江本麻紀さんではなかったか。そういえば、ややエラの張った四角い顔や細い目が江本麻紀さんの面影と重なる。
華子が葬儀場に着くと叔母さんが会葬者席の最前列の右端で立ち上がってきょろきょろとしていた。落ち着きなく見回すその姿は弔問客の中で突出して目立っていて、まるで動物の『ミーアキャット』のようである。叔母さんは華子の姿を見るや大きな声で「華ちゃん、華ちゃん」と叫び、手招きした。
―― 目立ち過ぎ! 恥ずかしいじゃないのよう。
華子は皆の注目を浴びながら真っ赤な顔で列の最後に並び、一人最後にお焼香をあげた。
ところが、正面には遺影が十数枚横に並んでいて思いもかけない光景に華子は驚いた。合同葬だったのだ。
左から二番目。
そこにはたった今、華子を手招きしていた叔母さんの遺影があった。
驚愕の瞬間だった。振り向いて叔母さんの立っていた席を見やる。そこには全く知らない男性が座っていた。周辺にも叔母さんの姿は見えない。華子は混乱した。叔母さんは一体どこへ行ってしまったのだろう。バスにいた女性が忽然と消えたのと同じく、叔母さんも元々いなかったかのような雰囲気さえ華子は感じた。しかし、昨日の江本麻紀さんの葬儀の連絡や「待ってるのにどうしたの」と電話してきた人は叔母さんでなければ一体誰の声だったのだろう……。
華子は無理矢理自分の心を落ち着かせ、ゆっくりと人の顔の記憶を確認しながら正面の遺影を順に右の方へと見ていく。叔母さんの隣から七人は誰だかわからない年配の男性や女性。しかし、左から丁度十人目。そこには江本麻紀さんの顔があった。先程バスの中にいた四十歳前くらいに見えた女性だ。いえ、三十六歳になった麻紀さんだ。はっきりと正面から遺影を見て今度は間違いなく麻紀さんを確信した。
―― 麻紀ちゃん……。あなたは私に会いに来てくれたの?
―― そして、昔のように私の手を引っ張りに来てくれたの?
今回の弔問は華子にとって不可思議なことばかりだった。
江本さんの右、名前は思い出せないが確かにクラスメートだったと思う女性。
そしてその右。そこには何と亡き父と亡き母と、そして亡き弟昭雄の遺影があった。
―― 何故!? 何故? 私の家族が……!
華子は何かがおかしい、何かが違う、と思い後ろを振り返った。
弔問客は普通にしていて、何も異常な状況ではない。
華子は再び気持ちを整えて遺影を見た。弟、昭雄の遺影を見ながらゆっくりと視線をその右へと移した。
そこにはさらに驚いたことに、自分にそっくりの顔が微笑んでいた。
―― 何故! 何故! 何故私の遺影が!?
―― それでは、今ここにいる自分は一体どこの誰?
華子の疑問符はここへきて頂点に達した。
かつてのバス事故は、自分も含めてその全部の命を奪ってしまっていたのか……!?
そんな筈はない!