<十一>弔辞
「随分と久しぶりね。久しぶりに会うのがこんな形になるだなんて、思いもしなかったわ。とても残念です。そして悔しいです。あの時のことは時が経った今でも私、はっきりと記憶しています。忘れる筈などありません」
「私は生きることがとても不器用な人間でした。私はクラスの、あるグループから苛められていました。給食の布巾をトイレに捨てられたり、黒板消しをランドセルに入れられたり……。私が泣いていた時、周りの友達は私を慰めてくれました。でも、あなたは違った。そうよね。覚えてる? あなたは相手の家に押しかけて行って親に直接抗議してくれたと聞いたわ。私は自分が情けなくなった。その時は只々自分が情けないと思うことだけだったけど、時が経つにつれて、段々とあなたの勇気というか、『凄さ』を感じるようになって今では感謝の気持ちで一杯よ」
遺族の顔色が段々と変わっていった。しかし、そんなことにお構いなしに華子は続けた。華子の目には涙があふれてきて声が涙声になった。
「あなたはいつどんな時でも全力投球。私は逃げることばかり。だから私はいつでも同じ場所でうろうろしている。でも、あなたは一歩一歩階段を上がって行ったわ。それでもあなたは決して一人で上がろうとはしない。私にいつでも無言で手を差し伸べてくれて引っ張ってくれたわ。勉強も、遊びも」
「なのにどうして? どうして今回だけは私を残して先に昇って行っちゃうの? 何で? どうして手をつないで私を引っ張って行ってくれないの? ねえ教えてよ。こんな筈じゃないのよ」
遺族の顔が愈々赤みを帯びてきた。それでも華子は気にせず続ける。
「あの世へ旅立ってもあなたは私の心の中に生き続けるのよ。ねえ、それならいいでしょ。嫌とは言わせないわよ。だって私は一人で生きていくことが出来ないから。そのことを一番よく知っているのはあなたよね。ねっ!」
静まりかえった式場に華子の声が響き渡っていた。一生懸命な涙声であれば、『麻紀ちゃん』にも届くかも知れない、と華子は必死だった。ふう、と深呼吸してから、最後の言葉につないだ。
「有難う本当に、本当に有難う」
「故人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。華子より」
拍手が沸いた。遺族はどうなのか。感涙に震えている様子がはっきりと見てとれた。故人の母親はよたよたと華子のもとへ歩み寄り、お辞儀をして一言、「ありがとね」と言った。その目は葬儀が始まった時とは打って変わって力強く、涙も無い。何かが吹っ切れたような表情だった。華子は、優しく微笑んで深々と頭を下げた。葬儀社の男性が一際大きな拍手を送っていた。
―― 麻紀ちゃん。さようなら。